レポート49 悪夢の映画館(レポート45,46参照)
前回の前書きで、オジサン作家たちのことを書きました。
ぼくはどうやら、オジサンの香りがする小説が好きなようです。
ぼくのいちばん好きな作家はというと、1人には絞れなくて、浅田次郎、司馬遼太郎、島田荘司、松本清張(敬称略)が全部いちばんなんですが、ちゃんとみんなオジサンですね(浅田作品と島田作品には、少年の心も感じますが)。
中でもキング・オブ・オジサンは、松本清張でしょう。松本作品に出てくる刑事からは、加齢臭が匂い立つようです。もう最高です。ぼくは新聞を毎日読むように、松本清張の文章を毎日読みたいとさえ思っています。
オジサンは、偉大なり。
ロケットランチャーとガトリングガンは重すぎるという理由で、アドバイ爺はショットガン、横ウーマンはオートマティックに持ち換えて、10階の映画館に向かった。
「とりあえず、観客席に行ってみるぞ。バイオ博士マンがいるなら、向こうから接触してくるだろう」
〈夢シネマ〉と書かれた映画館の入口をくぐる。中は薄暗く、意外なことに、なにかの映画を上映中だった。
「ねえ、ねえ、フラ。並んで観よう」
コルトパイソンがポケットにあることで、少し度胸がつき、この際デート気分を味わおうという余裕が出てきた。
「なんの映画かしら。暗いトンネルみたいなところを、タンクトップを着た男性が歩いて……やだあの俳優、ユメオそっくり」
ぼくによく似た俳優は、壁に向かって立つと、おもむろに小便をした。
「こんな映画シーン、観たことないや」
俳優はさらに大胆に、ズボンとパンツを降ろして、その場にしゃがみ込んだ。
「最低」
フラが顔を背けた。ほくは逆に、スクリーンから目を離せなくなった。
『ああああっ!!!』
俳優が、最悪の場所にスマホを落とした。もうまちがいない。あれは俳優ではなく、このぼくだ。
『くそっ。もう一度言う。くそおっ!!』
「チッ。暗視カメラかなんかで、ぼくを隠し撮りしてたんだな。バイオ博士マンの仕業かな」
「あの俳優、ユメオなの?」
「うん。場所はこの下の地下道だ」
「見て!」
フラが悲鳴をあげて、ぼくに抱きついてきた。スクリーンには、象よりも大きな蜘蛛が映し出されている。
フラの胸が、ぼくの腕に当たる。
ぼくは音を立てずに唾を呑んだ。
フラの胸にも、当然、神経は通っているだろう。ならば、ぼくの腕にそこが接触していることに、気がつかないはずはない。
わざとだ。
女がわざと、胸を男に押し当ててきた。
なるほど。そういうことですか。じゃあもう解禁だ。そう判断し、唇を舌で湿らせた。
「ちょっと、なにあれ?」
フラが不意に胸を離して、スクリーンを指差した。
ぼくが勇敢にも、無双ブレイクダンスで蜘蛛に立ち向かっているシーンだった。
「みっともない……丸出しじゃん」
「そんなこと言うなよ。このときは、死を覚悟したんだ。せめて死ぬ前に、フラとデートしたかったなあと思って……」
そのときの感情が甦り、ぼくはたまらずフラに覆いかぶさった。
「やめなさい! 丸出し男!」
「キスさせてくれ。生きてるうちに」
「生きてるうちに離れな」
ぼくの顎を、下からウィンチェスターの銃口が押しあげた。
「……どうしても、ダメなの?」
「今はね」
「今? じゃあ、いつかはいい?」
「うん」
「ホント!」
ぼくは天にも昇る気持ちになった。フラはやっばり、ぼくのことが好きなんだ!
『お姉さん、バブリーですね。彼氏いるんですか?』
スクリーンの中のユメオが、横ウーマンに訊いていた。
「……なに今の。丸出しのまんまで」
「いや、あれは、映画のセリフで」
しどろもどろになる。フラの視線をさけようと、顔を横に向けると、逆さ男と横女が身体を絡ませていた。そしてそれをアドバイ爺が覗き見ていた。
「大丈夫かな、こんなんで。本気で街を救う気があるのはぼくだけだ」
ため息をついたときだった。スクリーンの映像に、異変を感じた。
「あれ? あんなこと、なかったぞ」
横ウーマンが、蜘蛛のお腹をキックしている。すると蜘蛛は苦しんで、脚を震わせた。
「ねえ、横ウーマンさん。口づけを少し休んで、スクリーンを観てくれません? なんか変ですよ」
横ウーマンが、横目でスクリーンを観た。すると彼女の口が、逆さ男マンの口からスポンと抜けて、ホラー映画のような絶叫を迸らせた。
「キャアアアアアアーッ!!!!」
蜘蛛のお腹が破れて、蜘蛛の子がウジャウジャ湧き出した。その1匹1匹が、人間の子どもくらいデカい。そしてそれらが横ウーマンに襲いかかり、たちまちきれいに食べてしまった。
「うわー、CGなんだろうけど、すごいリアルだなあ。横ウーマンさん、大丈夫ですよ。ただの映画ですから」
バイオ博士マンは、隠し撮りの映像を、CG技術で
映画にする方法も開発したらしい。科学者だか技術者だか、よくわからない博士だ。
と、腕組みをしたとき--
「ん?」
スクリーンの中から、蜘蛛の子たちが出てきた。
「な、なんだ!?」
一瞬3Dか、と思ったが、その子ども大の蜘蛛たちは、観客席の椅子をぐんぐん越えて、横ウーマンに向かっていっせいに糸を吐いた。
「バカ! 撃て! あれは本物だ!!」
逆さ男マンが、茫然としている横ウーマンを突き飛ばし、蜘蛛に向かってマシンガンを構えたが、遅かった。
横ウーマンは、蜘蛛の糸に引っ張られ、たちまち数十匹の蜘蛛に襲われて、姿が見えなくなった。
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前回の後書きで、史上最高のキャラ小説は「モンテ=クリスト伯」だと書いた。
ぼくは初めて「キャラクター小説」という表記を見たとき、よく意味がわからなかった。そんなものは、大昔からある。夏目漱石の「坊っちゃん」だって、シャーロック・ホームズだって、みんなキャラクター小説だろうと思ったのである。
ホームズのキャラクター、抜群ですね。
目の前で依頼人が気絶しても、介抱するでもなく、依頼人の素性を推理してワトソンに聞かせたする。
そういう人の悪いホームズが、ぼくはとっても好きです!




