忍び寄る悪意
~ニルヴァーナ寂れた酒場~
ニルヴァーナのメイン通りから少し離れた裏路地に入った場所にその酒場があった。
その酒場は人の目を気にする者には格好の場所であった。
「おい、予定通り姫さん達は学院に入ったな?」
男はその体格とは裏腹に低く小さい声でそう言った。
「はい、確かに確認しました。クリスタ、ベルサル、マルガ、ソレビア、グレッドの5か国の護衛車がクリスタ女学院に入ったのをたしかに見ました。」
フードを深く被った痩せた男はそう呟くかのように男に報告した。
「いいか、手筈通り必要な物を準備しておけ。」
「でも、大丈夫なのか?女学院に浸入するなんて護衛は本当に大丈夫なのか?」
「なにを言っている?所詮は女だぞ?女がいくら剣術をかじった所で俺達のように実戦なんてやるわけ無いだろう。
もし、剣術が出来ても実際に人を切る事なんてできないだろう。」
この世界では騎士は殆どで、女性の騎士は全体2%程だった。クリスタ女学院には各国の女騎士が護衛としているが実戦で戦った事があるものは数人しかいなかった。
『人を殺す』それはとてつもないストレスなのである。
訓練とは違い実戦とは人の命を奪っていかなくてはいけない。最初に人を殺すと最初に興奮のあと罪悪感に襲われるのである。人はストレスから逃れる為にそれに慣れていくのである。
つまり人殺しに慣れる。
実戦を経験している者にとって『躊躇い』は絶好の隙なのである。
「確かにそう言うとそうですね。」
「それに、実戦を経験していても俺達の手下を入れれば20人を超える人数で対応出来るとは思わないよな?」
「まあ、いざとなったら人質と言う手があるしな。」
「その通りだ、それに王女以外ならその後なにをしてもいいんだよな!」
男の一人はゲスな笑いを浮かべながらそう言うと
「ああ、王女以外は好きにしていいぞ。」
「マジっすか!?」
男達は一斉に沸き上がった。
「だが忘れるなよ、俺達の目的は王女を確保し各国に『盗神』の名を轟かせる事だ。」
『盗神』とは盗賊、海賊、山賊の闇ギルドであった。各国のさまざまな闇を裏で操っていると言われているのだがそのリーダーは誰なのかも幹部ですらしらない組織であった。
「いいかお前達、俺達は修羅場の数は自信があるがここ数年、5か国からの取り締まりが急に強くなった。
特にクリスタ国は関税を廃止して入国がしやすくなったと思ったらまるで読まれているかのように同士達は次々と捕まった。
しまいには『盗神』の名を出しても知らない者までいる始末だ‼」
男はテーブルを強く叩いていた。
「いいか、今回は王女達を人質にし他の者は金になりそうな奴以外は皆殺しで再び『盗神』の名を世界に知らしめるのだ!」
男達はギラリと目を輝かすと
「「「「我ら『盗神』の名の下に!」」」」
しかし男達は知らなかった。王女達が入ってから少し後にトウカ・イザナが学院に入った事を。
~トウカ個室~
男達が酒場でそう叫んでいた調度その時、トウカは自室に戻り魔法の練習をしていた。
自室のベッドに腰をかけ空中に魔力を刃だけのナイフを漂わせていた。
「まずは、こんなモノかな?」
その数は12本ものナイフが円を書くように飛んでいた。
トウカがやっているのは魔力のコントロールであった。空中に舞っていた刃は最初は単純な動きしか出来なかったが次第に刃が複雑な動きをし始めたのであった。
12本の刃は練習を始めて3時間後にはそれぞれに意志があるように動かす事が可能になっていた。
「さすがだな、この学院の担任に選ばれるだけはあるな。」
この練習方法は夕食の後、マリカに話かけられたのであった。
「トウカちゃん、あなたは魔力の操作が苦手じゃない?」
「えっ?」
「夕食前にあの黒い獣を倒したのを見たけど、あの綺麗な剣に魔力を通しただけで魔法は使わなかったわね。
今日、トウカちゃんを見た時に膨大な魔力があなたの身体から溢れているのをみたから魔法の方が得意だと思ったものだけど、もしかして力のコントロールが苦手なのかなって?」
いきなりトウカの魔法の事を言い当てられ驚いていた。
「良くわかりましたね?確かに私の魔力は強すぎる為コントロールが苦手です。
しかし、これでもコントロールの練習は頑張っているのですよ?」
平然を装いながらトウカはいつもやっている魔力のコントロールの練習をやってみた。
「トウカちゃん、この練習方法は確かに良いんだけど~もっと効率のいい方法を教えてあげる。
トウカちゃんは剣に魔力を送っていた時は綺麗に魔力が送れていたからこの刃に魔力を流して空中で操って見て。慣れたら数を増やすと良いよ~♪トウカちゃんの場合はこの方法の方が力の調整がしやすいでしょ?」
トウカは自室に戻り投擲用に作ったミスリル製の刃に魔力を流し練習をはじめたのであった。
この練習は効果的だった。いつもの魔力の珠をコントロールする練習よりより細かい制御や正確な動作もできるようになっていた。
「このままでも十分使えるな。」
魔力を流した刃は物凄い切れ味で音もなく目標を切り刻み貫く事が出来る威力だった。
「名前を付けようかな?」
オリジナル技として名前をつけると言うのはトウカにとって楽しみの1つだった。
「牙がいいかな?」
柄の無いナイフは爪の様にも牙の様にも見えた為、安直につけたのだった。
夜もふけてトウカはベッドに横になっていた。あわただしく過ぎた1日はこうしてようやく終わったのである。




