新たな客人
ふっ…ざけんなっ!
理由はわからねぇが、動きが鈍い王子二人に舌打ちして、俺はテーブルの上に飛び乗った。
「姫!?」
「アキラ、まて!」
しかも、二人とも、俺をみて驚いた顔をしている。
それが、更に俺をイラつかせる
ー何を呑気にこっちを見てやがる!
伸ばされたアルバンの手を叩き落とし、リアム皇太子の背後から現れた、大きな影に集中する。
奴は、大きな剣を振りかざし、リアムに迫っている。
「ちっ」
俺は屈んで、テーブルに飛び乗った衝撃でも倒れなかった茶の入ったカップを掴んだ。
そのまま、茶の熱さも気にせず、奴にぶっかけた。
「つっ!」
少し、リアムにもかかったようだが、ほとんどは狙い通りに奴の顔に命中した。
振り下ろされる剣がとまる。
よしっ!
思わずガッツポーズをしようとしてこらえ、カップも投げつけてやる。
「このっ!不審者!」
「まっ……」
流石に奴は、それをまともに当てさせず、振り下ろす代わりに剣でカップを受け止めた。
「あんたもボケっとしてんじゃねえよ!」
後ろに危機が迫っているのに、この期に及んでもポカンとした皇太子に叫び、身を起こして、後ろの剣を握る奴の手ごと足で後ろへと蹴飛ばしてやった。
俺は翻ったドレスのスカートを抑え、リアムを挟んで向こうに倒れこんだ奴の姿を確認する。
とりあえず、皇太子やアルバンから距離を置かせる事は成功したが、奴の身柄は抑えていない。
いい加減護衛も動くだろうと、周りに視線をおくってー。
「アキラ、もう良い!」
太いものがお腹に巻き付き、ぐんっと引っ張られると、すっぽりと暖かいものに包まれた。
くん、と、嗅ぎなれた匂いを感じ、アルバンがテーブルの上から抱き寄せて降ろしたとわかった。
「何しやがる、アルバン!」
「悪かった!お前が知っている訳がないのに」
あの不審者が確実に拘束されるまではと、腕から飛び出して警戒体勢をとろうとする俺を、アルバンはさせまいと抱く腕に力を込める。
その行為もかけられる言葉の意味もわからなくて、俺は振り替えってアルバンの顔を見た。
「何を言ってる!」
「アキラ。あれは敵ではない。リアム殿下もよく知る方だ!」
「ーはあ?」
カチン、と頭が真っ白になった。
何をいってんだ、こいつ。
「………おー………。驚いたなぁ……」
ははっと笑う声に再び目を向けると、リアムの後ろで倒れた奴がゆっくりと身を起こしていた。
癖のある黒髪で、アルバンには及ばないもののかっちりとした体つきの奴は、剣を握った手を地面につけながら、そのままあぐらをかいて座っている。
こちらに向けた顔は何故か笑顔だった。
「マルセル、大丈夫か」
「おう、アル兄。ー久しぶり!」
誰だよ。
説明せずに不審者に声をかけるアルバンもそうだか、何もなかったように挨拶をする返す奴にもイラッとくる。
「ーおい!説明しろっ!」
「はっはーっ!元気だなぁ」
「なっ!……アルバン!」
バタバタする俺を抱え込むアルバンは、困った顔をして答えた。
「彼はマルセル殿下。この国の第三皇子だ」
「よろしくな」
「第三………おうじぃ?」
皇子という言葉の部分だけ、嘘つくなという気持ちがのってしまったのか、マジかよというのが顔に出たのか。
コラ、とアルバンに注意される。
あーっはっはっ!と笑い声が大きくなる。
「ごめんな。姫。こう見えても、俺は本当にこの国の皇子サマなの」
ニヤリと笑って、マルセルって呼んでいいぜと、どこまでもふざけた奴だが、アルバンが言うなら本当だろう。
張りつめた気持ちを落ち着かせるため、大きく息を吐いた。
「……失礼しました。マルセル……殿下。アキラです。よろしくお願いいたします」
不審者の正体が判明したから、挨拶をした。
敬意も敬語も相応しくないかも知れないけど、他人をここまで驚かせたんだ。正直……、知るか、って思いは隠しきれない。
「ははっ。今更だな。さっきので、姫が元気なのはわかってるんだ。変に畏まらなくったって、いいさ」
そうか。じゃ、そうさせて貰う。
ヒラヒラと手を振るマルセルの前で、挨拶前にシャキッとさせた体から遠慮なく力を抜く。
その様子にアルバンは苦笑いをして、腕から俺を解放した。
「ーしかし、アル兄の姫は、猫みたいで可愛いなぁ」
「は?」
「マルセル?」
立ち上がったマルセルは湿った前髪をかきあげ、何だか失礼な事を言いながら、俺たちが囲っていたテーブルに歩み寄ってくる。
「そんなにちっこくって、アル兄に囲われて可愛がられてるのかと思ったけど、そんな事なさそうだな」
「そうしたくとも、そうさせてくれないのだ」
「…ははっ!だろうね」
アルバンとマルセルは、二人揃ってチラリと俺をみて笑い合う。
ああん?
俺を可愛いだとかチビとか、色々言ってくれるなぁ。
…まあ、敵ではないんだろうし、許してやるけどさ。
「それはそうと……兄上。どうしたんたよ」
それまで沈黙していた、テーブルを囲むもう一人に、マルセルは視線を向ける。
あ、リアム皇太子殿下を忘れてた。
めっちゃお待たせ致しました。
忙しなさと体調不良が続き、読み専になっておりましたが、気力体力戻りつつあるので、頑張りますよ!
次回「新たな客人2」(仮)です!




