第16話 フォレスティエ社の天才
公演当日。開演2時間前だけどまだプレンツの姿は見えない。
ジェマはああ言っていたけどあの天才デザイナーが妥協なんてするわけが無いのを私は知っている。
ジェマが初めて衣装のデザイン案を持ってきた日のことを思い出していた。
公演を見たジェマが団員全員の衣装イメージをいきなり持ってきたのだ。その衣装にする意味や生地の対魔法性など全てを説明してくれた。最初こそしっかり聞いていたけど途中で嫌になってしまってジェマに任せるようになったんだっけ。
フォレスティエ社の社長もぶっ飛んでて気に入ったし今じゃフォレスティエ社と私達は切っても切れない関係になった。
昔はそこまで有名でもなかったけど最近は超高級ブランドとして名を馳せている。
ずっと着てたブランドだからあんまりそういう実感はないけど。
さてそんなフォレスティエ社きっての天才に実は私は圧力をかけていました。
その圧力とは何か。
「待たせたわねステラッチェ団長」
舞台内に入る扉を颯爽と開けてジェマとプレンツが現れた。
そう、あの天才は締切を破らない。
間に合えば明日が良いな〜とは言ったけど、それは実質明日が締切だぞと暗に示したのだ。
そしてジェマはそれを絶対に守る。
昨日は妥協だのなんだの言っていたけどあのジェマが妥協なんてする訳が無い。
舞台中央で頬杖付いて待ってた甲斐があった。
「やぁ!ジェマ!プレンツ!間に合わないかと思ったよ!」
「うふふ。団長。私を見くびっては困るわ。いえぶっちゃけかなり迷走はしたけど!瞑想もしたけど!それでも私の答えが出たわ!」
黒を基調としたスーツベースの衣装だった。
プレンツのダークグレーな髪色といいコントラストになっている。なんともうちの団らしい衣装だ。髪型もキマっている。
「プレンツ君から舞台での役割を聞いたの。舞台を、お客様を守る役割。そんなかっこいい舞台の黒子聞いたことないわ!というわけで、目立ちはしないけどFlying Twinkle Caravanさをアレンジしつつお客様を夢の旅へとサポートする執事を連想して作ってみたの!」
プレンツが舞台近くまで歩いてくる。
「どうですか?」
うん。なるほど。そう言われると黒子だ。自分でプレンツの役割を語っておいて黒子という概念に辿り着かなかった。
確かに黒子なら見えてしまっていても観客は見ていないことにしてくれる。
それに夢の旅へお供する執事か。夢の羊と執事の駄洒落かな。こういう陳腐さは逆に味になるから好きだ。
思っていたよりずっと素敵なプレンツのための衣装だ。
「よく似合っているよ。プレンツ。これで君も舞台に出られるね」
「ありがとうございます。頑張ります!」
しかしなんだろうこのプレンツの空元気感は。
歳の割には冷静で口数の少ないプレンツだけど、なんだろう。今日は考え無しに声だけ出している気がする。
「ところでそれ隈?」
目が時折しょぼしょぼしている。
「あー昨日から一睡もせずに衣装合わせをしていたので」
虐待だな。いやこうなることはわかっていた。わかっていながら送り出してしまった私にも
責任がある。でも時間がなかったのは事実。公演が終わったらゆっくり休んでほしい。
「そうだったんだね。色々諸々ごめん。舞台には出られそう?急かしてしまったんだけども、別に舞台に上がるのは明日からでもいいんだ」
「いえ!ジェマさんが間に合わせてくれたんです!ここで出なかったらジェマさんの努力が、無駄にはならないけど、とにかくやれます!」
うーん。深夜テンションのハイに入っている。コンディションを考えたら休ませたいけど、本人の熱意もわかる。
「わかった。ただ今日は舞台袖にずっといてほしい。袖で捌き切れなそうな魔法が出たらガンガン消していって欲しい。あくまで舞台上の魔法を対象だ。できるかい?」
「はい!」
「よし!じゃ任せるよ。頼りにしてるよプレンツ」
「はい!頑張ります!ジェマさんありがとうございました!」
右腕を上げながら背中で語りつつ舞台を離れるジェマが見えた。ジェマありがとう。でも子供相手なんだから次はもうちょっとお手柔らかにね。




