第2話 灰かぶりの君
あたりに見える瓦礫と灰。草木もまばらで建物があった場所には基礎がチラホラ見える程度。
石を積んで作ったであろう建物は今や煤と灰と石ころになっていた。
ここには町があったが不幸にも戦場になってしまったらしい。
人々が生活していたであろうこの場所はただの荒野と化し、人影もない。
戦があった場所というのは何処でも灰色の景色になってしまう。
「ねぇ〜だんちょ〜さっきから黙っちゃってなんなんですかここ?」
めっちゃ曇ってるし〜、と。
そんな戦場跡には全く馴染まない少女が声を上げた。
下ろせばかなりの長髪であろう艶やかなピンク色の髪を白と水色のリボンでサイドテールを作った少女。髪を全体的に巻いている。
タキシードとメイド服を掛け合わせたこれまた白とピンクを基調とした服を着ている。だが不思議とフォーマルな雰囲気を感じさせる衣装。お目目ぱっちりまつ毛くるりんの愛想の良さそうな顔。
「ちょっと!シカトしないでくださいよ!物騒ですし帰りましょ!なんなら私が強引にふっ飛ばしたっていいんですからね」
そんなガーリーな少女がプスーと頬を膨らませながら団長と呼ばれた少女に話しかけている。
黒いシルクハットを被った少女。いや、この悪態をつき始めたピンクの少女よりは大人に見える。背も少し高い。
蝶ネクタイを締めた赤いジャケットのタキシードを着ている。
肩ほどまで伸ばした白い髪。毛先が赤くなるようグラデーションになっている。
瞳は赤と紫色で左目の瞳に花模様が浮かんでいた。凛とした顔立ちをしていて左頬に黄色い星のペイントが見える。
凛とした顔立ちのせいなのか辺りの曇りのせいなのかその表情はにこやかとはいえないようだ。
「ごめん付き合わせて。前に通りががった時にこの辺りのこと聞いてさ」
変わらず声を落ち着かせて話すシルクハットの少女。
その雰囲気を察したのか声のトーンを落としてピンク髪の少女が続けて疑問を投げかける。
「もしかしてここあいつらがやったとこ?」
「そうらしいね。相変わらずだ。ただちょっと見ておきたかっただけなんだ。無駄足踏ませて悪かったねキエリス」
キエリスがむすっとした顔を解き、ふーっと息を吐いた。
「いえいえ、ステラッチェ団長様の命令は絶対ですからねー」
「そんな高圧的な態度をとった覚えはないよ」
ステラッチェと呼ばれた少女はシルクハットに被った灰を手で払う。
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サンリスタニア王国への向かう道中に帝国に襲われた街があるというのでマークしておいたのだ。しかし本国から大陸越えしたこんな町になんの用が?
この周辺国の偵察?街を潰してるということは威力偵察?現地に来てみれば何かがわかると思ったが特に収穫はないままか。
「じゃ戻ろっか」
何もないならそれでいい。
ただ静かな祈りをこの街にして立ち去るのみ。
キエリスに手を差し伸べる。
「うん!そう来なくっちゃ〜」
キエリスも私の手を取ろうとした。
突如私の目に何かが映った。
「待って!何か飛んでくる———」
飛来物に目を凝らす。
ん?なんだあれは?
1メートルほどの縦長なものが真っ直ぐこちらに飛んできている。
それに私の左目はその異様さを感知していた。
「なんだあれ。何も纏ってない」
「え!なになに!纏ってないって何を!?てかめっちゃ近づいてきてるってば!」
何かしらの超遠距離からの攻撃?
何にせよあれをこのままこちらへ落とすわけにはいかないか。
私たちの身の危険を排除するため、そしてこの街の鎮魂のために。
なんだかわからないがここではないどこかへ飛んで行くといい。
右腕を大きく飛来物方向に向かって煽いだ。
すると飛来物目掛けて大旋風が起こ————
らない!
そしてやはり左目にあの飛来物の周りには何も見えない!
どういうこと?
別に魔法をミスったわけではない。
発動自体はしたけどあの飛来物に近づいたら消えていた。
「あの飛んできてるのなんですか!?もしかして——人!?ってなんで団長の魔法届かないの!!」
飛来物に指を刺し、足をジタバタさせながらキエリスが叫んだ。
「わからない!なんだあれ。おかしい」
どんなに目を凝らしても目に映るのはただの飛来物のみ。
こんなことは初めてだ。
「いいから早く!ほら!手!」
キエリスの手を取る前に右足を上げ強く地面を踏んだ。
刹那、土の大壁を聳え立たせた。
爆音にも似た音が壊れた土壁の土煙と共に周囲を包んだ。
「なんだったのあれ!」
ジタバタしながら土煙の方向を指差すキエリス。
「わからない」
表情崩さずに呟く。
私たちは土煙の遥か後方に退避していた。
血の魔法のひとつ、キエリスが宿す『転移の魔法』。
マークした場所か視界内の場所に転移する魔法。否、空間を交換する魔法。
「逃げるよ!いいよね!飛ぶよ!」
「ちょっと待って!せめてなんだったのか確認させて」
これまで妙なものなら沢山見てきたけど、何もないなんてことは一度もなかった。
この私の目で探知できないものとは?
そんなものこの世にあるのか?
「爆弾とかだったらどうするの!」
「私なら大丈夫だから!」
「ダメ!いくら団長でもそんな危ないことしないで!」
風を切る音がした。土煙の中央からまたこちらに飛んでくる。
あれは
「子供!男の子だ!」
左手で子供に向い掌を突いた。
突風が子供にあたるがやはり止まらない!
再び地団駄を踏み土壁を作った。
が、今度は突破された!
「お前達も追っ手か!俺に構うなと言っただろう!」
ダークグレーの髪はボサボサで少し日に焼けたような肌の色。土で汚れた白であったであろう服に紺色のマントを羽織った少年だった。
「追っ手?君!何を言ってるの!」
もう一度地団駄を踏んだ。
直後地面から高速で土柱が生え少年を突き上げた。
「がはッ!こんの野郎ッ!」
突き上げられた少年はそのまま私に向かって両手を定め、『何か』を出した。
だがやはり左目には何も視えない!
他の魔法で迎撃するのは簡単だが、この少年、今まで見てきた魔法とは明らかに何かがおかしい。
もう一度、腕で扇ぎ突風を出すがやはり打ち消される。
こんなことは初めてだ。
他の何かに相殺されるわけではなく、なかったことにされている。
話は通じるようだし会話を試みてみるか。
「私達は君の追っ手じゃない!大体君がこちらに突っ込んできたんじゃないか!」
帝国が堕としたこの町、そしてこの魔法を打ち消す力を持つ少年は何か関係があるのかもしれない。
「君が攻撃しないなら私達もしない!一旦話さないか!」
少年はゆっくりと空中を降りてくる。
浮遊の魔法?しかし風が起こっている音はしない。他の何かを使っている?
何故左目に何も映らない?
こんなにちゃんと視認できても何もわからないなんて。
少年が地面に降りた。やはり背丈は1メートルを少し超えるほどの子供だ。
「お前達なんでこんなところにいる?」
ゆっくり近づきながら少年はこちらに質問を投げる。警戒は解かれていないが対話ができる余地があるようだ。怪しまれないように、敵意がないことを証明しよう。
「ただの通りすがりだよ」
「そんな変な格好でなんでこんなところを通るんだよ!」
うーん。至極真っ当な意見だ。
「言いたいことはわかるけど本当に通りすがりなんだ。少年。君は何故ここに飛んできた?飛ばされた、(いやこの少年はさっき自らの力でゆっくりと空中を降りてきた。つまり浮遊や飛ぶなどが自分の能力で可能なのか、私の目で見えない力で)……何があったの?」
近づくのをやめた少年。約10メートル程まで来ている。それがあちらの間合いなのか。
「ぼくはただ、この町が今どうなってるか気になって」
この少年何を知っている?
どうなってるのか気になってと言う割にはこの惨状を見ても動揺している様子は見えない。いや動揺はしているのかもしれないがこの惨状に納得はしているようだ。あたかも予見していたかのように。
この町の人間かとも思ったがどうやらそうではないらしい。
「さっき追っ手と言っていたね。誰かに追われているの?」
「そうだ。お前らが追っ手じゃないのはもうわかった。けしかけてすまなかった。じゃ」
やはりあの突っ込んでくるのは攻撃でもあったのか。いや今気にするのはそこではない。
「待って。追っ手ってアクィラのこと?」
「ッ!なんでこの地にいる人間が帝国だとわかる!?」
ビンゴか。となると帝国がこの町でやったことと関係があると見るのが自然か。関係者、あるいは当事者なのか?
「アクィラ帝国がこの大陸になくてもあの国は有名だよ。帝国に何をしたの?追われるなんて、それにその能力はなに?」
そういえば他にもこの辺りは謎の戦闘が相次いでいると噂があったけどそれも帝国の仕業?
もしかしてだけど同盟国のようなのがあるのかもしれないな。
「いたぞ!おいそこ動くな!」
最初に突っ込んできた土煙がようやく引いてきたところを二人組の兵士が突っ切ってやってきた。
片手に槍を持っている。
甲冑には帝国のエンブレムがある。なるほど、こいつらに。
「そこの怪しい女も動くな!」
全くどいつもこいつも変だの怪しいだのと初対面のレディに対する口の利き方ってのをママから聞いてないわけ?
「なによお兄さん達。お兄さん達だってそんな血相変えちゃってどうしたの?」
2人揃って険しい顔しちゃってまぁ。
「俺達はこのガキに用がある。口出ししないでくれ」
短髪の二人組。胴のみ甲冑を着ており動きづらそうだ。しかし周りには誰もいなかったのにな。馬で近くまで来てて大きな音がしたからこちらに向かってきたとかかな。
「何故逃げた?脱走するつもりなのか?」
1人の兵士が少年に問いかけた。
脱走?
この少年帝国軍の人間だったの?
確かに奇妙な能力を持っているようだけどこの歳でもう軍籍か。
なんだか私と似ているな。
この少年もしかして私と同じなのか?
そうと決まればこの少年にはもっと話がある。
邪魔な帝国兵はお暇してもらおう。
ゆっくりと少年に向かった。
「そんなカリカリしちゃって。大人2人で子供いじめるなんて趣味が悪いってば」
「おい動くなと言っている!」
兵士2人が槍を構えた。
構わず少年の元まで歩く。
少年のそばに来たところで小声で話しかけた。
「少年、私に任せて。多分私たち力になってあげられるから」
ウィンクをしてみた。
浮かない顔をしている少年。相変わらずまだ信用されてないようだ。
「お前ッそのガキに近づくなッ!」
1人が槍を投げてきた。
投擲と共に刃がこちらに近づくに連れて大きな炎を纏って加速してきた。
へぇ。見た感じそこそこかなと思ったけど槍の小細工も相なっていい威力になってる。帝国もあの手この手で魔法を駆使した戦術を拡大しているみたいだね。
確かにあれなら一般兵相手なら無双できるんだろう。そして彼らは帝国の中でもエリートな方だろう。
国や種族にもよるけど人が魔法を使える割合なんて4割は魔法なんてからっきしで、5割がせいぜい頑張ってマッチの火が灯せる程度。そしてあの2人はきっと残り1割には入る程度の魔法の力はあるようだ。だけど。
「だけど所詮は小手先の技術だ」
天高く右手を掲げる。
そして20メートルはあろう火の鳥が私の上空に現れる。
「光栄に思うがいい!私の魔法を無料で見られるなんて滅多にないことだ!」
槍を持ったままの兵士が叫んだ。
「おい、アイツ、ステラッチェだ!あのステラッチェだよ!」
「はぁ!?あの戦乙女か!クソッお前も早く攻撃しろよッ!!!」
「クソッおりゃあああああッ!!!」
もう1人も私目掛けて槍を放った。
本当はこんなことしなくたってどうとでも制圧できるけど正体もバレちゃったみたいだし、少年にもいいところ見せてやろう。
「お見せしよう。白き鷹の風の羽」
白き鷹の風の羽は2本の槍を塵にしそのまま兵士2人に炸裂した。
これでも私は魔法劇団の団長だからね。ド派手の割には威力は抑えてあげた。力加減には自信がある。大火傷はしてるだろうけどあの2人もそこそこの魔力を持っていたし死にはしないだろう。それにアイツらは私たちを殺す気だったんだからこのぐらいの罰は与えないとね。
少年を見る。
あからさまに動揺して警戒してる。こちらが本気なら飛んできた時点で簡単に堕とされてたとわかったのだろう。
大人げもなくわからせてしまったところでこんなことを言うと、もはや少年に選択肢はなくなっちゃうかな。でもこちらも怖がらせてしまうのは誤算だったからちょっと申し訳がない。
緊張を解く。この辺りに来てからずっと浮かない顔をしてたけど子供相手にそんな顔をしてたらそりゃ寄りつかないもんね。
ではとびっきりの笑顔で。
「少年、私達と一緒に来てくれない?」
「ッ!」
やっぱり警戒された。
そりゃそうか。ただの通りすがりが放てる魔法じゃないもんな。
出す魔法の選択を誤ったかもしれない。
ちょっとカッコつけすぎた。
「団長!何!?アイツら懲らしめちゃったの!?」
キエリスが飛んできた。
そう、このぷりぷり美少女は少年と対峙する直前で自分だけ遥か後方に逃げていたのだ。
とはいえキエリスがそばにいても邪魔になっていただけかもしれないからその判断は正しかった。
「自分だけ逃げておいて」
結局本音言っちゃった。
「ごめんてば!だってどうせ団長なら平気だろうし逃げちゃったの!それに鷹まで出すんだもん!一体何があったの?」
倒れた兵士をみるキエリス。
私は兵士に向かって空中にデコピンをした。デコピンの軌跡に沿うように大量の水が兵士に掛かる。
あとは勝手にしてね。
「キエリス、とりあえずこの少年もうちに連れて行くよ」
「えっ!?話終わったんじゃないの!?坊や、ほんとに来たいの?」
まぁ本音を言えば少年は放っておいてほしいところなのだろうが。
「ああ。行く。連れて行ってほしい」
あら。素直な子だこと。
「なんか怖いこと団長から言われた?いじめられたりした?足の先踏まれたとか」
あのド派手な魔法繰り出しながらやることが足の先踏むのは小物すぎるって。
「いや、ただぼくはあなたに興味を持った。何やら同じ匂いがする」
真剣に私の目を見てくる少年。どうやら少年も同じく何かを感じたようだ。
あんまり当たってほしくなかった勘だけど。
「ステラッチェ団長とシャンプー同じだったとか?」
「キエリスちょっと黙って」
「さっきから団長というのはなんだ?さっきの炎といい」
「ああ、私達は———」
「私達はFlying Twinkle Caravanっていう魔法劇団をやってるんだ!こっちがステラッチェ団長。そしてこの私が副団長のキエリスだよ⭐︎」
「だよ⭐︎じゃない!どう考えても団長の私が言うところでしょ!」
「まあまあそれで君名前は?」
美味しいところを持っていった挙句回し始めるキエリス。
そして少年はその問いに答える。
「プレンツ。プレンツだ」
厚く覆っていた雲はいつの間にか晴れ間を見せる。辺りは撒いた水滴が舞い上がり七色に光り輝いていた。
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ステラッチェ率いる魔法劇団——Flying Twinkle Caravan。プレンツと名乗る奇妙な力を持つ少年。
一生に一度は観るべきとまで噂されるこの世界一の魔法劇団と不思議な力を持つプレンツとの出会いが一体何を起こすのか。




