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ソフィアのファンタジックワールド ~竜討伐の物語 編~  作者: 季山水晶
暮雲春樹 王国との連携

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85話 王の病 後編

「なんだ、これは。身体の痛みが見事に引いた。素晴らし薬だ」


 王は興奮気味でベッドから起き上がり、自分の身体を確認するかのように手足を動かした。


 その様子を見たティアは安堵の表情を浮かべた。


「ティアとか申したな。其方に褒美を遣わそう。何か希望はあるのか?」


「有難いお言葉。ならば一つだけ望みがあります」


「なんでも申してみよ」


「国王陛下と同じようにこの街の人々は薬不足で困っておられます。私どもの今ある薬を、庶民の為に販売することをお許しください。それに、私は独占販売を望んでいるわけではございません。素材を手に入れられる人材が集まれば、この街でも調剤が出来るでしょう。薬の価格も安く抑えられ、街の人達は助かるはずです」


「成程。薬を流通させたいのだな。よかろう。其方の薬の効果は我が身を持って実感いたした。どこかで販売するとよい」


「有難うございます」


 ラナはティアと王のやり取りを見届けた後


「ティア殿、大変失礼を致しました。大切な場に水を差してしまいました事を深くお詫び申し上げます。この無礼は王族の無礼ではなく、私単独の無礼。命をもって償わせて頂きます。国王陛下の薬をお願いいたします。…国王陛下、部屋を汚すことをお許しください」


 そう言うと胸元から短剣を取り出し自分の腹に突き刺した。


「きゃー」


 エレナともう一人の侍女は悲鳴を上げた。


 ラナの腹部から血が滴った。苦しそうに蹲り、ラナは自分の命の尽きるのを待った。


 ティアは即座にレイラを抱きかかえ、その現場を見せない様に番兵に託すと、蹲っているラナの元へ駆け寄り、ナイフを抜き投げ捨てた。ナイフを抜いたところから血液が噴出し、ティアも返り血を浴びたが、それには構わず、すぐさまティアは『ヒール』を唱えた。


 ラナの腹の傷は瞬く間に塞がり、生気を取り戻した。


 自分の身に何が起こったのか判らず戸惑うラナの顔にティアは平手で殴りつけた。


「私の前で人が死のうとするのは許しません。その償い方法は色々な人を不幸にします。子供に自死を見せてもいけないし、国王陛下にとっては大切な人材を失う所でした」


 その言葉を聞いて、ラナはその場に倒れ込み泣き崩れた。


 ラナにとっては、王の名誉を守り、エレナとティナに恥をかかせた事への償う方法はそれ以外には思いつかなかった。それは忠誠心故に自分の命よりも最優先されることだと思っている。

 しかし、実際は周りに迷惑をかけた上に、助けられてしまった。ティアに言われることはもっともな話だが、自分ではどうしてよいのか判らない。思考が混乱した状態で自分の浅はかさに対して自責の念に駆られ、それが涙となって溢れ出す。


 そんな時、赤子を抱きかかえる様に優しく温かい腕がラナを包み込んだ。


 ティアはラナよりも随分小柄だが、その包容力は身体の大きさを全く感じさせず、ラナの心を落ち着かせた。


「私もエレナ様もそのような償い方法は望んではいませんよ。さあ、お顔を御上げなさい。あなたも国王陛下の元気になられたお姿を一緒に喜んでくださいませんか?」


 ティアはラナを抱きかかえたまま、ラナが落ち着くのを待った。そして


「国王陛下、先ほどの薬はあくまでも痛み止めでございます。また、切れると痛みが出ますので、残りの薬を置いていきます。それと、国王陛下のご病気に効く薬をトピカの村の薬剤師が調剤中でございます。出来次第お持ちいたします」


「ティアよ。大儀であった。侍女を救ってくれたこと、礼を言おう。それと、今後この様な過ちを起こさぬよう、言い聞かせておくので、予の顔に免じて許してやってほしい。其方の意志は十分伝わった。其方の持つ薬は全面的に信用できるとお墨付きを書く事にしよう。さあ、2人ともその血の付いた衣類を着替えるがよい。その様な格好を誰かに見られたら大騒ぎじゃ」


「では、叔父様、私が着替えをさせてきますわ。あなた、取り敢えず、ガウンを2着もっていらして」


 エレナはもう1人の侍女に向かってそう告げた。


「さあ、ティア。先ずは顔に付いた血液を綺麗にしましょう」


 まだ、少女と言ってよい年ごろなのに何という豪傑さだ。うむ。予もこうしてはおれぬな。


「よし、予も久々に玉座に参るぞ。元気になった姿を皆に見せないとのう」


 王の顔に活気が戻って来た。先程迄床に臥せっていたものとは思えない程だ。


 その時、王の前に飛び出したラナが沈痛な表情をし、懇願した。


「あの、国王陛下。どうか私の処分をお願いいたします」


 周りがどの様に優しい言葉をかけてくれようとも、ラナは自分自身が許せなかった。このままでは生きていく事さえも憚られる。


 王はそんなラナに近寄り、そっと肩に手を載せた。


「お前は1度死んで償ったではないか。それで十分だ。お前の忠誠心を予は深く心に刻もう。それでも何かの処分が必要なら、お前の処分は『生きる』と言う処分じゃ。時には生きる方が辛い時もある。これからも尽くしてくれよ」


 その言葉を聞き、ラナは抑えきれない涙を止めることも出来ず、黙って何度も頷いた。


「さあ、ラナ。予の着替えを手伝ってくれ、庶民が苦しんでいる事すら気付いていなかったとは失態じゃ。これからまつりごとを始めるぞ」


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