69.愛する義妹
(……俺はここで死ぬのか……)
橋の下の河原で横たわりながら、三洲穂は川の流れを眺めていた。
昨日首のあたりに発疹が出たかと思ったら、今ではもうほとんど動くことも出来ない。
この河原には、同じように行き場を失った斑病の患者がたくさん横になって死を待っていた。
『和名倉ノ庄では無料で医者に診てもらえる』という噂を信じてやって来たものの、実際には無料で診てもらえるのは庄民だけだった。三洲穂のような余所者は、この河原に行けと言われた。
(……おふくろ……すまない……)
自分の命など、今となってはどうでもよかったが、故郷にひとり残してきた母親のことだけが気がかりだった。
三洲穂の母親は、とても優しく、美しい人だった。
三洲穂を生んだ後、母親は産後の状態が悪く、二度と子供が産めない体になってしまった。
かつて防人がいた格式の高い南ノ庄の庄長をしていた母親にとって、跡継ぎの女性が産めないということは、致命的だった。
母親はたとえ男であっても、三洲穂に庄長を継がせたかったようだが、親戚が全員反対した。
『格式の高い南ノ庄の庄長は、女であるべきだ』
結局、母親は、自分の妹の娘を養子にし、跡を継がせることにした。
三洲穂は十六才の時に、はじめて二歳年下の義妹に会った。
「お義兄様! よろしくお願いしますね!」
そう言って笑う義妹は、笑うと笑窪のかわいい向日葵のような女の子だった。
初恋だった。
三洲穂は義妹とよく剣術の鍛錬をした。
乱れた着物からのぞく義妹の汗に濡れた肢体は、年齢よりも発達しており、三洲穂の欲望を刺激した。
しかし、義理とは言え妹なのだ。許されぬ仲だ。三洲穂は自分の欲望を固く戒め、そ知らぬふりをした。
夏の暑い夜、三洲穂は水を浴びに屋敷の水場にやって来た。すると、先客がいた。義妹が水浴びをしていたのだ。月光に照らされた義妹の体は美しく、三洲穂は身を隠すことも忘れ、立ち尽くした。
「うふふふふ。お義兄様ったら、そのような目で義妹を見られては困ります」
義妹は三洲穂に気づくと、一糸まとわぬ体を隠すこともせず、そう言って微笑んだ。
ゆっくりと三洲穂に近づいた義妹は、三洲穂の首に手を回すとねっとりと熱い口づけをした。三洲穂はもう自分の欲望を抑えることが出来なかった。水場の脇の茂みの中に義妹を押し倒すと、ひたすらその肢体をむさぼった。
たとえ、義妹だって構うものか。自分は義妹を愛している。結婚したい。
そんな三洲穂の想いを弄ぶように、義妹は次から次へと男を漁っていた。
三洲穂との剣術の稽古が終わり、義妹が汗ばんだ躰を、襟口から手を入れて拭いている時だった。
「お前のことが好きだ。何故ほかの男に躰を許すのだ」
三洲穂の言葉に、義妹は自分の乳房を拭いていた布を三洲穂の顔に当てて微笑んだ。
「お義兄様。わたし達は兄妹ですよ。許されざる仲なのです。ご辛抱くださいませ」
そう言って去った義妹の後で三洲穂は立ち尽くしていた。
義妹の言う通りだった。
格式の高い南ノ庄の庄長となる義妹にとって、こんなことは許されざることだった。
だが、三洲穂の義妹への想いは強まるばかりだった。
義妹が新しい男と次から次へと奔放な行いをしていると聞くたびに、三洲穂の心は引き裂かれる想いだった。
(このままでは、いずれ義妹を襲ってしまうかもしれない)
自分の抑えきれない想いが限界に達しそうになった時、三洲穂は母親に神都の寄宿学校への進学を希望した。
もう、義妹とは距離を置いた方がいい。
三洲穂は寄宿学校に行くことで、義妹への想いを断ち切ろうとした。
反対する母親を説得し、三洲穂は強引に寄宿学校に行くことを決めてしまった。
神都へと旅立つ前日の夜、三洲穂の部屋を義妹が訪ねてきた。
「お義兄様がいなくなってしまうなんて、寂しくて死んでしまいそうです」
そう言って涙を浮かべる義妹が、三洲穂の胸に抱き着いてきた。
義妹の甘い香りが三洲穂にあの夜を思い出させる。
思わず抱きしめて口づけしようとする三洲穂に、義妹は両手で三洲穂の顔を挟んで言った。
「うふふふ。お義兄様、偉くなって帰って来て下さいね」
そう言って部屋を出て行った義妹を見ながら、三洲穂は思った。
神都で出世し、義妹を嫁としても誰も文句が言えないほど偉くなってやると。
しかし、神都の学校で三洲穂を待っていたのは壮絶ないじめだった。




