ハニトラ男には、男に飢えた婚活女性をぶつけるのが正攻法です ①
そもそもの始まりは十二月の月初、マオ少佐が来た翌日辺りの事だ。
この頃は近づくクリスマスと年末年始について思いを馳せていた。
「祝勝パーティーですか?」
マオ少佐がまだ来ない二人っきりの昼食中に、松永大佐の口からパーティーの予定を聞かされた。出席の為に松永大佐が何日か不在になるのか?
「ああ。戦後処理はまだ残っているが、各国の要人と各支部上層部の人間を集めた祝勝会の開催要望の声が防衛軍長官のところに集まっているらしい。戦後処理が終わっていない事を踏まえて、年末に行う忘年会代わりのパーティーで、一緒に祝勝会を行う事になったらしい」
「開催される経緯については理解しましたが、松永大佐は招待されているのですか?」
「日本支部代表の一人として支部長と一緒に参加するが、星崎も参加する事が決まった」
「下士官の私が参加するのですか?」
「厳密に言うと、『ガーベラのパイロットを参加させろ』と要求を受けているそうだ。星崎が正規兵になった経緯を考えると、まだ表には出せないんだが……」
松永大佐はそこで一度言葉を切った。自分の顔を数秒見つめてから続きとなる言葉を一息で言った。
「星崎は参加したいか?」
「嫌です」
「やっぱりか」
拒否したが、松永大佐から『だよな』みたいな反応を返されてしまった。
「ちなみに、この手のパーティーには興味は有るか?」
「ありません。向こうの宇宙にいた頃にしょっちゅう参加していました。頻度は時期によって変わりますが、それでも十日に一回のペースで、夜のパーティーと昼のパーティーに参加していました」
住む国と地域によって変わるが、貴族社会には『社交の時期』が存在する。この時期になると、家都合であちこちのパーティーに参加しなくてはならなかった。
「……そうか」
「? どうしました?」
「支部長に説得するように言われていた」
「そうでしたか」
ため息とセットで告げられた言葉を聞いて納得した。支部長が何を企んでいるのか直接確認を取ろうと決心し、松永大佐に今日の業務(書類仕事)が終わり次第、支部長に直接パーティーについて聞きたいとお願いする。
無理かと思ったが、即了承を貰った。
そして、普段よりも速めのペースで書類を捌き、松永大佐と一緒に支部長のところへ向かった。マオ少佐は隊長室で書類を捌いている。
事前に松永大佐経由で連絡が行っていた事も在り、パーティーに関わる情報を色々と教えて貰った。
「要するに、ガーベラのパイロットを引き抜けないか、接触する腹積もりなんだろう」
「佐久間支部長。どんなトラブルが起きると考えているのですか?」
「ああ。出席者の半分以上が、二十代後半から三十代前半の男性となっている。しかも全員未婚だ」
「ハニートラップですか。大変判り易いですが、パイロットに関する情報は公表していません。何をどうしたら出席者の年齢が偏るのですか?」
「ジェフリー経由で『パイロットは女性』と言う情報だけが漏れてしまった」
「そうでしたか。それで?」
「星崎を参加させるか、身代わりを立てるか。どっちにするか悩んでいる」
「悩んでいるではないでしょう」
「そこで星崎から妙案を貰いたい」
「真顔で言わないで下さい。星崎も真面目に考えなくて良いぞ」
「向こうでも実際にやった策で良ければ、丁度良い策が一つだけ有ります」
「聞こう」
即答したら支部長が前のめりになった。松永大佐は呆れた。
策の前段階として、支部長に可能か尋ねる。
「支部長。説明をする前に、その、確認ですが、年末のパーティーに追加で何人まで呼べますか?」
「追加? 誰を呼ぶんだ?」
「婚活中の女性です」
訝しむ支部長にそう答えた。すると、策の全貌を理解したのか支部長は深く頷いた。同じように理解した松永大佐は引いている。
「うむ。策の内容は解った。沢山呼ぼう。可能な限り呼ぶとしよう。松永大佐は私の護衛扱いにするので、傍から離れないように」
「解りましたが、それでもバレるのではないか?」
「立場が違うのですから、支部長と一緒に会場入りは出来無いですよね? 誰かに『親族の振り』をして貰えば良いではありませんか? 紹介しろと言われていたらまた別で考える必要が有りますが」
松永大佐の杞憂は、ノリノリな支部長に冷や水を浴びせるようなものだった。しかし、指摘と提案をしたら揃って納得顔になった。
「それは……『参加はする』が、我々とは『別行動を取る』と言う事か」
「確かに直接紹介しろとは言われていないな。下級士官が『支部長である私と一緒に会場入り』する事は出来ない。参加を要求されたが『紹介は要求されていない』な。会場入りするタイミングをズラし、別行動をさせるだけで、要求に応えた事になるのか」
ニヤリと笑う支部長は今にも高笑いそうだ。
「丁度良く『星崎と直接話がしたい』と言う御仁がいる。親族の振りはその御仁に頼もう」
「星崎と話しがしたい? 誰がそのような事を仰ったのですか?」
「先々代の上層部だ。次のパーティーに星崎が呼ばれているのなら会いたいと要望を受けていたんだ」
「今になって興味を持たれたのですか?」
「いや、八月の時点で接触の許可を求められていた。作戦が終了するまで待って貰っていた」
「随分と待たせていたのですね」
「そうだ。丁度良く利害が一致したから、向こうの要望にも応えよう。星崎、ドレスと小物類はこちらで用意する。あとで大林少佐に届けさせるから受け取るように」
「分かりました」
こんな感じで、実にあっさりと自分の要求は通った。
そして月日は流れて十二月下旬。祝勝会前日になった。
自分は親族の振りをして貰う人物と合流と打ち合わせの為に、大林少佐と共に合流先のホテルへ向かった。松永大佐とは別行動である。
今回、移動するに当たって、認識阻害系の術を付与した眼鏡型の魔法具を掛けて、顔を正しく認識出来ないようにする。これを使うと髪色は覚えていても、顔を覚える事は不可能となる。『黒髪の……あれ? どんな顔だったっけ?』と言う状況が作れるのだ。
なお、眼鏡は一緒に移動する大林少佐にも渡した。
「メイクが不要になりそうなぐらいに便利ね」
……大林少佐が諜報部の人間で在る事を再確認した瞬間だった。
たまに変な言動を取るからすっかり忘れていた。でも、諜報部の人間らしい台詞を初めて聞いた気がするのは気のせいか?
移動の足は飛行機だったけど、チャーター機だったのか途中で乗り換える事はしなかった。
でも着いた先はどこかの国際空港だった。手荷物を手に飛行機から降りる。どこの空港なのかと思ったけど、空港施設内に入る事は無かった。入国手続き類は事前に全て済ませていたのか、大林少佐は淀みの無い足取りで空港敷地内から出た。普通は通るところを一切通っていない。空港の人間にも呼び止められる事は無かった。一直線に空港から出て、空港に止めていた車に乗り込んで移動する。
車の運転は自動化が進んでおり、行先をタッチパネルで選べばそこへ連れて行ってくれる。完全に運転手要らずの状況になっていた。その為、タクシー運転手と言う、職業の存在自体が無くなっていた。
西暦二千五百年頃には、タクシー業界と言えば『自動運転する四輪車を貸し出す業界』へと完全に変わっていたので、奇跡的にも『タクシー』と言う単語自体はまだ残っている。この裏を考えると、貸し出す車の『整備と維持管理を行う人間だけは必要』と言う事なのだろう。
それでも、『人が運転する』車の生産と開発自体は途絶えていない。場所によっては、人が運転しなくてはならない整備されていない土地は存在するし、車の運転が好きな好事家もいる。
ケースバイケースに対応する形で、形を変えつつも残っていた。
変わった車の事情について思い出していたら、目的地のホテルに到着した。予想を大きく上回る程に大きく豪華な、上流階級向けのホテルだった。思わず二度見した。
大林少佐と一緒にホテルのロビーに入るが、受付をスルーしてエレベーターに向かう。SPっぽい人を見たけど、この人からもスルーされた。何故?
「あの、大林少佐。これから会う人はどんな立場の方なんですか?」
「ここで『誰に会うのか』と言わない辺りが星崎ね」
エレベーターのドアが閉まり、二人っきりで周囲に人がいない事を確認してから大林少佐に質問をした。すると、聞き方を間違えたかと思うような言葉が大林少佐から返って来た。間違ってはいないが、反応に困る。大林少佐の反応はそんな感じだ。
「そろそろ教えてあげたいけど、直接会ってからの方が良いわ」
何故そこでもったい付けるのか。親族の振りをして貰うだけなのに、偉い人を呼んだの?
そうこうしている内に、エレベーターは止まった。到着した階層のエレベーターホールは広いけど、続いている廊下の入り口は二つだけだ。大林少佐は迷わずに入り口を選んで進む。歩いて数分で到着した。
大林少佐がドアをノックすると、ドアは内側から開いた。ドアの向こう側には誰もいない。遠隔操作でドアを開けた模様。時代錯誤なやり取りだが、ドアの横には操作する為のパネルが存在しない。
「このホテルはね、防犯に重きを置いているの。事前に送り届けられた専用のカードキーが無いと、ホテルにすら入れないのよ」
「厳重ですね」
「ええ。厳重だけど、伝手が無いとそもそも予約を取る事すら出来ないの」
入る直前に、大林少佐はそんな事を教えてくれた。
ドアの向こうの室内は広かった。
けれども、室内にいたのは二人の老人だけだった。部屋の中央に設置された、ローテーブルを囲むように置かれたソファーに向かい合うように二人の老人は座っている。
その二人に大林少佐は声を掛けた。
「お久しぶりです。元支部長。元大将」
「おお、久しいな」「久し振りだな」
大林少佐の言葉を聞き、自分は思わず声を上げそうになった。
状況が理解出来ず、役職に関する『元』と『前』の違いについて思い出す。
役職で『元』を付けるのは前任の更に前の『歴任の人』で、『前』はその名の通り『前任』を意味する。
この違いを考えて、元支部長と言う事は『四代目支部長よりも前の歴任者』と言う事になる。
百歳以上も生きた初代支部長は既に亡くなっていると聞いた。
二代目と四代目の支部長は、日本支部はおろか政財界に関われない立場に追いやられていると聞いた。
これらの事を考えると、目の前にいる元支部長の正体は自動的に『三代目支部長』となる。一緒にいる元大将は、三代目上層部の人か?
ルピナス帝国の諜報部が作った報告書に三代目日本支部長の名前って書いて在ったかな……いや、それ以前に読んだっけ?
日本支部と日本本国の事は、現支部長が大体の事を把握していそうだから、意訳文章を作る対象から外していなかったか? うん、そんな気がする。
確か意訳文章を作ったのは、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカの五つの国と支部だ。
……こんな事なら、日本支部の報告書を読んでおけば良かったな。
自分が内心で後悔している間、大林少佐は立ち上がった二人の老人挨拶を交わしていた。
「星崎。こちらの二人を紹介するわね。星崎元三代目支部長と、松永元大将よ」
「……え?」
大林少佐から老人二人の紹介を受けて、自分は呆けてしまった。
聞き間違いだろうか? いや、聞き間違いであって欲しいんだけど。
「あ、あの、大林少佐?」
「説明するから落ち着きなさい」
大林少佐からそう言われては、黙るしかない。
四人でソファーに座り、二人の老人から改めて自己紹介と状況の説明を貰った。




