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Heart cake  作者: monokuromike
Chapter1 Development and signs
12/19

cooperation

ジャスは足の速いフェッティに何とか食らい付いて進むと、マスに辿り着いた。目の前の監視は、先程の音を聞いたのか少し動揺しているようにジャスは感じ取った。


監視はジャス達に気付き威勢するように言った

「止まれ!!」


ジャスは放つように言った

「さっきの音を聞いただろう!! 異常事態だ! とにかく早くターミナル地域に行く必要があるんだ!!」


監視は言った

「駄目だ!! 通せない!」


ジャスは監視に言い放った

「手を打たないとアトミック機能が低下し多くの人が犠牲になるんだ!! そこに信念を持って努めているのなら、誇りがあるなら、正しい道を判断するんだ!!」


監視は苦い表情をしながら言った

「——駄目だ!!」


ジャスは監視の核心をつくように言った

「自分の目で確かめろ!! その目で見て判断したなら、低下地域一帯にプレグシグナル(異常発生信号)を出すようエージェンシに伝えるんだ!」


監視はその言葉を聞き、微量に頷いた。


ジャスはフェッティに頼んだ

「フェッティ、監視を亀裂まで案内してくれ」


フェッティは少し戸惑っている。


監視の様子を見て、ジャスはフェッティに言った

「監視は理解してくれている——大丈夫だ。よろしく頼む」


「——わかったよ」

フェッティは静かに頷き了承した。



フェッティと共に行こうとした監視は足を止めて振り返り、ジャスに言った

「待て!」


ジャスは意表を突かれた表情をしている


「そこを、どけ」

監視にそう言われ、ジャスが反射的に体を移すと、監視は指に()めている装置をそこの空間に向け(電波を飛ばし)た。数秒だけ空間が波打つように光り、弾ける音が聞こえた


「ショックシールド(電流遮蔽物)が張ってあったようだな。エレキマン(電気男)になるところだったな」

したり顔で監視はそう言うと、振り向きざまに手を挙げ指を(こす)り、またなという意を込めてポーズをした。ジャスもそれに応え、ふっと笑いポーズを交わし合った。


ジャスは、マスから続く坂道を登り急いでターミナル地域に着くと、チクネス爺の家に飛び込み、そこにいるチィじいに向かって叫んだ

「おい!! フィルムに亀裂が入ったんだ、あんたなら防げるかもしれない! ここにいるクラフト達を集めて、急いで付いて来てくれ!!」


チクネス爺は驚いた様子で言った

「何!! それは誠か?! スン! スンを呼べ!!」


ジャスは言った

「スン?! 誰だ?! どこにいる?!」


チクネス爺は慌てながら言った

「わしの息子だよ!! 近くに住んでおる! 一緒に行くぞ!!」



外に出てチィじいに付いて行きながらジャスは思った。チィじいは大分年上に見えるがせかせかと足を動かして歩きが速い。数分でスンの家に着いた


「おぃ、スン!! 開けるのだ!!」

チィじいは慌てているのか、バザも押さずに家の扉を叩いてそう叫んだ


「何だよ!」

スン=チクネスの息子

スンは外に出て来て少し不機嫌そうに言った。チクネス爺は早口で(せわ)しく言った

「フィルムに亀裂が! 一大事だ!! 今すぐサボりマイスターを叩き起こせ! それから、ラナー(見習い)でもセルネム(自称)でもいいから技術に心得のあるクラフト達を集めるのだ!!」


スンはそれを聞き、家の中に戻りインフォ(通信No.を複数指定し一斉に声を伝える装置)で連絡をし始めた。


一方、チクネス爺はスンの家の横にあるスウェッジ(納屋)を(あさ)り出し、ジャスに言った

「機材Robotyを一式持っていかなければ! ジャス、これを持つのだ!!」


ジャスは運ぶ為、多量の機材Robotyをチィじいに投げられたが、そこにあるバックス(反重力箱)に入れたおかげか、あまり重みを感じなかった。


チクネス爺は近くにいたRobotyに駆け寄り、

「お主も手伝え! 付いて来い!」

と声を掛けていたが、Robotyは任務を従順にこなしていて聞く耳を持っていない。


そうこうしている間に連絡を受けたクラフト達が次第にスンの家の前に集まり、スンも幾人かのクラフトを連れて戻って来た。



その頃、プレグシグナルが一帯に鳴り、Roboty達がランドマーク(目印)のように間隔毎に並び、フィルム外の地域までのレフジルート(避難経路)を案内表示(Robotyの腹部辺りに映像を映し出し経路を指し示している。経路について質問応答可能)し出した


「急ぐぞ!」

ジャスはそう呼び掛けると、クラフト達を引き連れてフィルム外の地域まで駆け出した


「こっちだ!!」

地域のマス付近まで着くとフェッティが待機していて、ジャス達に呼び掛けた


「やっと来た、早く!!」

ジャス達が近付いてくるとフェッティはそう言いながら駆け出した。フェッティを先頭にジャス達は亀裂のある場所まで懸命に走る


<フィルム外地域奥>「はぁ、はあ、はぁ、まだ着かんのかー!」

チクネス爺はそう叫んだ。サボりマイスター達が歩き疲れて根を上げている


「着いたよ!」

フェッティが後列にいるジャス達にそう叫ぶと、皆、力を振り絞りラストスパート(残った力を使い目的地まで辿り着く事)をかけた。


亀裂のある場所まで辿り着いたジャスが、未だ必死に歩くチィじいに向かって叫んだ

「おい! じいさんがこっちに来て指揮を執らないと作業が始まらないぞ!」


見兼ねたスンがチィじいに駆け寄り、背負って走り出す。それを見ていたジャスと力の余っているフェッティが他のサボりマイスターに駆け寄り、背負って亀裂のある場所まで走った。



チクネス爺は息子の背から降りると、そこにいるリリバーに近寄り言った

「リリバー、亀裂のスタテス(状態)はどうだ?!」


リリバーは振り向き言った

「チクネス爺! 来てくれましたか!! 何とか亀裂のアドバン(進行)を遅らせる作業をしていたのですが、良くありません、急いでください!」


「わかった!! 作業を代わろう! 皆こちらへ来るのだ!!」

チクネス爺はそう言うと、クラフト達に呼び掛け、作業を始めた


10分程経過した後、リリバーはスタテス(状況)をチクネス爺にたずねた

「——どうですか?! あなた達の腕なら、何とか(ふさ)ぐ事も……」


チクネス爺は険しい顔つきで言った

「うむ……、思ったより亀裂が深い。アドバンをできる限り食い止めて、アトミック機能の低下をどの程度、遅らせる事が出来るか。——地域のレフジスタテス(避難状況)はどうだ?!」


リリバーはフェッティに言った

「フェッティ! 人がどの位ここに、レフジしているか見てきてくれ!」


「わかった!!」

フェッティはそう言い、地域をひとっ走りして確認すると1分も経たない内に戻って来た


「ターミナル地域の人はいたけど、あまりレフジして来た人はいないよ!」

フェッティは細かく息を吐きながらそう言った



リリバーは困った表情でジャスにたずねた

「どうしましょうか……。他の地域にもレフジを呼び掛けないと」


ジャスは言った

「プレグシグナルは鳴っているが、地域の人のスタテスが良く分からない。様子を見に行きたいが、移動装置が壊れている可能性がある、時間が掛かりそうだ。替えの装置でもあればいいが……」


それを聞いたリリバーは考え、皆にたずねた

「移動装置ですか?! うーん、此処に移動装置を持っている者はいませんか?!」


それを聞いたチクネス爺がくるっと振り返り、ジャスに言った

「息子、息子のスウェッジに旧型の移動装置が置いてあるぞ!! 旧型だが、きちんと動くはずだ!!」


ジャスは言った

「わかった!! 使わせて(もら)うぞ」


リリバーは行こうとしたジャスに近付き手を合わせ礼をした。ジャスは何事かと見ている、リリバーは言った

「合掌は供養の際にするものだけではありません、セフト(無事)を祈る意味もあるのです。どうか、お気をつけて」


「あぁ」

ジャスは勇ましい表情で笑みながらそう言い、手を挙げ指を擦り応えると、スンのスウェッジに向かった



<FCT施設前>「皆さん集まりましたか?! レフジしますよー」

サムはフラッシュマン達を動揺させないよう努めて言っている


「メントーーー!」

向こうからメントを呼ぶ声がした


「あ、ミセリお姉ちゃん!」

メントはそう言うとミセリがいる家の方まで駆け寄った


「レフジするんでしょ?! こっち、こっち」

ミセリはそう言って手招きしている


「あ、そっか! みんな、こっちに来てー!!」

メントは何かに気付きFCTの入口付近にいる皆に呼び掛けると、サムがこちらに駆け寄って来た


「ここ通ったほうが早いから、奥が通路になってるので、メントは知ってるよね」

ミセリはメントに言った


「うん。トゥー、ここ繋がってるの、近道だよ」

メントは(うなず)き返事をして、サムに伝えた


サムはそれを聞き、フラッシュマンと手伝いに来ていた数人のグラドを呼び寄せた。


ミセリが声を掛ける

「気を付けてね」


メントは言った

「うん。ミセリお姉ちゃん、ありがとう」



安全を確保する為に、サムを先頭に順々に家の中に入って行く


「先の店を出て突き進んだら大通りに出るから、気をつけて!」

店主の妻は通路の手前でそう言って、皆を送り出そうとしてくれている。


サムは言った

「あなた方もレフジされなくて良いのですか?」


店主の妻は言った

「わかってるわよ! 私達はもう少し周りの人に声を掛けてからレフジするから。困った時は手助けし合えば何の()のって言うでしょ」


サムは店主の妻を仰ぎ見て、少し微笑んで言った

「本当にありがとうございます。また、必ずお会いしましょう」


「えぇ、大丈夫よ、喜んで! さ、早く」

店主の妻は笑みそう言うと、レフジを促した


「さぁ、行きましょう!」

サムは皆に明るく言うと、通路に入っていった。後ろにいるフラッシュマン達の進み具合を気にしながらサムは前に進んで行った


「皆さん、もうすぐ出口ですよー!」

サムはそう言い、通路の先にある店に出ると後から出て来たグラドと共にその場にいるフラッシュマン達の人数を確認し、店の外に出た。外に出ると店の店主が手に『←大通りこっちだよ@』と描かれた看板を持って立っていた。(@はなるとの絵の代わり)サムは店主に言った


「ご苦労様です」

店主はそれに気付いて言った

「お、あぁ。あれ、そこに居るのはこの間、店に食べに来た坊主じゃないか」


メントは言った

「うん。あれからミセリお姉ちゃんとは仲良くさせてもらってます」


店主は温かみのある声で言った

「あはは、そうか、もう弟分みたいなもんだな。大通りこっちだから、さぁ、行け」


「うん。ありがとう」

メントはそう言ってお辞儀をした。サムも少し微笑みながらメントの頭を撫で店主に礼をした


「行きましょうか!」

サムは列に戻り皆にそう呼び掛けて看板に描かれていた方向に進むと、大通りに出た。


大通りからRobotyの案内表示に沿ってレフジルートを進もうとした時に、サムが叫んだ

「危ない!」



ジャスは駆け足でターミナル地域に着くと、スンのスウェッジに向かった。途中、レフジする人も見かけたが、まだ幾人かは家に留まっているようだった。その中で家の前に立ち往生している母娘を見かけた、ジャスは見かねて声を掛けた

「プレグシグナルが鳴っている通りクラシス(非常事態)だ、早くレフジするんだ!」


母親の方がジャスに言った

「私もそう思い、心配で……辺りの様子を伺っているのですが、主人が、Sciencityにプレグ(異常発生)なんて起こるはずがない! と、頑なにレフジを拒み家から動こうとしないんです」


母親は続けて話した

「私もSciencityでまさかプレグなんて(にわか)には信じられなくて……」


ジャスはそんな事を言っている場合ではないと思い、急かして言った

「俺が主人に言い聞かせる、前をどいてくれ」


ジャスは家の前に行き扉を開けようとするが、主人がオトマチロック(登録した個人[住居人]の意識を察知して開閉する機能)を内側に掛けているようで、開かない。

ジャスは扉を叩きながら叫んで呼び掛けた

「おい! 意地を張ってる場合か?! クラシスだ、このままだとアトミック機能が低下し呼吸を維持できなくなるぞ! おい、聞いてるのか!?」


主人は扉越しに大声で言った

「Sciencityでプレグのような事が起こる訳がないだろう!! 貴様、俺を惑わして何になる。騒ぐ奴はクリテン(愚か者)じゃないのか」


くそ、(らち)があかないな、こんなスタテスでは大勢をレフジさせるのには時間が掛かり過ぎる。Sciencityが出来てからは今日のようなプレグは起きていない、無理もないのか、何か皆に信じさせる手はないか、ジャスは思考を巡らすと、

「俺が別の手段で何とかするから、主人への呼び掛けを続けてくれ、主人が家から出て来たら引っ張って何が何でもレフジするんだ」

と母娘に言いその場を離れ、スンのスウェッジに急いだ。


到着すると、スウェッジの奥に立て掛けてある旧型移動装置を見つけ、起動させた

『ブォン、ブォーン』

成る程、旧型らしい音がするが、手首の装置とリンク(結合)させ正常に動く事を確認したジャスは、背中に収納していた移動装置を置き、旧移装置(旧型移動装置の略)に乗りターミナル地域を後にした



<Sciencity西通り>ジャスが思考を巡らせながら移動していると、前方にいるFCTのグラドとフラッシュマン達が目に入った。ジャスは装置を減速し停止させ、近寄り声を掛けた

「おーい! レフジしていて良かった」


先頭にいるグラドは張り詰めた表情のまま口を開いた

「サムが……サムが、レフジに混乱していたのか、スピーダー(速度制限を超えて移動装置を動かした暴走者)が突っ込んできて、フラッシュマン達を庇って……」


当時のスタテス(様子)を思い出しながらジャスに話しているグラドの顔は徐々に沈み、目に涙を薄く浮かべている


<グラド>「サム!!」

グラドは声を上げ、倒れているサムを抱き抱えた

<サム>「スマル……子供達を頼みます……」


スマル=女性のグラドの1人。スマルはジャスに懇願した

「サムに、子供達を頼むと託されたから、私は皆んなをレフジさせる事に必死で……。サムは救助用Robotyに囲まれていたから、インファマリィ(病院)に運ばれたと思う……。お願い! サムの無事をどうか確認してほしいの! お願い……」


ジャスはスマルの肩に手を当て言った

「わかった」


「スマルとフラッシュマン達は無事にレフジさせますから。任せて下さい」

列の後方にいたグラドがひたむきな表情で、ジャスに言った。ジャスは静かに頷くと、旧移装置に乗りインファマリィがあるドュノール(北)地域へ向かった



<Sciencity中通り>サム……生きているのか……サム……、そう考えと不安をぐるぐると織り交ぜながらジャスはインファマリィへ向かっていた


「ジャス! ジャス!!」

ふと呼ぶ声にジャスは気付き視線をそちらに向けると、アムーンが手を挙げ名前を呼びながらこちらの後を付いて来ていた。


ジャスは装置をその場で停止させ降りると、アムーンが追い付いて息を切らしながら言った

「ディレクトと近くで取材をしていたんだけど、周りの人達のレフジの波の中ではぐれちゃって、ロンリブ(集合場所)に戻ってるかと思って来たんだけど中々見付からなくて……ジャス? 聞いてる?!」


ジャスは虚ろに、心配に堪えないような顔をしてアムーンに言った

「サムがイサプ(事故)にあって、生きているかわからない。俺が行かないと……」


それを聞いたアムーンは重苦しく顔を伏せている。ジャスはアムーンに目が行きそれに気付くと、腕を握り言った

「……おい、大丈夫か?」


アムーンは顔を上げ、やがて険しい表情でジャスの目を捉え言った

「やめて、触らないでよ!! ——サムはいつも思ってたはずよ、フラッシュマンを救わなきゃって。サムが望んでいる事は今あなたに来てもらうことじゃない」


真剣な顔つきになり、意を決した表情でアムーンは続けてジャスに言った

「私はディレクトを探して、各地にこのスタテス(状況)を伝えに行く。あなたも男なら、サム・カインドの意志を継ぎなさい!」


ジャスはそれを聞き、目覚めたような表情でアムーンに言った

「——頼みがある」



ジャスは経緯を説明した

「レフジルートを辿(たど)るとフィルム外地域があり、その奥に進むとフィルムの亀裂が見える。それが今回のプレグの原因だ」


アムーンは言った

「フィルム外地域? 聞いたことない場所ね」


ジャスは言った

「あぁ、エージェンシが場所を(おおやけ)にしていなかったからだろう。亀裂のせいでアトミック機能が低下している。だがSciencityでプレグなど起こらないと妄信し、レフジしない者もいるだろう。本当にクラシスだと皆に気付かさなければ、トレイト(手遅れ)になってしまう」


ジャスは続けて言った

「そこでだ。ディレクトの個体No.を教えてくれないか? それを装置に入力して居場所を俺が突き止めるから、一緒に来てくれ。ディレクトと合流したら、フィルムの亀裂部分のイデオ(映像)をこの装置に送ってくれ。頼んだぞ」


アムーンは了承して言った

「えぇ、わかったわ。ディレクトのNo.は……」


ジャスは手早く装置にNo.を入力し、言った

「こっちだ!」


ジャスとアムーンがそちらに向かって進むと、ディレクトは通りを間違えていたらしく、西通りの隅に(たたず)んでいた



「アムーンさん! よかった……」

ディレクトはアムーンと合流すると安堵(あんど)して目を潤ませながら言った

ジャスはディレクトに言った

「ディレクト! 取材していたんならテイキット(撮影機)は持ってるよな? 手首の装置とリンクさせる」


「——はい!」

ディレクトはそれに応じ、テイキット(キューブ型の透明体、手の平よりは小さい)を取り出した。


ジャスはリンクさせ、力強く言った

「——よし。頼んだぞ」


アムーンはジャスにたずねた

「ジャス——行くんでしょう?」


ジャスは言った

「あぁ、俺は保護者だからな」


次にアムーンはジャスに何か気遣う言葉を掛けようとしたが、それを口に出すのを止め、こくりとだけ(うなず)くと、

「ディレクト急ぎましょう!」

とディレクトに声を掛け走り出し、亀裂のあるフィルム外地域まで急いだ。


アムーンは向かう途中思っていた。ジャスなら大丈夫。サムがいつもジャスの事を、

「頼りになる……ブラダー(相棒)のような存在ですね」

って言ってたもの。サムだって……きっと……インファマリィに運ばれて、きっと——。



ジャスは旧移装置に乗り、ブリンク(外れ)地域に向かっていた。途中、Sciencity東通りに差し掛かった所、程よい勢いでラウンエア(角丸)の建物が、ジャスとは反対方向に動いて行くのが見えた。


——数分前のこと——

<定食屋>「念のため、家具とか柱につかまっててね」

定食屋のお上は店に居る人達に呼び掛けた。内部には常連客と子供が複数人いる。主人がパノル(制御盤)のボタン(電気スイッチ)を押すと、ブロク(コンテナ)店の角が引っ込み丸くなり、店の外側面が中心部分に沿ってぐるりとキャタピラー(帯状の輪)のように変形した。時折背面に付いているヴァル(流体制御装置)から噴射して勢いをつけながら、店は回転して動き出した。内部に遠心力が働き、揺れて物や人が浮かないように適度にプレシャ(圧力)が掛かっている。


お上が感慨深そうに主人に話し掛けた

「あなた。今まで違法営業ばかりやってきたけど、この店も人の役に立つ時が来ましたね」


主人はパノルを操作し、ショーウィンド(背の低い窓)で前方を見ながら言った

「——あぁ」


その話を聞いていた客の1人が言った

「何言ってんだ、あんたらの店はずっと俺には役立ってたぜ! 第一、美味いもん出しちゃいけねえってのが、今までおかしかったんだ。あんたらの出すもん(料理)がなくなったら、Sciencityも俺も御仕舞(おしま)いだぜ」


それを聞いた主人は黙々と誇り高い顔でレフジルートに沿い、店を動かしていた。



Sciencity東通りを抜けてノイスート(北東)方面に向かっていたジャスは、エアウェブ(放送局の名称)に到着した。中に入ると狙い通りに、Robotyをモエディー(離れた場所で人間が意識だけ繋いで動かす)化して作業している者が数人いた。ジャスは思っていた、この異常事態を知ってスクプ(特だね)を撮影しようと準備していたのだろう。


ジャスは近くにいたRobotyを一体(つか)んだ。進もうとしても動けないRobotyがそれに気付き振り向いた

「うわっ」

Roboty(モエ化)が驚きの声を上げる


ジャスは言った

「おい、スクプだぞ。急いでこの装置をテレヴァス(放送機器)にリンクさせて、区域一帯のビジョンとRobotyに流す準備をするんだ」


Robotyはこたえた

「えっ。へ?」


ジャスは言った

「レイング(視聴率)上がるぞ、いいから早くリンクしろ。お前の為にも、エアウェブの為にもな」


()()うやり取りをして準備が終わると程無(ほどな)くして装置の一部が光り出し、イデオ(映像)が流れてきたのが判った。同時に、エアウェブにある全面のスクリン(画面)にもイデオが映し出された。そこにはアムーンが映し出され、慣れた手つきで喋り出す



「ハウディ(こんにちは)皆様、アムーン・トゥインクです。突然ですが皆様に重大なニューズ(情報)があります、こちらをご覧下さい。フィルムに大きな亀裂が生じているのが見えますでしょうか」

そう言ってイデオ(映像)が亀裂の部分を映し出す。

アムーンは続けて喋り出す

「只今、懸命に数名で亀裂の広がりを抑える作業をしておりますが、アトミック機能の低下も時間の問題かと思われます! 区域一帯の皆様、急いでレフジ(避難)を開始して下さい!! これは、Sciencity以来最大の人災であり、エージェンシの責任も大きく問われる事かと思いますが。皆様繰り返します、急いでレフジを開始して下さい!!……」


このイデオを見てジャスは思った。やれやれ、アムーンの奴、少しオーバ(おおげさ)に言い過ぎじゃないか。でもまぁ、これくらい言わないと分からないかもしれないな。


次にジャスは、Robotyに促して言った。

「おい、今のイデオ、月にも送ってくれないか?」


Robotyは漠然(ばくぜん)とした表情で言った

「ん、はい?」


ジャスは急き立てて言った

「いいから、早く!!」


「っ、はい!!」

Robotyはそう返事をし、(あわ)ただしく準備している。その中でジャスは、ミック(音声電子変換装置)を手に取り言った

「これも繋いでくれ!」


せかせかとRobotyがリンクなどの準備を完成させると、エアウェブから(ラジオ星[電波天体]に映像や音声データを送り、そこから電波を反射させて増幅させ)月にイデオを送る。月のニューズデバイス(情報機器)から一斉に、先程のイデオが流れ出す。


イデオが終わる所でジャスはミックを使い、月に向けて話し出した

「今のニューズが嘘だと思うなら、FFMがある区域に来て確かめに来い。いいか、月にいる親の皆さん、これは事実だ。あいつら——いや、子供達は、親に会えなくてな、寂しいとか、そういう気持ちも押し込めて、忘れたふりして、どこか心の隅で泣いてるぞ。お前らいい加減、側に来て助けに来い、子供達を、抱き締めに来てやってくれ、頼む」


ジャスはそう言い終えるとRobotyにトランミション(送信)を切るように伝え、エアウェブを出て、旧移装置に乗りFFMへ向かった。ジャスは向かう途中思っていた。これで、レフジの救援も増えるだろう、エージェンシも動かざるを得なくなるはずだと



<ターミナル地域>その頃、ターミナル地域に残っていたと思われる幾人かの人達が一斉にレフジしていた。家の前で主人に呼び掛けていた母娘は不安になり、母親が近くを通るレフジする内の1人に話し掛けた

「あ、あの……急がれているようで一体どうなさったんですか」


その男は(まく)し立てるように言った

「どうもこうもねぇよ! ビジョン見てないのかよ?! ここはもう長く持たねぇ、あんたらも窒息する前に早く逃げ方がいい!」


それを聞いた母娘は顔を見合わせ青くする

「あなたビジョン見て!!」

「トゥ、早く出て来て!!」

そして、ドアを叩きながら必死に訴え掛ける2人。その頃、主人はビジョンを見ていたらしくバツが悪そうにドアの前で待機していた


「……出て来ないね」

娘は悲しそうに言う、母親は返して言った

「……仕方ないわ。あなただけ先に逃げなさい」


「え! っでも!!」

娘は戸惑いながら言った。そんな娘に母親は力強く言った

「あなたは生き残るのよ。——私はあの人の側にいるわ、一緒になった時からずっと添い遂げようと思っているから——」


「——お前!」

途端に主人が扉を開けて、感嘆の声を上げながら外に出て来た


「……遅かったですねあなた。さ、行きましょう」

母親は分かっていたかのようにそう言うと、家族皆でレフジして行った



ジャスはSciencity東通りに戻ってサウ(南)方面に進み、Roboty・FFMがあるブリンク(外れ)地域へ向かっていた


<Roboty・FFM>ジャスがFFMに到着すると、辺りにはフラッシュマンらしき人影が見えなかった。扉を開け中に入るとジャスは思った、やはりこちらも閑散(かんさん)としている。そこにはRobotyが数体いるだけで、フラッシュマン達の姿は見当たらない。


ジャスは、その場にいるFFM管理の中心であるRobotyコントル(司る者)に話を聞いた。コントルは他のRobotyと風格が違い人型を成している

「おい、フラッシュマン達は何処に行ったんだ」


コントルは声に反応して言った

「あら、ニンゲンですか? 皆さんソコラ辺のニンゲンよりよっぽど優秀で、騒がず平然としていましたが? Robotyのシジに従ってレフジしましたよ、順をヲってですね」

表情が無きに等しいのに、ジャスにはコントルが笑みを(たた)え、落ち着き払ったようにこたえた気がした


「……そうか」

ジャスは独り言のように返した後、念の為に誰もいないか手首の装置を使いホール(全体)を確認する事にした。マス(入口)を入ってすぐにある広間の先にはセルム(個室部屋)があり、ジャスはそこを壁越しに入念に装置で(生体を)探知していく。そうしていく内に、その中の1ルム(部屋)の下側に何か反応があるのが分かり、ジャスはルムの扉を開ける。



ジャスがルムに入り下側に視線を向けると、そこにはフラッシュマンの少女がRobotyの側で抱きつくように体を丸くさせ(たたず)んでいた。


ジャスが声を上げる

「——エミィ!」


エミィは目を(こす)りながら顔を上げるとジャスを見て言った

「ん……。会ったことあるお兄さんだね……」


ジャスは言った

「一人でここにいたのか? 皆んなとレフジしなかったのかい?」


エミィはこたえた

「……ううん。ひとりじゃないよ、マムと一緒……」


ジャスは言った

「……そうか、でもここは危ないよ。一緒に行こう」


エミィは言った

「……マムもいけるの?」


エミィの(かたわ)らにいるマムと呼ばれるRobotyをジャスが確認すると、(くだん)の事件の後、修理する事が出来なかったのか、リフパン(寿命)で動けないのか、Robotyは停止しているスタテスにいた。今連れて行けるスタテスではないとすぐに感じると、ジャスは膝をついてエミィの肩を持ち諭すように言った

「ここまで頑張ってマムはずっとエミィの側に居てくれたと思うんだ。けど……マムは疲れて動けないんだ。もう眠らせてあげよう」


「……」

エミィは(うつむ)いて黙っている。その様子を見てジャスは言った

「——マムはエミィが生きる事を誰よりも望んでいるはずだよ」


エミィは顔を少し上げ戸惑いながら言った

「……うん。マムにおやすみ言う——」


ジャスはそれを受けて言った

「わかった」


ジャスはRobotyのハッチ(覆っているカバー)を開け完全に電源を切る。そして、そこにあるであろうチップを抜き取る、焦げているが微かにエミィへと書かれている


「エミィ、マムの形見だ——」

ジャスはそう言ってエミィにそれを見せ渡す。エミィは見つめそれを近くにあったポシェット(小さい鞄)に入れると肩に掛けた。


それを見てジャスはエミィに言った

「準備はできた? じゃ行こう」


「さよなら、マム……」

エミィは頷くとそのままマムを抱き締めた。



ジャスはエミィを抱き寄せFFMを出ると、頭上に飛行Robotyが飛んでいるのを確認できた。他にもモエ化のRobotyが人がいないか生体を探知して回っている。もう手が打たれたか、早いな。ジャスはそう思うと、エミィをしっかりと抱き締め旧移装置に乗り、フィルム外地域へ一気にレフジした。


ジャス達がフィルム外地域に到着すると、辺りに人が大勢いるのが見られた。ジャスはエミィを地上に降ろすと旧移装置を背中に収納し、(はぐ)れないように手を繋いだ。ジャスの目線から周囲の皆は無事を喜びあっているように見える。


そんな中1人の男が荷物を抱えながら走り(にく)そうに駆け込んでレフジしてきた。ウォタメレプ商人がその男に気付き声を上げた

「ラクシムー!」


ラクシムはこたえて言った

「兄者ー! 久しぶりだぜ」

商人=ラクシムの兄。兄弟はジャスの近くで合流し、再会を喜び合っている。


ジャスはラクシムに話し掛けた

「ラクシムお前、随分遅かったな」


ラクシムは言った

「お、ジャス。この機に乗じて俺の(点検屋にある)技術力のフルーツ(結晶)を盗られるわけにはいかないからな。持てるものは見繕って後はロック(留めるの)に時間が掛かったぜ」

それを聞いて少し呆れた表情をしながらジャスは思った、実にラクシムらしいな。


兄はラクシムに言った

「おぉラクシム、外での仕事は上手くいってるのかぜ」


ラクシムはこたえた

「成功する為に俺はターミナルを離れると決意したから勿論上手くやってるぜ」


それを聞いてジト目になりながらジャスは思った、あぁ、それでラクシムは(うま)くRoboty点検屋をやられている訳か……


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