テスト対策
そこは、バザールの中にある、屋台だった。
西洋の街並みの中に、一つ何か異質を放つ店がある。
そこの暖簾をかき分け、ナギサは普通に入っていった。
「どうもーおっちゃん」
「らっしゃい。 1人かい?」
「ううん。 2人だよ。 ほら、レム座って」
中からナギサが手招きしてきた。
これ、ラーメン屋か?
「あぁ。 ここは何の店なんだ?」
俺は、中の椅子に腰を掛けながら聞く。
「んー。 そりゃ食べてみてのお楽しみだな。 それか当ててみるか?」
「いや、おっちゃん。 流石に当てるのは難しいでしょ」
「いや、案外当てることができるかもよ?」
俺は、少し挑発に血を巡らせながら、言い放つ。
「ほう、 おっしゃ。 じゃあ坊やが当てることができたら、会計はタダにしてやるよ」
「おっ、おっちゃん太っ腹ー。 レム、頑張って当ててね」
えらく気前のいい店主だな。 あるいは、絶対に当たらないとでも思ってるんだろうか。
よし、当ててやる。
「ラーメン屋……どうだ? 当たりかな」
その答えを聞いた2人は、表情を強張らせていた。
「驚いたなぁ。 なんだ坊や。 おまえラーメンを食べたことあるのか?」
「いや、ないよ。 だからちょっと楽しみだ」
「レムって、常識ないくせにこういうことは知ってるんだね」
「ナギサ、何か言ったか?」
「いーえ。 じゃあおっちゃん、タダ飯ごちっす」
「あ、そうか。 ごちそうさまです」
「かーーっ。 しゃーねー、そのかわりほっぺた落としても知らないからな」
結論から言うと美味しかった。
博多ラーメンが近いのかな? 動物性の出汁をよくってあり、コクがある。
一度すすると、匂いが口内に立ち込める。
なによりもボリュームが良い。 食後の満足感はたまらないものであった。
隣で食べるナギサは、少し長い髪を耳にかけ小さな口でそれを食べていた。
悔しくも少し見惚れてしまって、それをナギサに指摘されたのがちょっと恥ずかしかった。
くそっ、男のくせに。
「なーにやってるの? 早く行くよ」
「ちょっと待ってくれよ。 流石にハイペースすぎるぞ」
食後は、また買い物が続いていった。
いろんな店を嵐のように渡っては、試食やら、試着やら、挙句には不用品に見えるものまで購入していく。
幸い、郵送が可能なため手荷物が……ということはなかった。
しかし、色々な店を回るというのもかなり疲れるものだ。
「ていうか、どうしてそんなに女物の服ばかり買うんだ? お前男だろ」
「うん。 男だよ? でもさ。 男が女物の服着ても良くない? ほら、似合ってるでしょ」
先ほど購入したワンピースを着こなして、それを俺に見せびらかしてくる。
たしかに、似合ってはいるが。
「似合っているいないの問題じゃないだろ」
「へぇ。 似合ってるのは否定しないんだ……もしかして、こういうのが好み?」
「……ノーコメントで」
「あははっ。 レムそれじゃあ本日のメインディッシュ行こうか」
「メインディッシュ?」
「うん。 ついてきてきて」
連れられたのは、これまた大きな建物。
ここは、寮の近くになるが。 なんの施設だろう。
「はい。 ここは国立訓練場です。 本来学校の施設なんだけど、一般公開もされてるよ」
「へぇ。 で? ここで何をするんだ?」
「なにって。 テスト対策だよ」
「テスト……があるのか」
「そーに決まってるじゃん。 面白いなぁレムは」
「バカにしてる?」
「うーんと、少し」
「そっか。 へぇ。 中はかなり広いなぁ」
中へ入ると、外観の通り、かなり広い造りとなっていた。
東京ドームぐらいなのか? 東京ドーム行ったことないからわからんけど。
「はい。 これ腕につけて」
ナギサが渡してきたのはワンデイパスで、腕に巻くタイプのものだった。
それを右腕に巻き、ナギサについて行く。
ナギサは、人型の窓があるコーナーまで来てそこに入っていった。
「でね。 レム、私実技が苦手でさ……みててくれない?」
「わかった。 いいよ」
「うーん。 たぁっ!!」
ナギサが右手を掲げると、そこに小さな火球が生まれた。
そのまま腕を伸ばし、火球を放つ。
しかし、それはまたから大きく外れて、床へと落ちていった。
「えーっと。 まずさぁ」
「はっ、はいっ!!」
「その掛け声なに?」
「予想外の着目点……こうすると集中できるんですよ」
「へぇ。 まぁじゃあ掛け声はいいや。 ちょっと背中触るからもういっかい撃ってみて」
「へっ、へいっ。 わかりやした」
俺は、ナギサの背中側に立つ。
こいつ、随分と華奢な背中してやがるな……なんて、今までも触らずにいるとあらぬ誤解をされそうだったので、さっさと手を置いた。
ナギサの体温を感じる……手汗大丈夫かな、俺。
まぁよし。 俺は、ナギサの背中から魔力を流し、接続した。
「じゃあやってみてよ」
「はいっ!! うーーー、たぁっ!!」
ナギサの身体を通る魔力にブレを感じる。
それを、外力で強制的にまっすぐにすると、火球が安定した球の形を型取り、それはまっすぐと飛んで行った。
「あれ? 当たる……当たった!! やったー。 ありがとー、レム」
ナギサがぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ。
いや、これを1人でできるようにならないといけないんだけどね。
「今の感覚わかった?」
「レムが背中からなんかしてくれたんでしょ? なんていうか……こう、魔力が安定する感じ」
へぇ。 こいつ、案外センスいいじゃん。
「その感覚が分かれば、あとは簡単だな。 今のを思い出しながら何度か撃ち続けなよ」
「う、うん。 やってみます」
たぁっ。 たあっ。 と、ナギサが溜めては撃ち、溜めては撃ちを繰り返した。
だんだん、またに近づいている感じはあるが、まだまだ、当てるには程遠い感じだな。
途中、背中から魔力の安定する感じを伝え、何度もトライする。
そして、閉館時間が近づいた時、奇跡が起きた。
「うぅーーー、 たぁっ!!」
その火球はヘロヘロの小さい球であったが、それは綺麗にまっすぐ飛んでいき、的の心臓部を捉えた。
「おぉ。 やったな」
「ううん。 もう一度……たぁっ!!」
次の火の玉も、ヘロヘロと蛇行しながらであるが、またを捉える。
「おめでとう。 努力の甲斐あったな」
「うん。 よかった……あっ!!」
ナギサが、急に大きな声を上げる。
そのため、俺は少し驚いた。
「なんだよ。 どうした?」
「レムが練習できてない……ごめんね。 ほら、最後の一回やってもいいよ」
「最後の一回て……まぁ、やってみるか。 じゃあせっかくだから、俺も火の魔法で」
人差し指を立てて、そこに魔力の渦を生む。
その渦は炎の性質を得て、酸素を媒介にして燃焼しだす。
炎の渦は一点に集まり、小さな火球となった。
俺は、それを指鉄砲にて、射出する。
的を捉えた火球は、その収縮を解放し、大きな燃焼核を作り広がっていった。
「こんなものか……どうだ? 参考になったかな?」
「いやいや。 僕とはレベルが違いすぎて……ぱないね。 レムは」
「やっぱりこれは普通じゃないよな……普通はどのくらいの物なのか聞いてもいいか?」
「うーん。 それでも平均下くらいだよ。 本番ではもっと全力でやらなきゃね」
「そうか。 平均下ねぇ。 まぁ真ん中くらいで目立ちたくないし、もう少し本気出すか」
「へ? 今のは冗談……あ、なーんだ。 レムも冗談だよね」
「ん? なんのこと?」
「ううん。 なーんでもないよ。 それより、閉館時間だよ。 帰ろ」
閉館のアナウンスが次第に間隔が短くなり、さっさと帰れと訴えてくる。
「ねぇ、レム。 絶対受かろうね」
「あぁ。 当然だ」
夕日に包まれ、2人は道を歩いていく。
道路を何度か渡り、もう少しで寮に着くという時、俺は、大事なソレを見落としていることに気がついた。
「あっ、レム。 危ないっ!!」
道路には、馬車が通っている。
信号は、緑色に染まっている。
全てを察した。 また、やらかした。
俺の体は少し飛び、地に落ちた。
「あぁ。 しまった。 青信号が止まれだった……すまない。 あなたや馬にけがはありませんでしたか?」
「え? あぁ。 全部無事だが……君は大丈夫なのかい?」
「あぁ、俺は大丈夫だよ。 面目無い」
「えっと、次からは気をつけるんだよ」
「ありがとう」
土を払い、ナギサの元に戻ると、ナギサは呆れた顔をしていた。
「君が常識はずれだってこと、ちょっと忘れてたよ」
ナギサにそう言われた。
が、そのあと、同じ言葉をナギサに返すことになる。
家に着くと、大量の荷物で中へと入る余地がなかった。
「ナギサこそ、常識からちょっと外れてるんじゃないか?」
2人は顔を合わせ、笑い、荷ほどきをしていった。




