1 なんで……
前まで書いていた長編が完結し、次はどんな話にしようかなと考えていたらお話がふたつ浮かびました。
それぞれ1話ずつ書いてみたら、こっちのほうが楽しそうだなと。
どうぞよろしくお願いします。
「なんで私を……?」
訝しげな表情でマデライン・シュナイダー伯爵令嬢は俯き呟いた。
高く結い上げ垂らしている茶色の髪の毛の先が揺れる。
ここはシュナイダー伯爵家の客間。
マデラインの目の前には兄のアーノルドとその友人のヴェステラント第2王子殿下がいる。
ヴェステラントはじっとマデラインを見つめている。
その緑の瞳にはまるで懇願するかのような必死さが漂っている。
マデラインの兄のアーノルドは顔を顰めて、目の前の親友と妹を見ていた。
マデラインは顔を上げヴェステラントを見て、その表情にぎょっとしてから、はっと何かに思い当たった顔をして、頷いて、言った。
「……わかりました。
とりあえず、婚約、お受けいたします」
思い詰めたような表情だったヴェステラントはぱあっと明るい笑顔になり、アーノルドは意外そうな表情で驚きを隠さず妹を見た。
「ありがとう、マディ!
大切にするよ!!」
「……はい。
よろしくお願い致します。ヴェステラント殿下」
マデラインは穏やかに微笑んだ。
「マディ、本当にいいのか?」
その日の夜、アーノルドはマデラインの部屋に押し掛けていた。
ヴェステラントの婚約申し込み、マデラインの了承を受け、そのままヴェスエラントはアーノルドを連れシュナイダー伯爵に婚約の話をした。
『穏やか殿下』と呼ばれているのが嘘のように、すでに王家からの書類を準備しており、その日のうちに正式にシュナイダー伯爵家に王家から婚約を申し込んだのだ。
そして、夕食の時には家族で、マデラインとヴェステラント第2王子殿下の婚約が決定したことが確認共有されたのだ。
明日、王城に挨拶に行くことすら決定していた。
アーノルドの言葉にマデラインは笑って答える。
青い瞳がいたずらっぽく輝いている。
「わかってるよ、お兄様!
私はヴェステラント殿下の警護をすればいいのでしょう!
ステファン第1王子殿下の御成婚が近いですし……。
結婚式で他国の王族方も訪れます。
護衛騎士がつくには無粋な場もあるでしょう。
第2王子殿下の婚約者という立場なら、そのような場にもご一緒できますし。
まあ、他国の王女や皇女からの政略結婚の探りなどもありましょうし、それ避けの効果もあるでしょう。
ああ、大丈夫ですよ!
良き候補の方がいれば、アシストもできます!」
アーノルドが『はっ?』という表情で固まる。
「あ、その顔は私のこと信用できませんの!?
恋愛には縁遠い私ですが、人を気に入った、苦手ぐらいはヴェステラント殿下の様子を見て推察するくらいできます!」
アーノルドが右手を頭に当てて、頭痛を耐えているかのような表情になる。
「マディ……。
何か、勘違いしていないか!?」
マデラインは大きな青い瞳を瞬かせてから首を傾げた。
「…………はっ!
ガスパール公爵令嬢!?
わかりました!!
ヴェステラント殿下の真意!!
この大変な時期は私が矢面に立ち、時期が来れば、ガスパール公爵令嬢が真の婚約者であると発表するわけですね!
んー、ということは私は……、無難な……、いや、私はいつも通りにしていればいいってことですね!
承知しました!」
「い、いや、マディ!
だから、ヴェスは……」
そこで口籠ってしまうアーノルド。
「大丈夫ですっ!
ヴェステラント殿下はお兄様の親友!!
私にとっても昔なじみのお兄様のひとりみたいなものですわ!
わかってますって!
じゃ、私は明日の準備があるので!」
「マディ!」
マデライン付きのメイド、ジェーンに追い立てられるように部屋から追い出されたアーノルドは呟いた。
「ああ、ヴェス……。
お前の真意はマディに全く届いていないよ……」
読んで下さり、ありがとうございます。
久々の私にしては王道な感じのお話しです。
視点をどうするか悩み、『ギルティなギルロッテ様』の時のように、見たまま三人称で書いてみようと思いました。
どうでしょうか?




