第4話 散策はクチャクティムイの色に乗って
今日のところの手続きはここでおしまいにして待ち合わせの塔へ向かった。
日差しが強くて空気が乾燥している。行き交う人達は民族衣装を着ている人もいればシンプルな服を着てる人もいる。民族衣装は毛糸で作られているようだ。何やら複雑な模様が入っていたり、ちょっとリッチそうな人の服は赤青黄色と色鮮やかな幾何学模様が入っていている。毛糸ということはこの国にも羊がいっぱいいるのかな。プレンツに教えてあげよう。
通りすがりの服屋に入ってみた。民族衣装が多く置いてある。
店主のおばあちゃんが話しかけてきた。
「こんにちは。今日も日差しが強いわね」
腰の曲がったおばあちゃんも民族衣装を着ている。
「こんにちは。素敵なお召し物ですね。この国の衣装なんですか?」
「ええ。この国にずっと前から伝わる伝統ある服なのよ」
「カラフルでとても綺麗ですね。模様もかなり凝ってますね」
ルミオも民族衣装に興味があったようだ。うちの男性陣は服に興味ない人が多い傾向にあるから話をのってくれて嬉しい。
「この模様も意味があるのよ。例えば家族に伝わるものだったり地域だったりね。ただ、今ではもう意味がわからなくなってしまった模様もあるけどね。全部が全部伝えられるわけじゃないから」
こういう話はよくある。人が地上からいなくなった時に伝えきれなかった、記録に残しきれなかったものなどが多くあった。歌は歌えるけどどういう意味の歌なのかわからない、ということも過去にあった。
「でも、素敵な模様だからきっといい意味があったんだろうって思うわ」
「ええ。そんな気がします。この服はなんの糸なんですか?」
「これは羊とリャマね。ビクーニャやアルパカから作ったものもあるけど高級品なのよ」
お、やっぱり羊だ!リャマ?リャマってなんだろう。アルパカもビクーニャも聞いたことがないな。この世にはモコモコとした生物がまだまだいるんだ。
「リャマっていうのは羊みたいな動物ですか?知ってる?」
ルミオに聞いてみた。
「いや、よく知らないな」
「リャマっていうのは羊には似てないわね。アルパカみたいなものよ」
「アルパカ?ルミオ知ってる?」
「んー、聞いたことはあるけど、どういう動物かはわからないな。おばあちゃんアルパカはどんな動物なんです?」
「リャマに似てるわね」
「なるほど」
わからん。
リャマもアルパカもビクーニャもちょっとモコモコした馬みたいな動物だとおばあちゃんが教えてくれた。
そんなこんなでカラフルな民族衣装っぽい毛糸でできたニット帽を買ってみた。あとポンチョ、マフラー、手袋も。ニット帽を早速被ってみた。耳が全部覆われるタイプで左右に長い毛糸が伸びている。うん。なかなか似合ってるんじゃないかな。あとで毛先の髪色を変えてどれが似合うか試してみよう。そういえばこの国ではなんの色にしようかな。民族衣装が赤を基調とするものが多いからこのまま赤でもいいかもしれない。
ポンチョはルミオに着せた。全然似合わない。
この地は砂漠っぽいということは夜はおそらく冷える。少し太い毛糸でできている。昼間には少し暑苦しいかもしれないけどある程度の通気性があるからないよりはいいだろう。放射冷却で夜には冷えてくるから毛糸はうってつけなのだろう。
日差しが強いからといって肌を晒していると、かえって暑かったり、日焼けしてしまうから通気性の良い服を体全体に纏った方が皮膚のダメージが少ない。
民族衣装というものはよく考えられている。その地域に合っているから、機能性に長けた理由があったからこれまで伝わってきたのだろう。
すっかり寄り道をしてしまった。塔の近くまで来るとフェリックスとキエリスが見えた。キエリスがこちらを指差して笑っているのがわかる。あれはポンチョを着たルミオを笑っているな。
「ちょっと!ルミオさん!珍しく浮かれてますね!!」
「浮かれてなんていない」
「真顔メガネにそのカラフルなポンチョは全然似合わないですって!」
ポンチョ姿のルミオはかなりキエリスに受けている。私もポンチョを着たルミオを見て吹いてしまったから人のことは言えない。
「そんなに似合わないですか?」
「んん、まぁルミオさんっぽくはないですよね」
「フェリックスさんまで……。結構気に入ってたんですけど」
「私にも着せてくださいよー!ほらほら脱いで脱いで」
ルミオからポンチョを剥いでキエリスが羽織った。
「どう似合います?」
「「「似合う」」」
「ほらね!私って華があるじゃないですか〜。こういう鮮やかな模様でも似合っちゃうんですよね〜」
その場でくるりと回りながら自意識過剰な程自分で自分を褒めている。
確かにあのピンク色の髪であのポンチョを羽織るとなるとかなり絵としては喧しくなりそうなところを着こなせている。これが若さか。
ただこの状況で似合わないと言ってしまうような大人ではない人間はこの場ではいない。
「じゃルミオには手袋を、フェリックスにはマフラーね」
「私にも買ってきてくれたんですか。ありがとうございます団長」
「気にしないで。ほら巻いてみてよ」
「どれどれ」
「フェリックスさん似合ってますよ。」
「ありがとうございますルミオさん。ルミオさんの後でだと申し訳がないですね」
「俺には華がないらしいから仕方ないよ」
あれ、ルミオ結構刺さってるな。
三十路のいいおじさんなんだからそんなの気にしなくたっていいのに。フェリックスが似合っちゃうのがまずかった。
「団長もその帽子可愛いですね。この模様も独特ですね」
「帽子が可愛いの?私が可愛いの?」
キエリス風なことを言ってみた。『が』を強調して。さぁどう返す音楽の王子よ。
「帽子もステラッチェ団長も可愛いですよ」
優しく微笑みながらそんなことを言われてしまった。
なんだろう、なんでこんなことを聞いてしまったんだろう。毎度素でいちゃつき始めたカップルの様な台詞を言ってるキエリスちゃんすごいな。これが若さか。
フェリックスはその道のファンがかなり多い。オーケストラピットなんて観客席からあまり見えないのに。それでも根強いファンが結構いるのはこういうことがさらっと言えてしまうからなのかもしれない。意外なところで、というか直接的に集客力がある気がする。
うちの団に入れたときも『顔の良い金髪がタクトを振るっているだけで様になるな』なんて思ったけど狙い通りだったわけだ。
そんないつもの雑談をしながら買い出しをしていた。ある程度買ったら人気のつかないところにマークをしておき、ガルニエへ一気に飛ぶ予定だ。もっと本格的な買い出しは次回からだ。
「団長何か聞こえませんか?」
フェリックスが耳を澄ましている。確かに風に乗って音楽が聞こえているような。
「ちょっと見に行ってみましょうよ。何かコンサートのようなものをやっているのかもしれませんよ!」
ここにきて一番目を輝かせているフェリックス。断る理由もないので音の鳴る方へ向かった。




