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運命の分かれ道



暗く入り組んだ路地を走る。土地勘も詳細なマップも無いが、立ち止まる暇もない。

せめてナビ役がいれば、という考えが頭をよぎった。贅沢な話だ。


背後で規則的な銃声が聞こえ、遅れて自分達の駆けていた場所を銃弾が抉っていく。

その手のマニアや機械を埋め込んでいれば発射音で銃の種類を聞き分けられるというが

あいにく自分はマニアではないし、体に機械を入れてもいなかった。


「おい、逃げるルートはわかるか?」

隣で走っている『経験』のある男に、そう尋ねた。

自分と異なり幾らかの機械を埋め込んでいることが見て取れる。

サングラスのレンズ越しに写っている細々とした情報は地図だろう。

「マップを最新化しているが、正直敵の位置までは」

「詳細はいい。だいたいどっちに側に逃げればいい」

「遠くに背の高いビルが見えるだろ?あっちだ。ルートを転送するか?」


男が方角を指すために伸ばした腕に、赤い点が当たる。

再びの銃声。とっさに男が腕をひっこめ、少し先のパイプに当たって火花が散った。


「転送してる場合じゃないか」

男が首を低くしてため息混じりに走る。

これだけ走っても息が殆ど上がっていないのは、やはり幾らか『弄っている』のだろう。

「……悪いが、俺はサイバー化していない」

「ああ、ウェットなのか。悪いね」


サイバー化……体に機械を入れることを、人々はまとめてそう呼ぶ。

何でもありな時代において、技術の革新がそれを可能にした。

実際には注射1本で済むレベルから全身総入れ替えまで幅は広いが

電子機器を手術で体に入れる事は、いまや予防接種や虫歯の治療と同じ枠で語られる。

もちろん、金が無ければ満足な状態にはならないという点も含めて。

そして『ウェット』というのは、何も機械を入れていない人種への呼び方だ。

厳密には異なるし、ウェットの有利不利を語ると長くなるが、今はさておこう。



「不便は承知している。それにしても、しつこいな……」


幸いなのは、相手の中に人間の枠を超えた奴や、全身義体がいない事だった。

また、地理についての理解度も自分と同様だということも一助となっている。

お陰でこちらは体力にモノを言わせて無茶なルートで逃げ回っているのだ。


銃声に混じって、どこかと会話しているらしい声が聞こえる。

内容までは聞き取れないが、向こう側にはナビ役がいるのだろう。

振り返って様子を見ようとするが、いわゆる黒服やスーツで装備や顔を確認する余裕が無い。

しかし体力勝負の甲斐があってから、人数だけは幾らか減っている事は察する事ができた。


経路がわからない以上、射線に入らないようにこまめに角を曲がって逃げる。

地味であるが、これ以上の方法はしようが無かった。

下手な建物に飛び込めばセキュリティに通報されて居場所が即座にばれる。

場合によっては銃器を備えたセキュリティ機器が手厚く歓迎してくれるだろう。


「持ち出したモノが、それだけ価値のある品だったんだろうが…報酬出るんだろうな、これ…」

「出なくては困るが、最悪でもそれを売れば金になる」


今回の仕事で盗み出したのは、次期リリース予定の携帯端末だ。

システムにリンクできない自分は恩恵を受けることができないが

何やら高度な機能が盛りだくさんなのだと、代理人が熱っぽく語っていたのを覚えている。


「提案があるんだが」


サングラスの男が何度かサングラスをフレームを押しながら、続けた。


「二手に分かれないか。次のT字路を、俺は左、あんたは右」

「かまわんが、報酬はどうする」


銃声、着弾。ずいぶんと数が減っている。この調子であればうまく逃げ切れると踏むには十分。

男の提案は、それを理解しているからこそなのだろう。


「互いに生きてたら半々。8番街にある鴉のクロウズネストってバーに集合で」

「なるほど、判らん。後で調べよう」


男がサングラスを外して後ろに投げ捨てる。少し間をおいて、小さな爆発。

その音で銃撃も足音も止まる。機を逃すまいとT字路で二手に分かれた。

自分は右、男は左。



運命の分かれ道とはよく言ったものだ。

1分ほど走った距離で再び曲がった先は行き止まりだった。

直進すべきだったことを悔やんでも遅い。

近づく足音が二人分であることを聞き分けて、次を考えた。


「ある意味で心置きなく、やれるか」


こうなっては迎え撃つより他は無い。幸いに人の気配は他に無く、視線も感じない。

追っ手を倒して切り抜けると腹を決め、己に潜む獣の力に身を委ねた。



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