九十七代目 ヤザキ ユウ
衝撃映像!
もう! バクわらwww
ストレートロングの白銀の髪に、髪色と同じ白銀のローブ。
日焼け知らずの真っ白な肌。
菫色の瞳は切れ長で、筋の通った鼻。骨格からしてカッコイイ。
イケメンつーより、美形?
オシショーさまは、白人モデルみてぇだ。
けど、無表情なんだよな。
せいぜい、眉をほんのちょっと動かすか、目を細めるぐらい。
冷血機械人間ってオレは呼んでた。
それが……
笑顔全開で! くるっとターンして、びしぃっとオレらを指さしてくるとか……
ありえねー!
うん、驚くよ。
オーバンもダリウスもタバニもロラもポーラもかたまってんじゃん。
《やっほー ユウ君、お久しぶり〜 決戦は七十五日後〜 がんばってるキミを励ましに! 神自らが、慰問に来てあげたよ〜ん♪》
これは、あれだわ。
神様降臨を初めて目撃した時の記憶だわ。
記憶の中にオレの姿はない。
てか、この映像の視界の主がオレ。だから、オレの姿が見えないわけで。
オレも、オーバンたちみたいな顔してそ。
「うわ〜視覚の暴力……。モーリスも凄かったんだよな、普段の無表情と神様降臨時のギャップが……」
「自分も兄貴が踊り出した時には、泣きたくなりました……」
「コレットちゃんは女の子だから、神さまが降臨してもかわいかったけどぉ……これは……」
「あの世界に残って賢者になってたら、わたしもこんな風になってたのね……。良かった、フェリックスの口車に乗らなくて!」
「みなさん、もう少し歯に絹を着せましょうよ。いと高き方に失礼ですよ」
今、オレのそばには……
リーダーとアリス先輩とナナ先輩と直矢先輩と西園寺先輩が居る。
てか、ナナ先輩の共有幻想で、オレの記憶を再現してて。
それをOB会のメンバーとチェック中。
ジャンヌちゃんを放っぽりだして、魔王に与したらしいオシショーさま。
どうしてそうなったんだか、オレにゃわかんねーけど。
オレの記憶から『何かわかるかもしれませんよ』って、西園寺先輩が言ったもんだから、こういう流れになったわけで。
ナナ先輩の共有幻想は、術をかけられた者――つまりオレの心の中が現実化する。
オレが思い出せない事でも、脳が記憶していることは再現可能らしく。
勇者時代の記憶をピックアップして蘇らせてるわけ。
キャピキャピ神様に《キミこそ、世界を救う勇者だ〜》ってパンパカパ〜ンされて、
言霊を操る力をもらって、
それから、ド田舎の村にワープ。
その村で、三日。すぐに異世界人だって身バレして。領主の館に引き取られてから、更に十日。
十三日経ってから、オレはオシショーさまに引き取られた。
『九十七代目勇者よ、迎えに来た。おまえの師シメオンだ』って。
けど、十三日も待たされたわけよ。
そのせいで魔王戦までの準備期間は八十七日になっちまったってか。
異世界人が現れたら、賢者さまのもとには知らせがいく。早ければ当日に、遅くとも数日で賢者が異世界人に対面にいくもんだってぇのに。
十日近くの放置プレイ。
領主の館はピリピリしてたけど。
オシショーさまは、マイペースだった。
移動魔法で突然現れて。
一目オレを見て、勇者認定して。
そのまんま、オレを賢者の館に連れ去ったわけ。
お世話になった領主さんに、説明とかお礼は? ってオレの方が心配になったよ。
んで。
賢者の館についたら、いきなりスイッチ入っちゃって。
曰く……
自分にはあらゆる職業の師となれる知識がある。言霊使い師の基礎は教えられる。
言霊使いは、敵のつぶやく『悪事』を、言霊によってはねかえして『善事』に『ことかえ』て戦う。
しゃべり続ける事でじわじわと相手を弱まらせてゆく戦法しかとれない。
盾・護衛・回復役は必須。
明日は王宮へ行き、
その後は、修行を積みつつ、有能な仲間を探そう。
言霊効果アップの魔法道具も探したい。
異世界転移も視野に入れたい。最有力候補は××世界だ。
とか何とか……
抑揚の無い声で、長々と。
TVのスピーカーみてぇと思った。
一方的に話すだけ。
視聴者おいてけぼり。
質問すりゃ答えちゃくれるけど。噛み砕いてくんない。こっちが理解できてるかどうかの気配りゼロ。
……茶すら出さない。
さすがに、過去のオレがイラッとする。
『独り言なら、鏡に向かって言ってくんない?』
『一方的に話されても、頭ん中入んないつーの』
『オレが負けたら、あんたも困るんだろ?』
『真剣に教えろよ。授業てぇのはさ、生徒が理解できなきゃ意味ねーんだよ。相手のレベルに合わせて話せよ。ちったぁ工夫しろよ』
『あんた、オレのオシショーさまなんだろ』
『弟子の目ぇ見て、しっかり向き合えよ』
オシショーさまは、口を閉ざし、微かに眉をひそめた。
でもって、しばらくオレをジーッと見てから
『すまぬ』と謝ってきた。
『おまえを軽んじる意図はなかった。非礼にあたる行動を謝罪する』
けど、オシショーさまのマイペースは、それからも続いて。
その日の夕食は、パン・ワイン・チーズ・リンゴ(丸のまま)……のみ。
風呂は用意してくれず。
着替えも渡されず。
夕食後に渡された燭台は、蝋燭が短くて半時ももたず。
翌朝の朝食は、パンとワインのみ……。
オシショーさまのボケっぷりに、オレはキレまくりだった。
『オレ、王さまんとこ挨拶に行くんだよね? 清潔にしなきゃ、マズくない? なに着りゃいいの? 注意点ねーの? 宮廷作法とか知らないんですけど!』
一事が万事、そんな調子で。
出会ったころは、オシショーさまに文句ばかり言ってた。
ま、異世界から来たオレっちのが非常識な場合もあったけどさ。
オレの仲間――オーバンもダリウスもタバニもロラもポーラも、オシショーさまにはしょっちゅう腹立ててた。
黙ってりゃ、カッコイイんだけど。
口を開けば、エラソウで。自分の考えをゴリ押ししてきて。
平気で、非常識な行動をとる。
道を歩く時は端に寄る(勇者世界には、自動車はねえけど、馬車はある!)とかー 列には割り込まないとかー 栄養バランスのとれた食事をするとかー 当たり前じゃん?
誰かが気持ち良さそうに語ってたら、いちお聞いてやんない? 無駄話の中にもキチョーな情報あるかもだし。相手を立てることで築ける人間関係ってのもあると思うの、オレは。なのに、オシショーさまは『無関係な話は遠慮いただきたい』だもんね。相手が、国王でもさ。
勇者PTを導く存在のはずが。
うっとーしいわ、トラブルメーカーだわ……
みんな、オシショーさまには『うへ〜』だったわけ。
それが……
《言霊使いの修行しに、よその世界に行くんだよね? その前に、ちょっと顔見ておこうと思ってさ。ほら、この神の仕事は〜 勇者の成長を見守り、時には賢者に助言することだからね★》
こんな全開の笑顔で……
腰をくねくね、ぶりっこポーズとか……
笑えっけど、マジ気の毒。
《ユウ君。キミが、いろいろと不満を抱えてるのは知ってる。けどね、シメオン君はなりたてのホヤホヤ、若葉マークの賢者なんだよ。経験不足なんだ。賢者といえども、必ずしもカンペキじゃあない。わかってあげて》
憑依されてるオシショーさまが、オレをジーッと見つめる。
《できればシメオン君と仲良くしてほしい》
オシショーさまが、柔らかく微笑む。
《シメオン君は、二才で勇者認定されてね、それからずーっと山奥の賢者の館で育ったんだ。話相手は賢者だけ。館の外には一歩も出られずの箱入り勇者だったんだ。その上、ネグレクトに近い環境でね……この神が介入して改善させたけど、一時期三食パンだけだったし……。世の中にうといのも、人の心が読めないのも、半分以上育ちのせいさ。許してあげて》
やべぇ。
吸い込まれそうな瞳って、こういうのを言うんだろうな……
……くっそ、イケメンすぎる。
《キミは言霊使いだ。キミの言葉は、人を救う事ができるし、逆に破滅に追い込む事もできる。そのことを、ぜったい忘れないでね★》
んで、オシショーさまがニパーッと笑って。
へらへら笑いながら、オレの背中をバンバン叩いてきた。
《賢者がポンコツだと、キミも困るだろ? もちつもたれつ、二人三脚さ♪》
にやっと。
何とも意地の悪い顔になって。
神さまは、こう続けた。
《助けてあげてよー キミのがおにーちゃんなんだからさ》
オレの反応を確かめるように、そこで間をとって。
それから、神さまはチッチッチと指をふった。
《キミ、二十歳だろ? シメオン君はね……なぁんと十九歳なんだ!》
驚いた?驚いた? って感じに、神さま憑きのオシショーさまが迫って来る。
《あんな偉そうでも! キミよりずーっと背が高かろうとも! 十九歳! 賢者でも年下なんだ、いろいろと助けてあげてよ。おっけぇ?》
フンフンフン♪と踊ってたオシショーさまが、ピタッと動きを止めて。
いつもの無表情に戻った。
神さまが還ったんだ。
『騒がせた、すまぬ』といつも通りクールなんだけど。
両頬を包み込むように、両手をピタ〜とあてててさ。
たぶん、表情筋を酷使しすぎてほっぺたが痛いんだ……。
過去のオレが吹き出し、オーバンたちもつられて笑い出した。
『オシショーさま、十九だったの?』と過去のオレが聞けば、
『そのようだな』と過去のオシショーさまが淡々と答える。
でもって、『年齢など気にした事もなかった』な〜んて言うもんだから、オレらバクわらwww
オシショーさまが何を言っても何をやっても、おかしくって。
『おまえ達、何故笑っているのだ?』てなオシショーさまの側で、オレらはゲラゲラ笑い続けた。
オシショーさまが説明する。
百日の間に、神さまが祝福や助言や援助を与えに現れる事もあるんだって。
そのタイミングは、勇者によってまちまち。キリのいい日数が過ぎた、魔王討伐の条件が整った、託宣の実行が不可能になりかけている……。
オレらの場合、賢者と勇者が不仲だったからかね?
神さま介入の甲斐あって。
オレらの関係は変わった。
半端ない知識を持ってるオシショーさまに、頼るところは頼って。
代われるところは、オレらが代わった。
買い物とか、宿の手配とか、料理店選びとか、情報収集とか。
オーバンたちが率先してやって、オシショーさまにいろいろ教えてた。一般常識とか、値切り方とか、美味い店とかさ。
オシショーさまは、わりとテキトーな性格してて。
オレらのがうまくやれることは、『頼む』って丸投げした。
忠告も、素直に聞いた。『助言いたみいる』とかクソ真面目に言うのがまたおかしくってwww
オショショーさまがポカやっても。
『しょーがねーよな、オシショーさまだし』『オシショーさまだもんな』と笑って済ませるようになった。
年上の余裕ってヤツ?
オシショーさまが弟分的存在になったってか。
イジリがいができたってか。
ま、前より仲良くなったわけ!
過去のオレが、月夜を見上げてた。
そこへ、移動魔法でオシショーさま登場。
いきなり始まる説教。勇者のくせに一人になるな馬鹿者、勇者の死を願う魔王の信者もいる、仲間か自分を常に側に置け、おまえには勇者の自覚が欠けている……って感じ。
『んじゃ、オシショーさま、いっしょに居てよ』
おいでおいでと、手招きする手が視界に入る。オレの左手だ。
オシショーさまが、ほんの少し眉を動かす。これは何か疑問を感じた時の表情だ。付き合いが長くなるうちに、何となく感情が読み取れるようになった。ま、ケッコー外れたけど!
『何故、おまえは建物を背に地面に座っているのだ?』
『月がとってもキレイだから?』
『何故、疑問形なのだ? 質問には答えを返せ。何度も教えたであろう?』
『理由なんかねーもん。なんとなく、そーいう気分だったの』
『理解できない。私には、おまえがわからぬ……』
『なら、隣にきてみれば?』
過去のオレがもう一度オシショーさまを手招きする。
『たまには、弟子と同じ目線になるのもいいんじゃない?』
オシショーさまが溜息をつく。
けど、あっさりとオレの横に座った。白銀のローブが汚れるだろうに、頓着なく。こーいうとこ、ほ〜んと素直。
雲がほとんどない夜空。
お月さまは、やけに明るい。真ん丸じゃないけど、あともうちょいで満月。オムレツみたいな可愛い形だ。
『ね? キレイでしょ?』
『姿勢が低い方が、月がより美しく見えるのか?』
たいして変わらぬように見えるがとか、淡々と言うオシショーさまに、
『違うつーの。ダチといっしょだから、美しく見えるんだよ』
って過去のオレが笑って返す。
オシショーさまが、微かに首を傾げる。
『ダチとは友人の事であったな? 私とおまえは師弟関係だ。友人ではない』
『師と弟子でも、友人になれるぜ』
『おまえの世界はそうでも、こちらは違う。私に、友など要らぬ。友愛を感じる者など、もう二度とそばには置かぬ』
過去のオレが、イラッとする。
オレはダチだと思ってたんで。
いろいろとダメダメなオシショーさまをフォローしてきたのも、ダチだからこそで。
それに、『もう二度とそばには置かぬ』ってことは、一人は『友愛を感じた人間が居た』ってわけで。オレ以外の誰かを友人と思ってたってことで。
ムッとして、意地の悪い質問をしたんだ……この時のことは覚えてる。
『そいやさ、オレ、ずーっと聞きたかったんだけど』
視界が動く。過去のオレが横目でオシショーさまを見たんだ。
そこにあるのは、いつも通りの無表情。何の感情も浮かんでない顔で、オシショーさまは月を見上げている。
『オシショーさま、オレを十三日も放置プレイしたじゃん?』
『放置プレイ?』
『十三日も迎えに来なかったろ?』
オシショーさまも、横目でオレを見る。
『来ようと思えば、もっと早く来れたよね? 賢者の使命は、勇者を導くことっしょ? オレをさっさと見つけて、指導始めなきゃマズかったんじゃ? なにやってたのよ?』
『……すまぬ。私用を済ませていた』
『私用って、なに?』
『………』
『勇者よりも、大事なこと?』
沈黙が訪れる。
オシショーさまの顔は、いつもと同じ。
無表情だ。
何の感情もこもってない瞳が、オレを見つめる……。
『賢者にとって勇者に勝る存在はない』
だいぶ経ってから、オシショーさまは抑揚の無い声で言った。
『何をおいても、私はおまえを迎えに行くべきであった。わかってはいた。おまえが未熟であれば、おまえもこの世界も滅びる。しかし……』
ほんのほんのちょっとだけ、お師匠様が目を細める。
『私は……勇者であった時に取り返しのつかぬ過ちを犯した。その過ちと向き合わぬ限り、『賢者』を務められぬ……そう思うた故、先に幻想世界へ行ったのだ。まことに、すまぬ』
オシショーさまは、それ以上語りたがらなかったけど。
オシショーさまが竜騎士だったことや、幻想世界の白竜を相棒にしてたこと、知ってたし。魔王戦後の白竜の噂ってまったく聞かなかったし。
オシショーさまの暗い顔を見れば――無表情でもさ、雰囲気でわかるつーか――何となくわかった。
魔王戦でオシショーさまは大事なものを失ったんだ、って。
しばらくしてから、オシショーさまが口を開いた。
『あと三日で魔王戦だ』
過去のオレが『うん』と答える。
『おまえは必ず勝つ』
『うん』
『仲間も誰一人失わぬ』
『うん』
『勝利だけを信じよ』
『わーってるって。言霊効果でしょ? マイナスな言葉は口にしないって』
『おまえは必ず勝つ……誰一人失わぬ』
何か、もう……
痛々しくなっちゃって。
過去のオレが、オシショーさまの肩を抱く。
『なんだ?』
『なんとなく』
『なんとなく……何だ?』
『ダチなら、肩を組むのもアタリマエ』
『ユウ。私はおまえの友人ではないぞ』
何度言えばわかるのだって感じに、わざとらしくため息をつく。
そのくせ、オレの手を払いのけることもしない。
過去のオレが、小さく笑う。
『オレは、あんたをダチだと思ってる』
『……そうか』とだけ、オシショーさまは言った。
そのまんま二人で、月を見上げた。
キレイな月だった……
共有幻想は、解けた。
みんなの視線が痛い。てか、身の置き場がないつーか……。
「や〜ん、ステキ! 『オレは、ダチだと思ってる』で、ジーンとしちゃったワ!」
うへ〜 恥かちぃ〜
「わたしも……萌えたわ!」
やめて、アリス先輩。BL餌食は、リーダーだけにしといて!
「ユウがここまで好青年だったとは……」
どゆ意味、直矢先輩?
「群れて横に広がって歩道を歩き、列には割り込み、ジャンクフードばかりを食べ、他人の話には耳を傾けない……そんなイマドキの若者かと思っていた」
ちょっと直矢先輩、それ偏見〜
「西園寺くん、何かわかった?」
リーダーの問いに、西園寺先輩がぽりぽりと頬をかく。
「う〜ん……ほとんど視えませんでした」
西園寺先輩は霊能力者。いろんなことが何となくわかってしまう人なんだけど……オシショーさまにはダメだったみたいだ。
「賢者は神の加護下にある」と、リーダー。
「神と同等かそれ以上の存在でなければ、賢者の内面には踏み込めない。想定内のことだ。気に病む必要はない」
それから改めて。
リーダーが現状の説明をする。
魔王の守護神――ブラック女神がジャンヌちゃんの仲間の誰かを器にしていることは前に聞いてたし。
それが、オシショーさまだったってのも、このまえ聞いた。
オシショーさまは、ジャンヌちゃんのそばから消えて。
よその世界でも悪さをしてる……らしい。
「僕は、賢者シメオンに髪の毛や爪を渡している」
リーダーが溜息を漏らす。
「みなも知っている通り、僕は転移体質だ。魔王戦当日にこの世界に居るとも限らない。なので、僕一人を召喚する魔法陣を準備してもらおうと思ったんだが……シメオンが魔王側についた以上、僕の体の一部は悪用されるかもしれない」
呪殺の危険もあるし。
クローンをつくられる危険もある。
けど、マジこわいのは……神々からの贈り物――特殊能力を山ほど抱えてるリーダーが操られることで……。
「万が一の事態に備え、邪悪除けの護符は準備しておき、僕の能力は可能な限り封印しておく。精霊達も置いていけるものはこの世界に置いていくつもりだが……」
リーダーがテーブルの上に、金、赤、水色のロケットペンダントを置く。
「ジャンヌ君の伴侶となったリヒト、ノヴァ、シュトルムは、どうあっても当日あちらへ召喚されてしまう。仮の主人を定めておきたい。リヒトはアリス君に、ノヴァはユウに、シュトルムはナナ君に預けたい」
オレの前に、赤のペンダントが飛んでくる。金はアリス先輩、水色はナナ先輩の前だ。精霊たちが自分の意思で動かしてるっぽ。
「僕よりもキミ等の命令を優先するよう術をかけた。精霊は攻防両方に長けている。好きに使ってくれ」
「なんでオレらなの?」
西園寺先輩や片桐先輩も居るのに。
「魔王戦をみすえてだよ」
リーダーが腕を組む。
「絶対防御のアリス君はもちろん、ナナ君の共有幻想もユウの言霊も一撃必殺には向かない。魔王に大ダメージを与えるのは無理だろ? 預けるついでだ。リヒトたちを使ってもいいよ」
「それって、ありなの?」
アリス先輩は、金のペンダントに手を伸ばすのをためらってるみたいだ。
「ジャンヌちゃんの伴侶って、一回しか魔王に攻撃できないのよね? リヒト達、二回攻撃の判定にならないかしら?」
「ならない。自分の意志で動くのではなく、しもべとして使役されるんだ。別カウントだよ」
リーダーがきっぱりと言い切る。
「ならいいけど……」
「ペンダントは、リヒト達とキミらを結ぶ絆だ。無くさないようにね」
赤のペンダントを手にすると、すぐそばにノヴァちゃんが現れた。
ちょっぴり目尻があがった勝気そうな顔。キレイな赤髪。小柄で、おっぱいバイーン、ウエストがキュッ、お尻むっちりのエロエロボディ。巨乳美少女好きのリーダー好みの格好……ノヴァちゃんのデフォルトの姿だ。
「貸してもらえるのはありがたいけどさ」
ペンダントをブラブラさせながらリーダーに聞いた。
「魔王戦前でよくね?」
ノヴァちゃんだって、ギリギリまでリーダーのしもべで居たいよな?
「いや、ほら。僕は転移体質だから」
渡せる時に渡しておかなきゃと、リーダーがハハハと笑う。
「それに、魔王戦よりも前に僕は操られてしまうかもしれない……早いに越した事はないよ」
オレらを仮の主人にするにしても。
リーダーから命じられてる通常任務はそのままらしく。
リヒトさんは社長秘書兼精霊のまとめ役。
ノヴァちゃんはアジトの護衛。
シュトルムちゃんはリーダーの影武者を続けるらしい。
心の中がモヤモヤする。
オレが勇者だったのは、オレにとっちゃ去年の話。
なのに。
オレの知ってるオショショーさまと。
今のオシショーさまが結びつかない。
クソ真面目で、勇者とあの世界を第一に思ってた人だったのに。
賢者やっている間に、何かあったのか?
オレと別れてから、オショショーさまにとっちゃ九十年以上も時が流れている……。
オシショーさまは、大事な何かをまた無くしちまったのかもな……。
ジャンヌちゃんの顔が心に浮かんだ。
大きな目で、明るくって、可愛い子だった。
あの子は、今、オレ以上にモヤモヤしてるんだろうな……そう思うと、何だかムショーに会いたくなった。
……ジャンヌちゃんと話したかった。
きゅんきゅんハニー 第14章 《完》
すみません。第15章はまだ執筆中です。発表のめどがたちましたら、活動報告でお知らせします。




