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テトラカラーラブデコレーション  作者: ふらう
第1章:シャラシャラと砂はこぼれ、幸運の花嫁は歩み出す
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03【二番目の光:檻の中の黒狼】


 女装の少年、チョウチョウとの奇妙な出会いを終えた後、私は再び神官長さんの後ろを歩いていた。

 進むにつれて、大理石の華やかな回廊は影を潜め、次第に周囲は厚い石壁に囲まれた頑強な通路へと変わっていく。窓は小さく、外の光はほとんど届かない。壁に設置された魔導灯の淡い青光だけが、私たちの足元を寒々と照らしていた。

虹歳(にじとせ)様、ここから先は王城の最奥……。限られた王族と、私のような一部の神職しか立ち入りを許されない、いわば隔離区域にございます」

 神官長の重々しい声が、静まり返った通路に低く響く。

「隔離、区域……ですか?」

「はい。この先にいらっしゃるのは、我が王国の第三王子、ユー=オン・ハルノ殿下。殿下は人狼である『ルールー族』の王族なのですが……人の心を強制的に読み取ってしまう能力が強すぎるのです」

 歩きながら、神官長は悲痛な面持ちで語った。

「他者の悪意や欲望をダイレクトに浴び続けた結果、殿下は精神的ストレスから能力のコントロールを完全に失ってしまわれました。今は人間の姿を保つこともできず、常に巨大な狼の姿のまま、近づく者すべてに激しく拒絶を示されるのです……」

 その言葉を聞いた瞬間、私の胃のあたりがキュッと冷たく縮み上がった。

(人の心が読める、暴走状態の王子様……。男の人で、しかもコントロールが効かない化け物……っ)

 前世で男たちの醜い欲望に晒され続け、すっかり男性恐怖症になってしまった私にとって、それは最悪と言ってもいい相手だった。

 すぐにでも「戻りたい」と言いたかった。けれど、私の視界には、容赦なく「二番目の光」が映り込んでいた。

 その光は、通路の突き当たりにある、分厚い鉄格子の扉の向こう側から漏れ出している。

 近づくにつれて、光は激しく、そして脈打つように大きくなっていく。まるで「ここにいるぞ」と、私を急かすように。

(……嫌だ。怖い。でも、行かなきゃいけないんだ。これが私の『仕事』だから……)

 逃げ出したい自分を必死に押し殺し、私は神官長の後ろについて、ゆっくりと鉄格子の部屋の中へと足を踏み入れた。

 部屋の中は、驚くほど広大だった。しかし、その中央には、部屋の半分を占めるほどの頑丈な「檻」が鎮座していた。太い鉄格子で囲まれたその檻の奥、暗がりに、それは潜んでいた。

 ――グルルルルル……ッ。

 地響きのような、恐ろしい地鳴りのような唸り声が鼓膜を震わせる。

 暗闇の中から、ぬうっと現れたのは、体長二メートルはあろうかという、圧倒的な巨体を持つ黒い狼だった。金色の眼光が、暗闇の中でらんらんと輝いている。

 その瞬間、私の耳裏にまた、あの音が響いた。

 ――シャラシャラシャラ……。

 星が流れるような、砂がこぼれるような、美しくもどこか切ない響き。

 眩い光の粒子が、その巨大な黒狼の胸元――心臓の位置へと吸い込まれ、純白の花の目印を刻みつける。

(嘘……。この、大きな狼が、二人目の結婚相手……!?)

 私が驚愕で息を止めた、その時だった。

 黒狼の口が大きく開き、信じられないほど低く、地を這うような咆哮が部屋中に轟いた。

「――ッ、出ていけええええええええっ!!! おれに近づくなと言っているだろうがっ!!!」

 それは、怒りと絶望に染まった、紛れもない「男の声」だった。

 バァン!!! と激しい音が響く。王子が怒り狂ったように、内側から太い鉄格子に強烈な体当たりを喰らわせたのだ。みしり、と鉄格子が悲鳴を上げる。それだけでなく、彼は近くにあった木製の調度品を凄まじい力で噛み砕き、荒々しく暴れ狂った。

「ひっ……ああ、あ……っ!!!」

 激しい怒鳴り声。破壊の音。圧倒的な質量を持つ、男の凶暴性。

 そのすべてが、私の脳の奥底に眠る最悪のトラウマを強烈に呼び覚ました。

 前世で、理不尽に怒鳴り散らし、暴力を振るってきた男たちの記憶がフラッシュバックする。

「こわい……こわい、こわいこわい……っ!」

 一瞬で頭の中が真っ白になった。

 ガタガタと全身の震えが止まらない。膝の力が完全に抜け、私はその場にへたり込んでしまった。視界が涙で急速に歪んでいく。呼吸の仕方が分からなくなり、胸が苦しくて、指先一つ動かすことができない。立てない。動けない。どうしよう。殺される。怖い――。

虹歳(にじとせ)様――!? 殿下、おやめください! 下がってください!」

 神官長の焦った声が遠くで聞こえる。

「運べ! 早く虹歳(にじとせ)様を外へ!!」

 待機していた屈強な従者たちに抱きかかえられ、私は引きずられるようにしてその部屋から連れ出された。鉄格子の向こうで、黒い狼が悲痛な目でこちらを見ていたような気がしたが、それを確かめる余裕なんて、今の私には一ミリも残っていなかった。


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