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Check (it) out


仮住まいに置いてあった幾つかのバッグを抱え、寝床へと向かう。

借りた家は思ったよりも真っ当な住宅区寄りに存在していた。

治安と区画の目的に応じて家賃の相場は変動するのだが、

家のある一帯はスラム街の延長線上でもあるため、割安であった。


役所が発行している、治安を地区別で色分けしたマップによると

この一体のセキュリティランクは危険地帯レッドエリアに分類される。

所々に黄色の地区が混じっているだけ幾らかでもマシであろう。

マップでの安全度は、最低の赤から、黄色、緑、白の順で良くなっている。

これを更に偏執的パラノイアに色分けすると暗黒インフラレッドから純白ウルトラバイオレットまで9種類。

緑や白で表示される地区は、高級住宅街や企業のオフィスが並ぶ区画だ。

仕事でもなければ、自分のような奴が足を運ぶことは無いだろう。


「ここか」


周囲を見回すと、逃走経路としてベランダや屋根、路地のルートが確認できた。

違法な増改築がされている訳でもないので、家賃が払える限りは快適に凌げそうだ。


自分の端末を押し当てると、入り口のセキュリティが解除され、鍵が開く音が聞こえる。

何世紀も前から存在する金属製の鍵の方が手軽なのだが、鍵の複製が容易なため

化した相手以外にも複数の人間が利用するケースが後を絶たなかった。

今、携帯端末にデータを書き込んで非接触型の鍵としてを用いることが、

低所得者向けの住宅ではスタンダードとなっている。


部屋を見回すと家財道具の大半は持ち去られているが、ソファーとテーブルは残されていた。

入り口のセキュリティとは裏腹に、家の中にテクノロジーの恩恵を得られそうなものは無い。

台所の調理機器、風呂場、トイレ、収納……いずれも、最低限そろっている程度だった。


荷物を降ろし、周囲の音に耳をそばだてる。

夕食が近いのか、どこかで料理をしている音がする。

別の場所では子供が遊んでいるのか、笑い声が聞こえる。

絶えず音楽と映像が垂れ流される繁華街よりも、自分好みの環境だ。

慣れてしまえば無視できるとはいえ、耳は音を拾い、鼻は匂いを嗅いでしまう。

人より鋭い感覚に恵まれた事が、欠点となる良い例だ。もちろん克服はしたが。


荷物を適当に収納に放り込み、残されたソファーが壊れていないかを確認したところで

端末が鳴動し、着信を知らせてきた。連絡してきた相手は、斡旋屋だ。


「……何かあったか」

「いやぁ、旦那の端末復活と引越しの状況を聞こうと思いましてね」

「悪くない。せいぜい追い出されないよう頑張るさ」


その後も暫くは、雑談をしたり、依頼の顛末を話していたが

少し間が空いた後、斡旋屋はこう切り出してきた。


「旦那、何か厄介ごとにでも巻き込まれたのか?」

「仕事をしていればそうなるだろう。何故そんな事を聞く?」

「まだ確証が無いから話半分で構わないけど、旦那に注目してる奴がいるみたいだ。

 嗅ぎまわった奴が2人。どっちも素性までは調べてないけどね」


裏稼業では、信頼と評判こそが重要な意味を持つ。

大きな仕事に成功する連中は、巨大企業メガコーポからのスカウトも珍しくない。

逆に裏切り者には、それなりの報いが待つ。これが裏社会での就業規則だ。


そういう状況で自分を評価すると、そこまで優秀ではないのが現実だ。

潤沢な装備に身を包むわけでは無い。かといって狼人間の姿で堂々と仕事をしていれば、

退魔局の連中による異端審問で滅ぼされるのがオチだ。

会った事はないが、噂では人外アヤカシの組織が粛清しに来ると聞いたこともある。

いずれにしても、ままならない状態である事には間違いなく

そんな自分を調べる存在は、少なくともスカウトにくる相手では無いのは確かだ。


「気をつけてみよう」

「報酬さえあれば、こっちでも調べられるぜ!」

「不要だ。教えてくれて感謝する」


どういたしまして、と残しで通話が終了した。

親切心と営業努力が半々の電話だったが、また悩みの種が増えてしまい、気が重い。

俺は机に端末を置いて、ソファーで軽く眠ることにした。


特に変わった夢を見る事は無く、次に目を覚ましたのは1時間ほど経過した後だ。

境界ボーダーポストの店主から、会う段取りが整ったという連絡があり、

食事を求める寝起きの空腹を無視して、店へと急いだ。


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