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モブキャラとして無難にやり過ごしたい  作者: 天原 重音
新しい変化 西暦3147年12月

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211/220

交流会は始まる前から雲行きが怪しい ②

 ブラウン大佐は自分を持ち上げて高さを上げたり下ろしたりして、自分を観察している。そろそろ下ろして欲しい。

 自分の願いがどこかに届いたのか、第三者が待機場に出現した。 

「おう、マオ! てめえ、どの面下げてここに来たんだ!!」

 その一団は怒声と共にやって来た。ブラウン大佐は自分を持ち上げたまま対応しない方が良いと判断したのか、やっと下ろしてくれた。

 足が床に着いたので、佐々木中佐と井上中佐の傍に移動した。中佐コンビは左右に動き、その間に座らせてくれた。マオ少佐の傍は危険な気配が近づいて来ているので、安全地帯にいたい。

 新たにやって来た一団はイタリア支部だ。マオ少佐が以前いた支部でもある。

 イタリア支部の一団の先頭に立つのは、大変ガラの悪い人物だった。

 ……それにしても、イタリア支部の風紀はどうなっているんだ?

 制服は着崩されて階級章は見えず、両袖は捲り上げられて左腕の蛇のような刺青が見える。リーゼントのように固めた金髪は整髪料を付け過ぎているのかテカっている。碧い瞳には憎悪が込められており、鋭い殺意まで混ざっていた。先の怒声もこの人物らしい。その後ろには表情を険しくした数人の男性正規兵の姿がある。

 対峙するマオ少佐は柳に風と言った様子で欠伸を漏らした。

「ふぁ……。俺は事前に何度も、『作戦の結果がどうなろうが日本支部に異動する』って公言したぜ。どの面も何もねぇ」

「それじゃ、何の用でここに来たんだよ!」

「うるせぇ押し掛けが来ねぇようにしろって言われた。俺はお前らからの踏み込んだ質問には答えないからな」

 そう言ってマオ少佐は室内を見回した。こちらの様子を窺っていた人達が、ハルマン大佐とブラン大佐と一緒に、一斉にマオ少佐から視線を逸らした。マオ少佐に食って掛かっているイタリア支部の人物は、大口を開けて困惑の声を上げた。

「はぁ? お前は一体何の為に日本支部へ移籍したんだよ?」

「少なくとも、お前らに情報を漏らす為じゃないな」

 取り付く島もないマオ少佐の態度に、イタリア支部の男性は顔を真っ赤にしてプルプルと震え始めた。

 このまま膠着状態が続くのかと思いきや、ガヤガヤと新たな集団がやって来た。今度は複数だ。どこがやって来たのかと思ったら、アメリカ、ロシアの二つの支部が一度にやって来た。

 目の前にいるのがイタリア支部で、その前に来たのがドイツ支部だから、最初にいた支部はフランスとイギリスになるのか。

 アメリカ支部からは一人、ロシア支部からは一人が、こちらにやって来る。アメリカ支部からはドレッドヘアーの黒人男性がやって来た。ロシア支部はロシア支部の制服を着たゲルト大佐だ。

 ハルマン大佐とブラウン大佐にイタリア支部の面々も、こちらに来る人物の気配を感じ取ったのか、視線が背後へ動いた。その隙にマオ少佐が出したハンドサインに従い、コソコソと席を移動する。移動先でも最初と同じ席順で座った。



「はぁ~、やっと移動出来たぜ」

「マオ少佐、交流会は何時もこんな感じですか?」

 移動出来たからか。自分の右隣に座るマオ少佐と右斜向かいに座る井上中佐が安堵の息を漏らし、何やら色々と観察していた佐々木中佐が漸く口を開いた。

 マオ少佐が佐々木中佐の疑問に回答すべく口を開いたが、質問に回答したのは別の人物だった。

「はっはっはっ、今回が特別なだけだ。毎回このようでは、喧嘩沙汰になる」

 朗らかに笑い回答したのはゲルト大佐だ。自分の左隣にやって来たゲルト大佐は『久しいな』と自分の頭を撫でてから、中佐コンビに視線を向ける。ゲルト大佐の視線を受けて、中佐コンビは顔を少し硬くした。

「そちらの中佐二名が交流会に参加するのは、今日が初めてか?」

「確かにそうだが、どいつもこいつも、な・ん・で、こっちに来るんだ」

 ゲルト大佐に対応するのはマオ少佐だ。階級の上下を気にせずに、マオ少佐はため口で回答した。ゲルト大佐も気にしない辺り、『時と場所と場合は弁える』とマオ少佐の事を信頼しているのかもしれない。

 断りを入れてから、ゲルト大佐は自分の左隣に座った。

「先の作戦で大金星を挙げたのは日本支部だ。どこも内部の話が聞きたいのさ」

「だったらよう、今じゃなくて、昼時にしろ」

「昼は難しい。昼食の仕上げ作業がある」

 ゲルト大佐の言葉を聞き、『ロシア支部も料理が出来る人を確保しているんだな』と察した。

「お、そっちも、現地で仕上げる予定なのか」

「うむ。ここにはいないが、ボルシチに一家言のある奴が何人かいる。どの味付けにするか揉めるのを防ぐ為に、現地で仕上げる事にした」

「ボルシチって、味付けにそんなに大量の種類ってあったっけ?」

 マオ少佐にボルシチについて『何か知っているか?』と解説を求められたので、回答する。

「ボルシチはロシアの家庭料理です。各家庭ごとに味付けが変わる具入りのスープなので、味付けで揉めるのでは?」

「お嬢ちゃんの言う通りだ。オニオンフライチップを入れるとか、ビールやウォッカを入れるとか、アップルコンポートを入れるとか、マーマレードジャムを入れるとか、ココアパウダーとミソペーストを入れるとかで、軽く揉めたのだ。そこで、現地で各自好きな味のボルシチを作る事にしたのだ」

「突っ込みどころしかないが、ココアパウダーとミソペースト? 本当にそれでボルシチを作る気なのか?」

「本人が言うには、亡き日系の奥方が『死ぬ間際でも思い出せる味だ』と言って、この二つを使ったボルシチを作っていたらしい。味は恐ろしく独創的だ」

「……素直に不味いと言っても許されると思うぜ」

「本人は非番の日に必ず作り、美味しそうにスープを完食している」

「お、おおぅ、別の意味でスゲェ」

 ゲルト大佐のカミングアウトのような言葉を受けて、マオ少佐はドン引きした。これには流石に中佐コンビも顔が引き攣っている。


 ……ボルシチに味噌とココアパウダーを入れる人って、本当に居たんだ。創作の中だけかと思っていたよ。

 とあるライトノベル作品の主人公の、父親代わりのロシア系の人物が、亡き妻のボルシチを再現する為に、何度もボルシチを作り食材を探した。一味足りないと研究を重ねた結果、『妻の隠し味は味噌とココアパウダーだ』と気づいたらしい。

 亡くなった奥さんの料理を再現している点に関しては、非常に良いお話なのに、作った料理が全てをぶち壊している。意外な食材の掛け合わせは確かに存在するけど、ボルシチに味噌とココアパウダーの組み合わせは無い。

 それにしても、見た目は普通、中身はゲテモノ料理を食べて、ゲルト大佐は不味いと言わなかったのか。思っても言わなかったのなら、ゲルト大佐は優しいな。


 ここで何か気になったのか、マオ少佐が口を開いた。中佐コンビも少し不思議そうな顔をしている。

「しかし、あそこのハゲと違って、何も聞いて来ないんだな」

「何だ? 聞いて欲しいのか?」

「そうじゃない」

 マオ少佐の否定の言葉に合わせるように、中佐コンビは頷いた。言われて自分も同じ事を思ったので、隣に座るゲルト大佐を見上げた。

「聞いたところで支部長から口止めされている事ぐらいは予想出来る。それに、お嬢ちゃんと最初に会った場所が支部長の執務室だったからな。訓練生が教官を連れずに単独で動いているなど普通はありえない。まして、正規兵の制服を着ていたんだ。余人には言えない事情がある事ぐらいは予想出来る」

「……あそこにいる連中に、こいつの爪の垢を煎じて飲ませてぇ」

 マオ少佐は右腕で頬杖を突き、左手で顔を覆った。間違いなく、この人はロシア支部の良心だ。

 しかし、言われて見るとゲルト大佐との出会いは特殊だ。場所が場所だけに、支部長を経由して会ったとも言える。作戦前にも少し一緒に行動した。十分に興味関心を引くと思うが、聞いて来ない辺り、日本支部に恩を感じているからなのかもしれない。

 そして、マオ少佐には己の過去をもう少し振り返って欲しい。月面基地で会った時に松永大佐と佐藤大佐にしつこく色々と聞いていた事を忘れているのか?

「まぁ、背負っている荷物の中身は気になるが、回答は出来るのかな?」

「全部護身用品ですよ」

 ゲルト大佐からポロっと出て来た疑問は自分の荷物についてだった。これに関しては明言しても良いと言われている。はっきりと言う事で、周囲を牽制出来るから言いなさいとも言われた。

「ほう。護身用品か。確かに必要かもしれないな。交流会に参加した女性は何かしらの被害を被ったと聞く。興味本位で聞くが、何を持って来たのかな?」

「神崎少佐からはこれを渡されました」

 自分はケースを下ろし、中から縦横二十センチ程度の正方形の袋を取り出した。色が黒いので、中に何が入っているのかは見えない。見えるような状態で持ち歩くようなものでもないから、ある意味当然だ。

 袋を受け取ったゲルト大佐は、中身を見て神妙な顔になった。

「何故、これを選んだのかね? それ以前に、どうして日本支部はこんなものを保有しているのだ?」

「それは分かりません。神崎少佐が仰るには『これで叩くと、変な人は二度と近づいて来ない』そうです」

「確かにその通りだとは思うが、流石に子供に渡すものではない。……いや、軽いからコレにしたのか?」

 ゲルト大佐は神崎少佐の言葉を肯定しつつも、『何でコレにしたの?』と困惑している。

 袋の中身はゲルト大佐が困惑して当然の品が入っている。


 神崎少佐がこれをチョイスしたのは、絶対、昨日バンダが来た時の事が原因だ。神崎少佐からすると『自分が使いこなせるぐらいに軽いもの』程度の認識の可能性が高い。

 ちなみに、袋の中身を知っているのは自分以外にいない。

 いざ使う事になったら、松永大佐に進呈しよう。そしてそのまま預けよう。他支部が恐怖のどん底に叩き落されようが、嫌がらせを受ける可能性が減るのならば、支部長も許可を出してくれる。

 と言うか、支部長が却下しても、松永大佐が許可を求めそうだ。

 そして、交流会が阿鼻叫喚の地獄絵図になろうとも、支部長は日本支部にとって有利な状況に持って行けるのならば、許可を出しそうなのが支部長なんだよなぁ。


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