試験
寮に住み始めてから、10日が経過し、生活にも慣れてきた。
「あれ、俺のプリン知らない?」
「えー? しーらないよー」
「おい……このゴミ箱のプリンの空容器、なんて説明してくれるんだ?」
「あらら、えっと……大変だっ!! 泥棒かっ」
「律儀にゴミを捨てていく泥棒がいるかっ!! たくっ、もういいや。 準備はできたの?」
「うっ、うん。 でも、わかってたけどかなり緊張するね」
今日は、学校に入るための入学試験の日である。
「まぁ、大丈夫だろう。 10日間みっちり特訓したんだから」
「レム……でもね。 僕、本番に弱いんだ。 もし緊張とかして……やばくなったらどうしよう」
「そんなに緊張することじゃないと思うけどなぁ。 こう、手のひらに人人人って書くのは?」
「それ、効いた試しがないんだよ」
「じゃあ、頭の中に好きな人を思い浮かべてだな……」
「うんうん。 思い浮かべて?」
「そいつとの初デートにどこ行きたいか考えるんだ」
「え? なにそれ」
親指を立てて、ナギサに見せつける。
「じゃあ行くか」
「あ、うん」
俺たちは、会場に着くと、そこにはもう、人だかりができていた。
人だかりの中心には、高そうな服を着ている凛とした女性がいる。
「なぁ、ナギサ。 あれ誰?」
「えっと……あぁ、あの人? アリアさんを知らないなんて……やっぱり常識知らずだね」
「アリア……さんねぇ。 すごい人なの?」
「世界を救った伝説の勇者のパーティである武闘家オーガの娘だよ。 その実力は、折り紙つき、血統書付きだね」
「へぇ。 すごくどうでもよかったな」
「そう? 僕はサインが欲しいくらいだけどね……あ、僕とレム、会場が違うみたいだ。 また後でね……」
「あぁ。 後で……緊張、大丈夫か?」
「えっ、あぁ。 うん、今は大丈夫」
俺は、ナギサの手を取って握った。
目と目が合う。
「大丈夫だ。 お前ならきっとやれるよ」
「……はっ。 う、うん。 ありがと、じゃあ行くね」
ナギサが頬を赤らめて、別の会場へと行った。
くそっ、妙に意識しちまったじゃないか。
で、会場はここであってるはずだけど、いつ始まるのかな。
などと考えていると、試験管らしき女性が点呼をとる。
名前を呼ばれたら、返事をして、的の前に立つ。
そして、試験の開始だ。
最初に名前を呼ばれたのは……
「最初は、レムナント。 お前は……王からの推薦だな」
俺だった。
返事をして、的の前に立つ。
「あれを撃ち抜けばいいの?」
「あぁ。 だが、実力は聞いている。 満点にしてやるから手を抜いてくれないか? 周りの自信を削ぐような事にはしたくない」
小声で耳打ちをされた。
「手を抜くって、どのくらいで?」
「お前の裁量に任せる……と言いたいところだが、王からの話によると、とんでもない常識はずれらしいじゃないか」
「それは、良い噂が流れているようで」
「どうなんだろうな。 だから、あの的にぶつける感じで頼む。 ダメージを与えないくらいだ」
「分かった。 やってみよう」
ダメージを与えないくらいか。
……て加減が難しいが、このくらいかな。
指先に、弱い火球を作り、射出する。
火球は途中で消える。
「あれ? 失敗か」
そう思い呟くが、その後、的の胸あたりが一気に焦げ広がっていった。
「おい、やべえぞ一番手のやつ」 「一瞬、雑魚かよって思ったけどなんだよあれ」 「化け物か?」
後ろで見ている人たちから歓声の声があがった。
「……手加減しろといったはずだが?」
「手加減してあれなんだけど。 難しいよやっぱり」
出力を下げればいいという話ではないらしい。
むしろ、出力を下げたのに、思ったより威力が下がらなかったな。
要研究だが、むしろ威力をあげることもできそうだな。
「まぁいい。 つぎは剣の試験だ。 向こうから出て運動場へ向かえ。 つぎ、ラース」
俺は、支持に受けた通り、運動場に向かった。
そこには木刀を持つ試験官の先生と、地に刺さるもう一本の木刀があった。
「お前がレムか……話は聞いている。 実力をあまり公開したくないのだろう? 早く始めようか」
試験官の先生は、木刀を構えた。
俺は、地に刺さるソレを抜き、同様に構える。
「別に、俺の手法に合わせる必要はない。 好きにやればいい。 試験方法は……そうだな。 話が真実であれば、不足はない。 俺に勝てば合格としておけばいいだろう。 どうだ?」
「それでいいけど。 勝ち負けってどう決める? 命の取り合いをするわけじゃないんだろ?」
「たしかに、そうだなぁ。 負けを認めたら、負けでいいだろう。 ちなみに魔法の使用はなし。 いいか?」
「わかった。 始めよう」
「よし、はじめっ!!」
先生は、すり足でこちらににじり寄ってくる。
俺は、木刀を片手に構え、先生を中心に回るように動いた。
その円は、だんだんと小さくなっていき、お互いの攻撃範囲に入る。
その瞬間、先生の攻撃が始まった。
一瞬で距離を詰められ、鍔迫り合いがおこる。
「さて、右か、左か……読み合いは苦手か?」
「確かに読み合いは得意じゃないけど……これならどうだ」
ただ、単に全力で押す。
それだけで、先生の身体は後方に飛んで行った。
先生は着地をして、こちらの間合いを詰めようとしてくるが、刀を振り、フェイントを入れる事でその行動を止めさせる。
「パワーは目を張るものがあるな。 だが、スピードはどうだ」
先生は、俺の周りを走り、ヒットアンドアウエーで攻撃と離脱を繰り返す。
先生には悪いが、正直遅く見える。
攻撃は全て受け止め、その後に反撃の動作を見せる。
その甲斐があってか、先生の攻撃にためらいが見られるようになる。
そして、隙を見つけ、攻撃を弾いた後、フェイントと高速の移動にて、全方位からの攻撃を見せる。
それに、先生の足が止まる。
後は、止まった足をかけ、転ばせて制圧する。
「俺は……何をされたんだ」
「先生も、悪くなかったよ」
正直、学校のレベルがこんなものとは思っても見なかった。
こんなところで、俺が学ぶことがあるのだろうか。
俺に足りないものがここで見つかるのだろうか。
……まぁやっていくしかないか。
本日の試験が終わり、ナギサからうまくできたと報告を受ける。
そして、試験結果の日がやってきた。




