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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
新しい変化 西暦3147年12月

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212/220

交流会は始まる前から雲行きが怪しい ③

 困惑するゲルト大佐を見て、マオ少佐と中佐コンビも困惑する。

 ここで袋の中身を教えた方が良いかなと思った瞬間、ハルマン大佐がやって来た。その後ろにはブラウン大佐もいる。存在を明かさない方が良いと判断したのか、ゲルト大佐は何も言わずに袋を自分に差し出した。

「おい、マオ。もう一つ聞きたい事があるんだが……」

「しつけーぞ、ハゲ! 来るんじゃねぇ! それで最後か!?」

 背後から、ハルマン大佐が再びやって来た。

 これまで一人で対応して来たマオ少佐も、喋りつかれて来たのか舌打ちを零した。他支部の対応を代わりたいけど、自分と中佐コンビは交流会に参加経験が無く、こちらに来る人は大体マオ少佐目当てで来る。

 自分は背後へ向き直り、受け取った袋を膝の上に置いた。ハルマン大佐の後ろにはブラウン大佐もいた。その後方では、イタリア支部とアメリカ支部の面々が言い合いをしており、ロシア支部は別のテーブル席に着いていた。

「さ、最後だ。嬢ちゃんは八月に臨時異動になったとか言っていただろ? 噛み合わなくないか?」

「こいつはな、『説明が面倒だから周りに合わせろ』って支部長に言われていたんだよ。八月に訓練生の制服姿でいたら噂になって、正規兵の制服を着るようになったんだと。その時に、支部長がそんな事を言ったらしい」

「支部長級がわざわざそんな事を言うのか?」

「実戦に巻き込まれた使える奴の状態を気にしたって思わないのか?」

「そうだとしても、正式にマツナガの下に異動したのは九月だろ? 一ヶ月の間に何が起きたんだ?」

 執拗なハルマン大佐の質問に回答したのは、意外な事に井上中佐だ。

「ハルマン大佐。八月の半ばに、軌道衛星基地が揺れて、大騒動になったんです」

「基地が揺れた? 隕石、じゃないよな?」

「ご存じありませんか? 日本支部が技術調査の為に回収した敵機の内の一機が突然基地内で暴れ始めたんです。撃破しましたが、他支部も同じ敵機を確保していたので、支部長が公表して情報の共有を行いました」

「……ああ、あれか。いや待て。俺がその一件を知ったのは九月だぞ? それと嬢ちゃんの異動と何の関係が……」

「非常に恥ずかしい話ですが、その一件で開発部にて色々と発覚し、結果として松永大佐の仕事が増えました」

「あー、つまり、アレか。マツナガの仕事が増えて、嬢ちゃんがヘルプで入り、試しにマツナガの仕事をやらせたら、想像以上に出来たから、そのままマツナガの下に入ったと?」

「その通りです」

 概ねとか、大体とかを付けずに、自分はハルマン大佐の言葉を全肯定した。ここで、不要な言葉を付けると怪しまれるから、ちょっと面倒だ。ほぼ合っているから、否定のしようが無いと言うのも有る。

「しかし、八月と言ったら、訓練学校は夏休みだろう。林間学校はどうしたんだ?」

 他支部にも林間学校が在る事に驚きつつ、これに関しては自分が回答する。

「それがですね。実戦に巻き込まれたり、月面基地で襲撃が発生して、更にトラブルに巻き込まれた事で訓練学校への期間が延びに延びて、私だけ期末試験が受けられなかったんです。そこで支部長から『期末試験の平均が九十五点以上だったら林間学校免除』とお言葉を貰いまして、頑張って林間学校免除を勝ち取りました」

 これに関しては、紛れもない事実だ。仮に訓練学校に問い合わせても、同じ回答が返る。

「じゃあ、その、何だ? 八月に軌道衛星基地にいたのは……」

「七月の終わり頃に、急に『軌道衛星基地に向かえ』って、命令書と一緒に謎の指示が来たんです。訓練学校の教官は『色んな意味で後生の為になるから行け』としか言わなかったです」

「後生の為に行けって、それはどこをどう考えても『林間学校免除生徒を校内に置いておきたくない』と言う、学校側の意図が見えるぞ」

「私は指示を受けただけなので、分かりません」

 なお質問を重ねようとしたハルマン大佐だったが、ゲルト大佐が体ごと背後に振り向いてから口を開いた。

「ハルマン大佐。質問を重ね過ぎだぞ」

「……ゲルト大佐。そう言われても、気になる点が多過ぎるのだ」

 ゲルト大佐の窘めるような声音を聞き、ハルマン大佐は舌鋒を少しだけ弱めた。

「気になる点が多かろうが少なかろうが、他支部の事に干渉し過ぎだ」

「ゲルト大佐。お前さんは気にならないのか?」

 勢いを無くしたハルマン大佐の代わりに、これまで沈黙していたブラウン大佐がゲルト大佐に問い掛けた。

「気にしようが、他支部内で決まった事だ。気にしても己が所属する支部に意味は無い。それに、初代日本支部長と同じ異名を持つ現支部長が、無策でここに来たとは思えん。事前に入念な打ち合わせを済ませている筈だ。たった今、発覚した内容を日本支部に問い合わせても同じ回答が返って来る可能性が高い。それが日本支部長の意向で、日本支部が認めた真実だ。余人があれこれと質問を重ねようが、現実は変わらん。マオ少佐のように口が堅いと証明出来れば、その先が聞けるだろうが、出来るのかね?」

 ゲルト大佐はマオ少佐の首に巻かれているものにちらりと視線を向けてから、ハルマン大佐とブラウン大佐を見た。難しい顔をした二人の大佐は、何も言わずに沈黙した。沈黙の意味は『出来ない』と言う事か。

 ゲルト大佐の言葉は、『所属外の他支部の情報に己の命が賭けられるか?』と聞いているも同然なので、沈黙するしかないのかもしれない。あるいは、どこかで喋る予定だったのかもね。

 これまで言った事は概ね事実なので、口にしていない事は在っても、嘘は吐いていない。

 仮に、『支部長からそう言われた』と自分が回答し、その件について問い合わせを受けても、『支部長が同じ回答をしたら嘘ではなくなる』のだ。口裏合わせは大事だね。

 二人の大佐が黙った。ゲルト大佐は二人に所属支部のもの達がいる場所へ行くように促すも、去る気配が無い。

 さて、どうやって去って貰うか考えて、ふと、疑問を抱いた。

「ハルマン大佐。お尋ねしたい事が一つ有るのですが良いですか?」

「構わないが、何が聞きたいんだ?」

 話題の転換を兼ねてハルマン大佐に尋ねると、質問の許可が下りた。

 良し。これで聞ける。ハルマン大佐の返答次第では、今後の質問拒否のカードになる。

「ハルマン大佐は佐藤大佐のご友人を始めとした周辺の方々とも付き合いは在りましたか?」

「在ったには在ったが、随分と奇妙な事を聞くな」

「本日武藤教官も来ています。ここに留まっていると言う事は、武藤教官に挨拶する予定が有るのですか?」

「「……」」

 ハルマン大佐のみならず、ブラウン大佐までもが白目を剥いた。どうやら、ブラウン大佐も武藤教官の事を知っているらしい。

「嬢ちゃん。もう一回、言ってくれないか? あのカーリーが何だって?」

「武藤鈴教官が、如月恵介学長と一緒に、本日交流会に来ています」

「「……」」

 武藤教官と如月学長の名前をフルネームで言って、『その二人が今日ここに来ているよ』と言ったら、二人の大佐は絶望に満ちた顔をした。

 悲壮感漂うと言うより、間違えて地獄の底に来てしまった『ガチでヤベェ』感が漂う絵面だ。

 数分の間を置いて、正気に戻ったブラウン大佐はハルマン大佐の頬を抓り出した。頬を抓られたハルマン大佐がブラウン大佐の手を振り払う。

「痛いぞ、何をする!?」

「いやさ、夢じゃないかと思って……」

「自分の顔でやれ! いや、そんな事よりもっ」

 ハルマン大佐の首がぐりんと動いて自分を見るなり、ブラウン大佐と一緒に自分の両肩をガシッと掴んだ。

 その遥か後方、待機場の出入り口が開いて、武藤教官と如月学長を先頭に十数人が入って来た。武藤教官は自分の状況に気づき、歩調を早めた。如月学長は何故か笑っている。

 そんな事に気づかない目の前の大佐二名は、何故か狼狽えている。

「嬢ちゃん! 冗談でも、カーリーと悪魔の名前を出すんじゃない!」

「冗談で出すには、あの二人の名前は重いぞ」

「いえ、冗談ではないんですけど。後ろを見て貰えば、冗談ではない事が解ると思います」

「「後ろ?」」

 ハルマン大佐とブラウン大佐が背後に振り返った。

 ほぼ同時に、武藤教官がズシンと床を揺らして、二人の前に立った。

 武藤教官の姿を確認した二人の大佐は滝のような脂汗を掻いて硬直した。武藤教官の目がスッと細められた。

「貴様ら、我が校の生徒に何をしている?」

「「も、申し訳ございません」」

「謝罪よりも先に、肩から手を放せ。何時まで掴んでいるつもりだ?」

「「は、はいっ」」

 恐慌状態に入ったのか、二人の大佐の言動が怪しい。それ以前に、新米兵並みに畏縮し過ぎじゃないかと思ったけど、解放されたから、いっか。

 二人の大佐は武藤教官の前で直立不動となったまま動かない。死を覚悟したような面持ちで、滝のような脂汗も止まらない。

 ここで漸く、如月学長が追い付いた。追い付き、状況を正しく理解した如月学長はうっそりと微笑んだ。

「武藤教官、子供の目の前で、子供の教育に悪い事は止めなさい」

 如月学長の言葉を聞き、ハルマン大佐とブラウン大佐の表情は少しだけ緩んだ。だが、如月学長の言葉には続きが存在した。

「やるのなら、人目の無いところでやりなさい」

「「……」」

「確かにその通りか」

 続いた如月学長の言葉を聞き、二人の大佐は白目を剥いた。

 武藤教官も同意したので、漂う絶望感は重かった。

 マオ少佐は『自業自得だ』としか言わない。中佐コンビとゲルト大佐はノーコメントだった。自分はある意味原因なので、何も言えない。

 ハルマン大佐とブラウン大佐は白目を剥いたまま動かなくなった……が、何時まで経っても去る気配が無い事に苛立った武藤教官が二人の尻を叩いて正気に戻した。尻を叩いた際に出た音は、尻を叩いたとは思えないぐらいに重かった。

 二人の大佐は叩かれた尻の痛みで床上を転がったが、武藤教官から『何時まで転がっている! さっさと立って移動しろ!』と一喝を受けて、尻を抑えながらフラフラと去った。その背中は佐藤大佐とそっくりだった。

「ムトウ女史、久し振りだな」

「ゲルトか。確かに久しいが、お前もお前で何用だ?」

 武藤教官はゲルト大佐と知り合いだったのか、目元の鋭さが無くなり、気安い調子で会話をしている。

「軽く挨拶を済ませようかと思ったら、絡まれ始めたのでね。そこの二人が去るまでいる事にしたんだ」

「ふむ。感謝する。今回は選出に時間を掛けられなかったからな」

「そうだったのか。お嬢ちゃんは災難だったな。ムトウ女史は交流会に参加経験の有る数少ない女性だ。判断に困る事に遭遇したら、ムトウ女史に尋ねると良い」

 ゲルト大佐の言葉を聞いて『んん?』と首を傾げそうになったけど、よくよく考えると、武藤教官に喧嘩が売れる男が何人いるか怪しい。仮に数人の男性に囲まれても、返り討ちにしそうな武藤教官の姿を想像してしまった。

「武藤教官って、交流会に参加経験が有ったんですか? 女性はほぼ参加しないとマオ少佐から聞きましたよ」

 黙っていた佐々木中佐が武藤教官に質問した。隣の井上中佐が佐々木中佐の左肩を掴んで止めたが、武藤教官は鷹揚に『構わん』と返答した。

「交流会そのものが歴史が浅い。加えて、主催者側の都合で延期になる事の方が多かった。十数年前までは年に一度のペースだったが、交流会が開催されるようになったのは今から三十年前で、この頃までは月面基地で行われる事が多く、交流会と言うよりも、模擬戦感覚が強かったな」

「そっちの方が別の意味で健全ですね」

 交流会の意外な過去を知り、佐々木中佐を止めた井上中佐が思わずと言った感じで感想を漏らした。

 武藤教官も同意見なのか、井上中佐の感想に頷いている。

「そうなんだがな……。『他支部の力を削ぐ機会』と勘違いした馬鹿のせいで、事故が多発した。その結果、交流会は今のような形で落ち着いた。代わりに嫌がらせが酷い」

 武藤教官が教えてくれた過去を聞き内心で呆れた。

 ……武藤教官の言葉通りなら、昔は交流会が開催された度に怪我人が出た事になるぞ。機会を作っても団結出来ないって、致命的だな。

 セタリアが『他所の支部は見る価値が無い』と言うのも納得する酷さだ。今の日本支部は、現支部長じゃないとセタリアでも見限っていそうだ。

 交流会経験者のゲルト大佐とマオ少佐と如月学長の三人は、誰一人として肯定と否定の言葉を口にしない。実際にはもっと酷かったのかもしれない。

 言葉の裏に感じるヤバい空気を感じてか、中佐コンビはドン引きしていた。

 



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