第22話 風とお日様に包まれて
「いよっと!!!」
私が出来うる限りの力を貸したからかなり高く上がれた。
眼下には小さくなったクチャクティムイが見えた。
「うわああああああ!」
「大丈夫!?ティカちゃん!!」
「すっごーーーーい!!!!私が飛ぶ時なんかよりもずっと高い!!!」
キエリスと顔を合わせる。思わず2人で笑ってしまった。
「ステラッチェ団長!はっちゃけすぎてません!?」
「いやあ、やっぱりたまには限界を試してみないとね!」
もっともキエリスの最大許容量分の魔力だけどね。
少し低い雲ならほぼ同じ高さだ。そして目の上はもはや黒く見える空。まだ明るいけどもう少しで星に手が届くかもしれない。
地平線には連なる山が見えた。あれがアンデス山脈だ。まだ遠いから白くモヤがかかっているように見える。6000m級の頂が白くなっている。
なんとも。思わず息を飲んでしまう景色だ。
こういうのも舞台でみんなに見せられたらいいな。
「ティカちゃん!村はどのあたりなの!?」
私の風の魔法で下降をゆっくりにしている。
「あの山脈の右の方です!!」
「よかった〜!さすがにあの山脈越えるのはやばかったよー!」
「多分ですけど!」
「そうなの!?」
「だってこんな高いところからなんて見たことないから!!!」
キエリスと私が笑う。
「あっはははははそれはそうだね!!じゃざっくり山脈な右端を目指して飛んでいこう!キエリス!」
「おっけー!まっかせて〜〜!」
少しずつ転移する高さを落としながら飛んでいった。ティカちゃんは飛んでいる間怖がることもなく生まれ育ったこの土地の景色を文字通り全身で風を浴びながら楽しんでいたようだった。5回ほど大きく飛んでからは細かく飛んでティカちゃんの生まれ育った村に着いた。
「ここが私の村です!」
石の壁でできた家が大体20棟ほどが集まった村だった。家との間が結構離れているな。クチャクティムイでは石などでできた家が多かった。周りが木々で生い茂っているけど石で家を作っているんだな。それだけ石材やつなぎになる材料が豊富なのだろう。屋根だけは藁葺き屋根だ。
村の近くには大きな畑が何箇所もある。じゃがいもの畑かな?遠くに棚田見える。あれはとうもろこしだろうか。
ちょっとした丘にある村のように見えるけどここもかなり標高が高い。
岩の悪魔に襲われていなくて良かった。
「おばあちゃ〜〜ん!ただいま〜!!」
村の一家にティカちゃんか飛び込んでいった。
「行きましょうよ?」
「ティカちゃんきっと久々の家族との再会だから。邪魔するのはなぁ」
「あーそれもそうですね。じゃどうします?」
「ステラッチェ団長さーん!キエリス副団長さーん!ほらこっちですよー!」
「……行こっか」
「はーい!今いま行くよー!」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します。」
「あらぁ。よく来たねえ。ティカを連れてきてくれてありがとう。ティカの祖母です。」
「はじめまして。娘さんにはお世話になっています。ステラッチェといいます」
「おばあちゃんはじめまして!キエリスです。」
ティカちゃんのおばあちゃんは色鮮やかな毛織物の服を着ていた。家の中は床は土がそのままで大きなマットを敷いている。壁も石造りだから泥が塗られている。家具らしい家具は少なくて釜戸があるぐらい。あとは、
「うわっ!なんかおっきいネズミがいっぱいいる!」
「これはクイっていうんです。そういえばプレンツも知らなかったなぁ」
「へぇ〜ペットなんですか?」
「ペットだけど、食用でもあります」
「食べちゃうの!?」
「この国ではクイはご馳走なんですよ?」
「そうなんだ〜可愛いけど美味しいんだ〜」
キエリスの周りにいたクイ達が一斉に離れていく。言葉がわかるのか。1匹が私に近づいてきた。指を伸ばすとクンクンしている。かわいい。
「ふたりとも。それにティカ。長旅だったんでしょ。何にもないけどゆっくりしていって」
「ありがとうございます」
「おばあちゃん!村の人にも挨拶してくるね!」
「はいはい。行っておいで」
「行ってきまーす!!」
ゆっくりしてと言った途端にティカちゃんが外に飛び出していってしまった。
「おふたりはクチャクティムイから来たの?」
ティカちゃんのおばあちゃんがお茶を淹れてくれた。小さな家だけど落ち着く空間だった。
「ええ。私とキエリスは世界中を回っている芸者でして」
「まぁそうなの?」
「私達Flying Twinkle Caravanっていう魔法劇団なんです!」
「さっきティカから聞いたわ」
「そうでしたか。ちょっと縁あってティカちゃんのお手伝いをすることになったので。同行しています」
「ええ。それも聞いたわよ」
ティカちゃんあの短い間でどれだけおばあちゃんに情報詰め込んだんだ。私の知らない情報を直接伝える魔法があるのか。
「それで、ティカは楽しくやってるの?寂しく思ってないかしら」
どう…だろうな。一見元気に見えるけど。
私はあんまりティカちゃんとは会ってないし、なんとなくキエリスと似てるなと思っていたぐらいだ。周りはアプさんのような大人ばかり。人攫いの確保、岩の悪魔への対処、故郷から離れた土地。不安や恐怖があったと思う。もしかしたらプレンツが今のティカちゃんのことはわかるかもしれないな。
「ティカちゃんですか?おばあちゃんには会いたいってずっと言ってましたよ!あとうちの団にも友達ができたみたいですし。もちろん私達も友達ですけどね!」
「そう良かったわ。友達というのはプレンツ君だっけ?」
「え!おばあちゃんプレンツのことまで聞いてるんですか!?」
「ここに帰るときは泣いて帰るんじゃないかと思っていたから。まさか友達も連れて帰ってくるとは思わなかったわ。ずっと心配だったの。あの子の親は早くに亡くしてしまったから。私が引き取ってね。でも村にティカと同じくらいの歳の子供もいなくてね。元気に振る舞っていたけどどうしても子供っぽさがないような気がしてね。でもお友達がそういうならきっとそうなのでしょう」
歳の割にはしっかりしていると思った。ここは小さな村だ。きっと可愛がられたとは思うけど、それでもおしゃべりを一緒に楽しめる友達というのはまた違っただろう。
そういえばプレンツも孤児だといっていたな。あまりいい共通点ではないけどそういう面でも話が合ったのかもしれない。
「おばあちゃんは寂しくなかった?ティカちゃんが遠くに行っちゃって」
キエリスがクイを撫でながらそんなことをおばあちゃんに聞いた。
「寂しいわよ。あんなにかわいい孫娘が出ていっちゃうんですもの」
「きっとあともう少しで村に帰ってこれます」
「それは嬉しい。けどね。あの子は恵まれた子だから。もっと広い世界にいてほしいの。その良かったらあなた達にと一緒にいて欲しいものだわ」
ティカちゃんはかなり魔法はできる方だ。これから訓練すればもっと良い魔法を使えるようになるだろう。いくらおばあちゃんがいいと言ったってそれではおばあちゃんが。
ティカちゃんのおばあちゃんが私の目を真っ直ぐ見た。そして小さく頷いた。
そうか。そこまで言うなら。
ティカちゃんのおばあちゃんの手を取った。骨ばって皺の多い手だ。働き者の良い手だ。私も年老いたらこんな手になるといいな。
「もちろんです。ティカちゃんが望むなら私が、私達が世界へ連れて行きます」
ふふっ、とおばあちゃんが笑った。
笑った顔はティカちゃんに似ている。
ティカちゃんは愛されて育ったんだな。
それから一晩ティカちゃんのおばあちゃん家でお世話になった。本当はティカちゃんだけ置いて帰るつもりだったんだけど
「ステラッチェ団長〜。聡明なステラッチェ団長なら一目見ただけでわかったと思うんですけど〜」
「うん。すっからかんだね。ご厄介になろう」
「ステラッチェ団長!キエリス副団長!もちろん最初からそのつもりでしたから!ささっ!今日は4人で寝ますよ!」
マークを作ったところでキエリスの魔力が切れちゃった。私が補助してたとはいえ。お疲れキエリス。
その晩は4人でおしゃべりし倒した。
何話したのかって?ガールズトークの内容は内緒だよ。




