第10話 瞬くときも悠久のときも華やかに
シープコーヒーを後にした僕たちはガルニエに戻った。
「プレンツ君!探したわ!全くどこ行ってたのよ!って何よステラッチェ!あなたは団の顔なんだからもっと綺麗でエレガントな服を着なさい!でもその花柄のスカーフは素敵ね!服がシンプルが故に映えてるわ!ほらプレンツ君!こっちに来て!さぁ早く!」
先日フレンをツンツン頭と言っていたこの団でも奇抜な服を着た人だ。朝食を終えたぼくたちにドアを開けた瞬間捲し立てられた。
3人で唖然としているうちにぼくはその人に連れ去られてしまった。
目を点にしてぼくを見送るステラッチェ団長とフレンが見えた。
奥まった部屋に連れ込まれた。目の前に大きな鏡がある。
「はい両手を上に上げて!」
「は、はい!」
言われるがまま。両手を上げた。
ふんっ、とぼくの来ていたシャツを脱がせた。
って!
「うわわわッ!何するんですか!?」
そのままぼくのズボンと下着も下ろされた。あっという間に素っ裸だ。
「ちょっと!何するですか!?」
いきなり身包み剥がされ前だけ隠したのだがこの人は止まらない。
「ちょっと!ピシッと立つ!」
「で、でもですね……」
何で見ず知らずの人にひん剥かれて隠さずにいられると思うんだ!
「気をつけ!!」
「はい!!」
しまった訓練の癖が出た。
すると何やら紐のような平べったいものをぼくの身体に当てはじめた。腕や足、ってそんなところまで何を当ててるんだ!!
「こ、これは何をしてるんですか!」
「寸歩を測っているのよ。あなたの服を作るんだから。プレンツ君ここに来てから全然捕まらないんだもん!昨日なんか一目も見なかったし」
昨日は朝から夕方までステラッチェ団長にしごかれてそのまま寝てしまったしな。って回想している場合ではない!だから何でそんなところの幅を測る!?
あれ?よく見たら玄関(ガルニエが大きすぎてあれが玄関と言っていいのか…?)表扉で見た時とこの人服が違う。もっと動きやすそうな服になっている。
最初見た時は肩に大きな鎧のように出っ張っていてお腹謎の切り込みがあったり、ズボンも左右で長さが違ったりと今まで見たことのないような服だった。だけど、何故だろう。団のみんなの衣装からかけ離れているかというとそうではない。むしろ合っているともいえるような服装だった。この団の衣装はみんな着ている衣装が違うけどどこか統一感がある。
そして今着ている服はこの人の身体の形がわかるような…って何を実況してるんだぼく!
タイツ、といっただろうか。身体にフィットした服だがやはりどこか気品のある服だ。
「乳首0.3mmっと」
「だからどこの何を何のために測っているんですか!?」
「だから貴方の衣装の為よ」
「ち、乳首の長さまで!?」
「ええ当たり前よ。たまにいるじゃない?乳首が服に浮いちゃってる男性。あれどう思う?あえて浮かせて見せてるならいいわ。でも大半の、いや99%の男性は意図しないであろう乳首の浮き方をしているわ。最悪よ。切り落としたくなるわ。」
服に乳首がポチることにここまで捲し立てる人をぼくは初めて見た。逃げたい。
「貴方は子供だからまだほぼ陥没している乳首ね。とてもいい乳首よ。大切に育てなさい?」
ただね、出てきちゃったら相談しなさいねと、ベルトのポーチに先程の平べったい紐をくるくると巻き収めた。あの紐がこの人を狂わせるのか。(あとでメジャーというものだと教えてくれた。)
「ふーっ、Flying Twinkle Caravanに入ったからには私から逃れられないと思ってちょうだい。」
「あなたは一体何者なんですか!」
ぼくのあんなところやこんなところを測り記録するなんて!
「私はジェマヴォンヌ・ド・ラ・ロシェル。フォレスティエ社からこの劇団に来ているの。みんなジェマって呼ぶわ。よろしくねプレンツ君」
ウインクしているがぼくはこの人に身ぐるみ剥がされている。
やっと下着を着させてくれた。
出るところが出てしまうと思考回路がショートしてしまう。
さてこの服に浮いてしまう乳首に対して親の仇の如く恨みを持っているお姉さんだが一応その一連の蛮行には大義名分があるとのことだ。
人をひん剥くことに大義名分がある人がこの世にいるとは思わなかった。
「ジェマさん改めてよろしくお願いします。フォレスティエ社とは何ですか?」
いくら変態でも敬意を払っておくことにした。理由は単純でこの団にいるということは大体が超一流の魔法使いだとわかったからだ。ヘソを曲げられたらどうなってしまうかわからない。
「フォレスティエ社を知らないの?フォレスティエ社は世界一のアパレル企業よ。世界中の貴族や王族に愛されている超一流のファッションブランドなんだから。プレンツ君だって世界一の魔法劇団にいるんだから一流を知っておかないとダメよ」
「そうなんですね。覚えておきます」
そう言ったがあのツタが這っている盾のエンブレム見た覚えがある。フォレスティエ社のブランドだったんだな。
「それでジェマさんはどうしてそのフォレスティエ社の人なのにこの団にいるんですか?」
「フォレスティエ社はこの団のスポンサーなのよ」
「スポンサー?」
「そう。スポンサーよ。簡単に言えばこのFlying Twinkle Caravanにお金をあげてるのよ」
お金を貰う?
お金は舞台の公演をしてお客さんから稼いでいると思っていたのだけれどどういうことだ?
この団、実はかなりの貧乏だったのか?
「どうしてフォレスティエ社はそんなことを?」
「うふふ、それはね。このFlying Twinkle Caravanが世界一の魔法劇団だからよ!」
それはもう聞いた。それが何だというのだ。
「世界一ならお金なんて他の企業から貰わなくても稼げるのではないですか?」
「もちろん自立もできるんだろうけど、貴方ここの劇は見たのよね?」
「はい。見ました。とてもすごかったです」
「何が凄かった?」
「そりゃ魔法劇団というんだから魔法を使った劇そのものがすごかったです。」
「ここの劇団員のみんなの衣装、そのすごい魔法でどうなってた?」
「?」
どうなっていたも何も特に何も起きていない。みんな衣装を着て物語を彩っていた。
いや、当たり前すぎて見落としていた。
あの火山のシーンや殺陣など様々な場面で凄まじい魔法を団員たちは放っていた。
なのに微塵も衣装は乱れていなかった。
「気がついたようね。そう!この劇団が成り立っているのはこの私おかげと言っても過言ではないわ!じゃないと開幕火山でみんな素っ裸よ!」
た、確かに。おそらくベールさんがしゃぼん玉で防護しているのもあるだろうが魔法を放つ人その人が一番威力の高い場所にいる。
その人たちが文字通り一糸乱れずピシッと決まっているのは団員達の技術の高さももちろんだがそもそもの衣装のクオリティがとんでもないのか。
「ガルニエにポスターが貼ってあるでしょう?あとは舞台上にも。あの中にフォレスティエ社の看板も入っていたりしているのよ。そして観客達はあれを見て思うのよ。こんなにエレガントな魔法を使う人達が着るフォレスティエブランドの服を私も着たい!とね。これがどれほどの広告力があるか、もうわかるでしょう?」
なんてことだ。これが商売の世界か。確かにあのナレアさんに惚れてるバカでも衣装はかなりキマっていた。いいとこの貴族のように見えた。確かにちょっとお金を持っていたらああいう服を着たいと思う。
「この建物、ガルニエを作った会社もスポンサーなのよ知ってた?世界中の大手企業がFlying Twinkle Caravanのスポンサーになりたがっているんだから。と、いう訳でそんな超超大事な大事な広告頭のこのFlying Twinkle Caravanの衣装をこのフォレスティエ社一のエレガントでスタイリッシュでパワフルでパッション溢れるこのジェマヴォンヌ・ド・ラ・ロシェルが派遣されてるって訳」
ベールさんが守ってると思っていたから衣装の凄さなんて頭から抜けていた。
それにみんなが着ている衣装のかっこよさについても納得だ。みんな役割によって衣装が違うが方向性が一致しているような気がしていたが、それもこれもジェマさんがデザインした衣装だったのか。
先程のステラッチェ団長に言っていた『もっと綺麗な格好をしなさい』とはただのお節介ではなかったのか。フレンは何も言われてなかったけど。
「さ!身の上話も終わったことだし衣装合わせのお時間よ。楽しみねプレンツ君?」
7時間後ぼくはジェマさんの着せ替え人形としての役割を終えて部屋に戻った。
部屋の机にパンが置いてあった。フレンだ。ありがとうフレン。
少し横になろうとして二段ベッドに登った。
少しだけ目をつぶるつもりがそのまま気を失ってしまった。
あれ?デジャブ?




