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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
新しい変化 西暦3147年12月

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交流会・午後 休憩

「それにしても、まさか松永大佐と大林少佐から逃亡して鍛えた足腰を披露する日が来るとは思わなかったな」

「支部長は逃げ足『だけは』速いですものね。最近は運動不足気味ですが」

「普通は披露するものでも、自慢するものでもありませんがね」

 大林少佐と松永大佐の物言いに棘を感じる。

 

 最後のシーフードカレーを食べながら発せられた支部長の発言で、分かる人は分かるかもしれないが、交流会の最後を飾る競技は『支部長だけで行う五十メートル走』なのだ。

 ある意味、交流会のフィナーレを飾るに相応しい競技だろう。

 くじ引きでこの競技と出場者を引き当てたオランダ支部長に理不尽にも批難が集まり、オランダ支部長も出場する事で落ち着いた。

 現在の休憩時間は『各支部長の(早過ぎる)心の準備をする為の時間』とも言える。

 代理を立てるには、他支部から許可を得る必要が有るし、何より『他支部が代理を立てる事を認めなくてはならない』事にもなる。今から副支部長を呼び寄せようにも、それは代理を立てるも同然なのでやっぱり他支部からの許可が必要になる。


 支部長は昼食時と変わらない食欲を見せる中佐コンビを恨めしそうに見てから呟く。その隣には、焼いたカマンベールチーズに蜂蜜を掛けて食べている大林少佐がいた。

「このまま日本支部が首位を独走して良いものか悩むところだけど……」

「良いんじゃねぇの」

 支部長の心配を『杞憂だ』と言わんばかりに対応したのは、残りのドライカレーを食べていたサイだった。ボルシチの残りを食べていた自分は、食事の手を止めてサイを見た。

「ウチの陛下から『首位独走のままで終われたのなら、おまけを付けても良い』って言っていたぜ」

「それはおまけの中身にもよる」

「あー、色を付けるってさ」

 色を付ける。

 その意味を理解したのは自分と支部長だけだった。残りのビーフシチューを分け合って食べていた如月学長と武藤教官は今月の定例会議の内容を知らないので、怪訝そうな顔をして顔を見合わせた。

 マオ少佐と中佐コンビは思い当たっていない。松永大佐はカレーを食べる手を止めて少し考え、『もしや』と呟いた。

「サイ。それは決定事項なの?」

「おう。決定事項だ。お前、ディフェンバキア王国に強請ったんだろ? 首位独走状態で終われるのなら、二種類で一個小隊分にまで増える」

 二種類で一個小隊分にまで増える。

 その意味は、クォーツとホークスアイのパーツがそれぞれ三機分ずつ貰えると言う事だ。

「ふむ。ならば現状維持で行くぞ。他支部から嫌味を言われたら、迷う事無くそちらの名前を出すがな」

「構わないぜ。寧ろ、こう言う事が突発的な課題のように出されるって、教えた方が良い。思い付きみたいな事に応えられるような支部じゃないと、こっちに付いて行けないって理解させるべきだ」

 些細な事でも、常に結果を要求される。それが、向こうの宇宙の常識……でもないか。小さな実績を積み上げて、信頼を得るのはどこも同じだ。

 日本支部の方針が『このまま首位独走を維持』で決まったところで、『酒が欲しい』と呟きながら焼いたカマンベールチーズを食べていたマオ少佐が口を開く。

「今後の方針が決まったんなら、残りの競技の作戦について考えようぜ」

「作戦は人選によるだろう?」

「その人選を決めようって話だ。早撃ちが得意な奴って少ないだろ? 事前に軽く練習が出来るから、そこで二人を決めるのか?」

 残り三つの競技の内、最終競技を除いた二つの片方は訓練生を含めた三人で行う出場競技なのだ。その競技内容は『クレー射撃』――簡単に言うと『早撃ち』だ。

 通常のクレー射撃のルールとは違い、ライフル銃で五分間の間に三人で撃ち落とした的の数を競う。

 如月学長が『一度は出場しないと、訓練学校に戻ったら何か言われるかもしれない』と言って、早々に立候補(早撃ちは得意な方らしい)した。これに反対意見は出ず、如月学長の出場はあっさりと決まった。

 そしてもう一人は、即決で井上中佐になった。

「マオ少佐。早撃ちは井上の得意分野ですよ」

「……本当か?」

「はい。佐々木の言う通りに、早撃ちはそこそこに得意です」

「ふむ。そうならば、一番の問題は星崎になるのか」

「? 私は大丈夫ですよ。精密狙撃ではないのなら、命中率はそこそこ良いです」


 射撃に関しては、ルピナス帝国にいた頃に狙撃の専門家から学ぶ機会が有った。その時に実戦さながらの銃撃戦を行いながら、一から学び直した。

 それでも、直線距離が百五十キロを超えると命中率は七割にまで下がる。『あと少し、もう少しなのに』と何度も言われて凹んだ覚えが有る。

 専用装備で二百キロ先の逃走中の目標を狙撃する機会が有り、その時に三発目で撃ち抜いた。けれど、『一発で出来ないのか』と方々から言われた。


「星崎。……お前が命中率そこそこって言うな」

 過去を思い出していると、井上中佐が口の端を引き攣らせながらそんな事を言った。その隣にいる佐々木中佐も頷いている。

「反射されたエネルギー弾を撃ち落としたお前が『そこそこ』だと、大抵の奴は下手になるぞ」

「それで『そこそこ』は嫌味にしかならないぞ」

「? 何をやっても貶す評価しか受けた事がないので分かりませんが、探せば私より上の人はいますよ」

首を傾げて佐々木中佐とマオ少佐の言葉に回答すれば、支部長と如月学長と武藤教官が顔を顰めた。

「星崎。これまでに受けた評価は一度忘れなさい」

「褒め過ぎると調子に乗る人間は確かにいるけど、一度も褒められず、重箱の隅をつつくような批評だけを受け続けた結果だな」

「正当な評価を受ける機会が有れば、こうはならなかったかもしれないと思うと、口惜しいな」

 大人三人から『痛恨の極み!』と言わんばかりの事を言われて、自分は戸惑った。

 

 正直に言うと、訓練学校で褒められた回数は少ない。

 男子生徒からは『凄いな』の言葉を貰う機会は在ったけど、それだけだった。しかも、大体は『俺にも教えてくれ』と続いたので、誉め言葉なのか、教えを乞う為のおだてる文句なのか、判断が難しかった。


「あー、そ、そう言えば、競技内容はくじ引きで決めていましたよね? ルールの事前通知って、意味が在るんですか?」

 微妙な空気になって来たので、空気の払拭ついでに疑問を解消する為に口を開いた。

 支部長は『ルールの事前通知が無い』と言っていたが、くじ引きで競技を決めるのならば、ルールの通知は無くても良いと思う。

 そう思って、大人一同に質問をした。中佐コンビは交流会に参加経験が無いので、カレーを食べる手を止めて『確かに』と頷いた。

 一方、参加経験者の残りの大人一同は心底面倒臭そうな顔になった。

 代表して、支部長が回答してくれる。

「一応、意味は存在する。当日行う競技の『候補の種類を事前に通達する』のが決まりだ。連れて行った人員で臨機応変に上手く対応する訓練を兼ねている。競技の候補から、想定できることを想定し人選を行う。くじ引きで競技が正式に決まるのは、各支部に『予測不可能な未来に対応させる』為だ」

「戦術予測の訓練みたいですね」

「みたいではなく、正にその通りだ。戦術予測系の訓練は演習を行わない限り、簡単には出来ないからな」

「チェスとか、シミュレーションゲームみたいなものってないんですか?」

「そう言ったのは無いな。過去に何度か作られた事は在るんだが、作られても士官学校の艦長育成コースに持って行かれる」

「そうなんですか」

 作っても士官学校に持って行かれるのならば、ツクヨミには無さそうだ。

「それと星崎、一つ訂正が有る。今はチェスよりも、将棋が好まれている」

「将棋? それは、……取った駒を再利用出来るからですか?」

 支部長から受けた訂正に、自分は将棋のルールを思い出してから回答した。チェスと将棋のルールの違いを考えると、これが正解な気がする。

「その通りだ。『使えるものを全て使う戦術を考えろ』の教えが広まっている。そのせいで、チェスよりも将棋が好まれるようになった」

「そんな経緯が在ったんですか」

 支部長からの解説を聞き、そう言えばと、とある事を思い出した。

 ……AIが誕生した初期、チェスの世界王者がAIと勝負して負けたんだっけ? 将棋がAIに負けるようになったのは、技術が進歩したもう少しあとの事だ。

 この辺を考えると、チェスではなく将棋が採用された理由に納得出来る。

 でも、『減りつつある手駒でやり繰りする経験』を積むのならば、チェスの方が良いと思う。

「ルールに関してはこの辺で良いだろう。クレー射撃の出場者が決まったんだ。残る複合障害物競走について話し合おう」

 支部長は手を叩いて話題の転換を図った。

 でも、支部長が言った『複合障害物競走』の内容を自分は知らない。

 大林少佐がスマホを操作して、空中ディスプレイが投影された状態で過去に行われた競技中の映像を見せてくれた。初参加の中佐コンビとサイと一緒に映像を見る。

「「……」」「面白そうだな。俺が参加しても良い?」

 三人の反応は二つに分かれた。

 中佐コンビは唖然として固まった。一方、サイはアトラクションの一種と捉えたのか、目を輝かせて出場したいと強請った。

 そして自分は『何か見覚えが……』と、記憶を探っていた。


 年末の特番で、体力と筋肉自慢の俳優や男性アイドル、オリンピックの金メダルに手が届きそうなアスリートが悉く途中で退場し、最後まで残ったのは、ガソリンスタンドマンとか、毛ガニ猟師とか、消防士とか、教師とか、大工とか、仕事の合間にこれに参加する為に人生を捧げたような男だった。

 テレビ的に、見栄えする俳優やアイドル、話題になりそうなメダリストやトップアスリートに勝ち上がって欲しそうな感じがするけど、『名も無きアスリート達のオリンピック』として、毎年年末に放送されていた。

 そんな有名な忍者の名前を冠した番組が在った。

 複合障害物競走の内容がその番組にめっちゃ酷似している。『マジでこれなの?』って、思わず二度見した。

 支部長からルールを聞くと、五分間で複合障害物競走を走破したタイムの速さで順位が決まる。マジでテレビ番組と同じだった。

 支部長が言うには、『西暦二千年代のオリンピックで実際に行われた複合障害物競走』で、『日本のバラエティー番組を参考にした』競技種目だそうだ。

 見覚え云々以前に、マジで元ネタだったのか。実際の番組を視聴した事がある自分からすると、海外で人気が有る事を知っていたけど、これには困惑するしかない。


「サイヌアータ殿、出場するのは構わないが……、他の競技に比べると危険なのだが、良いのかね?」

「良いぜ。首都防衛支部(ウチ)の訓練に比べれば、大分優しいからな」

 支部長が言う通り、危険だろうね。海外版は『安全性大丈夫?』って、感じのものが多かった。それでも、サイが負傷するイメージは湧かない。

「サイ、……体重の三倍の重さが有る装備を背負った状態で、アゲラタムの掃射を回避しつつ地雷原を全力疾走する訓練と比べるのは、流石に駄目だよ」

「それもそうか」

 訂正を入れたら、サイはあっさりと納得した。その様子に、幾人かが肩透かしを受けたような顔になる。

「納得するな。突っ込みどころしかねぇぞ」

「ははは。向こうの宇宙の訓練はどれだけ過激なんだい」

 マオ少佐と如月学長が顔を引き攣らせた。言葉は発していないが、険しい表情を浮かべた支部長の額が滲んだ汗でテカっている。

「支部長、参加人数に制限は有りますか?」

「いや、人数制限は無い。リタイア率が高いせいで、どこの支部も大体五人ぐらいは出場させるんだ。だから、一人目で四分三十秒以内の好成績を残したら、二人目は参加させない事が多い」

 支部長の言葉を聞き、自分はサイに『指定時間内に踏破可能か』、試しに聞いてみる事にした。

「サイ、二分ぐらいで踏破出来る?」

「少し厳しいな。追加で三十秒は必要だな」

「それでも、二分半で行けるのね」

 厳しいと言いつつも、三分以内で踏破可能なのか。だったら、サイが一人で最速記録を叩き出せば、他の人が出る必要は無いな。

 なお、サイが地球の時間単位を理解しているのは、チャーター機で移動中に単位の使い方の違いについて教えたからである。

 

 余談になるが、向こうの宇宙では、一時間=一刻、一分=一(こつ)、一秒=一(ばく)、となっている。

 例を挙げると、十五時十五分五秒は、十五刻十五忽五漠と早口言葉のようになる。言い難いので、十五分は四半刻、三十分は半刻と言うか、忽を抜いて言う人が多い。 


 サイの『三分以内で踏破可能』の発言に、微妙に白けた視線が集まった。サイは当然のように無視した。

「松永大佐、複合障害物競走の最速記録は何分か分かりますか?」

「どれ程速くても、四分は掛かるぞ。三分以内で踏破は、……流石に不可能じゃないか?」

「首都防衛支部の訓練内容と比較すると可能ですよ」


 日々訓練で『アゲラタムに襲われる』首都防衛支部の訓練は非常にハードなのだ。

 これだけハードなのには理由が有る。

 首都防衛支部の訓練は『想定出来る全ての事に対応出来るように訓練を積む』事を目的としている。あり得ない事はあり得ないので、数多の事を想定した訓練を毎日行っている。故に、訓練は自然とハードなものになって行った。国家への忠誠心が強く、訓練好きでなければ、やって行けなくなっている。

 追加情報を言うと、向こうの宇宙の各国では、『アゲラタムと生身でやり合える人材』を何人か確保しているのだ。各国大体、条件は付くものの、一人はアゲラタムとやり合える奴が必ずいる。

 これはルピナス帝国も例外ではなく、セタリアを筆頭に『生身でアゲラタムと防戦可能な人材』が二十人近くもいる。この人数にはサイも(専用装備と保有する異能を限界まで使えばと、条件は有るが可能)含まれる。

 自分(魔法で身体強化済み)やヤッカ族のニゲラのように、『素手でアゲラタムを起動不可に追い込む』奴は宇宙全体で五十人ぐらいはいた筈。この人数は各国が公表した人数の合計なので、実際の数はこれの三倍と言われている。


「星崎。出場しないお前が断言しても良いのか?」

 武藤教官の言葉に同意するように幾人かが頷いた。この疑問の回答は、自分が口を開くよりも先にサイが回答した。

「大丈夫だ。映像を見た範囲だが、踏破出来なければ、俺が『訓練をやり直して来い』って言われる内容だ」

「そうなのか?」

「ああ。だから、心配は要らない」

 サイが自信満々に言うと、本人の発言だからか武藤教官は引き下がった。

 

 こんな感じで休憩時間は過ぎ、残る最後の三つの競技に臨む事になった。


予想よりも少し長くなったので分けました。


作中に登場する複合障害物競走ですが、SASUKEを参考にしています。

今回競技種類のネタを考えている時に参考までに調べたら、2023年の時点でオリンピックでの採用が検証され、2028年のロス・オリンピックで海外版のSASUKEを参考にした競技種目が、障害物レースとして採用されるそうです。

知らなかったので吃驚しました。

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