レポート55 悪夢の中の悪夢
岡江久美子さん、新型コロナウイルスによる肺炎のため、本日5時20分に63歳で死去。
重苦しいニュースです。思い出すのは、「連想ゲーム」。あの番組に出ていた人は、みな明るくて清潔で、爽やかだった。だから大和田さんと岡江さんの恋愛も、爽やかだった。
ぼくが小説に親しむ以前に、いろんな言葉を憶えたのがあの番組だった。楽しくて、健全な番組だった。
言葉がありません。
「ねえ、ゴンちゃん」
ぼくは、権田林恵梨香女史に一歩近づき、さりげなく髪の匂いを嗅ぎながら言った。
「ぼくの小説、いつ本になるの? 印税が入ったら、このテレビを買いたいんだ」
「本?」
ゴンちゃんが、よくわからないというように首を傾げた。
「あなたの書いたゴミなんて、一生本にならないわよ」
「え……?」
「なに夢見ちゃってんの。無理に決まってるし。人生無駄にしたいわけ? 早く筆を折りなさいよ」
「そんなひどいこと……だってゴンちゃん、このあいだ、初版1千万部刷ってくれるって言ったじゃん」
「は? んなわけねーじゃん。カスに1円だって払うかよ。この〇〇〇ス野郎」
「〇〇〇ス野郎?」
耳を疑った。ビジネススーツに身を包んだ、スレンダー美女の権田林恵梨香女史の口から、まさか〇〇〇スという言葉が出るとは……
髪のシャンプーの匂いまで、急に〇〇〇臭くなった気がした。
ぼくの身体から、すべての力が抜けた。
やっぱりぼくの書いたのは、カスだっだ。
薄々そんな気はしていた。作家になりたいという怨念を籠めて、藁人形に五寸釘を打ち込むように、歯を食いしばって力いっぱい書いた結果、ゴミしか生産していないのではないかという疑いは、自分自身でもずっと持っていたのだ。
「そうか。ゴンちゃんが言うならまちがいない。ぼく、作家になるのはあきらめたほうがいいね」
「たりめーだろ。このドリ〇〇野郎」
「ハハハハ、ドリ〇〇か。確かに。〇〇〇がドリルのくせに、変な夢見てごめんなちゃーい」
おどけて見せた。しかしタンクトップの下では、胃の痙攣が止まらなかった。
死のう。作家になれないとハッキリしたんだ。もう生きてる理由はない。潔く人生から去ろう。
高校では勉強もせず、ひたすら小説を読み、書いた。
進学はしない。就職もしない。最短で文壇デビューするために、フリーターをしながら文章修行をするのだと決めていた。
そのビジョンがなくなった。残されたのは闇。作家になれないのなら、なにをしても幸せではない。幸せになれないとわかっていて、誰が生きる気になる?
悪夢だ。これこそ最悪の、悪夢の中の悪夢。
がっくり膝をついた。ポタポタと、床に涙が落ちる。その涙は、血の色をしているんじゃないかと思った。
「男子高校生」
声がした。顔をあげる。最新型のテレビに、バイオ刑事マンが映っていた。
「おまえは逮捕されるべきだ。そう思うだろう?」
頷いた。価値があるなどと信じて、正真正銘のカスを書きつづけた罪だ。死刑もやむを得ない。
「では罪状を告げよう。おまえはその器じゃないくせに、作家になろうなどとーー」
「待ちなさい!」
女性の声が響いた。ゴンちゃんかと思って振り向いたが、そこにはもう誰もいなかった。
「ユメオ。あなたは悪夢を見せられたのよ。悪夢の言うことなんて信じちゃダメ!」
声の主を探した。と、小さくて目立たないテレビに、牢屋の檻をつかんで必死に叫ぶフラの顔が映っていた。
「悪夢って……ゴンちゃんのこと?」
「そうよ。その女の言ったことは全部嘘」
「良かったあ。じゃあ、ぼくの小説、やっぱり1千万部刷ってくれるんだ」
「それは幻」
がっくりした。なら死のう。
「でもそれがなんだって言うの? あなたの連載を読んでくれてる人がいるじゃない」
「そうじゃ、ユメオ殿」
別のテレビに、牢屋でフワフワ浮いてるアドバイ爺が映った。
「わしのほかにも、ブックマークしてくれとる奇特なご仁がおるのじゃぞ。それだけでも書く価値はあるじゃろうが」
「そうよ。わたしたちの活躍を、きっと楽しみにしてくれているわ。わたしまだまだ、ユメオと冒険したい!」
「フラ。アドバイ爺……」
ジンとした。そうだ。ぼくには冒険の仲間がいる。そしてなにより、読者がいる。レベル18になったのも、一人一人のPVのおかげだ。みんなに支えられていることを、決して忘れてはならない。
「よーし、やるぞお。友情パワーが注入された。さっそくまた今日から、見てくれる読者のために頑張るぞ!」
「罪人がなにをほざくか。おまえは死刑になるんだ」
「黙れ、〇〇〇ス野郎」
ぼくは大画面のテレビに歩み寄り、バイオ刑事マンに指を突きつけて言った。
「今からおまえの欠点を、読者の前でバラしてやる」
PV1818
LV18
レベル18は誇りだ。そしてレベル100になるまで、ぼくは決して諦めない。
我が読書歴 第6回
小学校6年生のときに、人生最大の出来事が起こる。
担任の先生が、1年間に100冊本を読めと言ったのである。
のちに、それは「例えばそういう目標を持ちなさい」という意味だったとわかるが、宿題と勘違いしたぼくは焦った。その日からさっそく図書室へ行き、毎日伝記を借りた。
が、そんなに面白くない。100冊を達成するには、もっと読みやすそうで面白そうなものを選ばないと続かない。
と思ったときに、南洋一郎訳のポプラ社の怪盗ルパン全集全30巻を見つけた。
最初に借りた「七つの秘密」で、雷に打たれた。テレビよりも漫画よりもほかのどんなものよりも、100倍以上面白いものを見つけてしまった!
続きは次回に。




