表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアリティ・チェック  作者: こざかな
第1部 ― 鯨中学校学期
5/13

第4話:特別なお知らせ!

第4話、更新しました!読者のみなさん、楽しんでください!

その日はもう放課後――と言いたいところだが、実際はまだ「掃除の時間」だった。生徒たちは教室と、すぐ外の廊下を手分けして掃除している。地味な作業ではあるが、この時間だけはおしゃべりしてもだいたい許される。


「ようマコト。肋骨どうだよ?」


松本が、廊下をほうきで掃いている小川のところへ寄ってきた。


「え? あー……まあ、大丈夫だわ」


「ほんとか? むしろイラついてる顔してるぞ」


「当たり前だろ、この間抜け! 卒業まで今学期ずっと“本物の剣禁止”だぞ!? これからあのクソ木剣しか使えねーんだ!」


「うわ。なら決闘でフシチョウ先生に勝てばよかったのに。ははは!」


「窓から投げ捨てるぞ?」


「相変わらずお前ら、ケンカ好きだな」


ヒュウガとウラナが合流してきた。どうやら四人とも廊下担当らしい。


「だってジュンペイが煽るんだよ。どうせフシチョウ先生にかかったら、アイツのほうがオレよりひどく転がされるってのに」


「おい! それは名誉毀損だ! こっち来い!」


松本は小川をヘッドロックし、そのままグリグリとこめかみを押した。小川も笑いながら抵抗する。


「ほんと、あの二人って離れないよね」

「まあ、あいつらは俺たちより“幼なじみ度”が高いし。絆が強いんだよ」

「うん。たぶん何があっても切れないよね」


四人がサボり気味に盛り上がっていると、後ろから冷たい声が飛んできた。


「あなたたち、ふざけてないで早く終わらせなさい」


振り向くと、教室の窓を拭いていた田中がこちらを見ていた。


「ほんとに。廊下の他の子はちゃんとやってるのに、あなたたちは何なの? 面倒くさい」


「あっ、ユメコちゃん! 大丈夫! もちろん掃きます! ユメコちゃんが言うなら何でもやる!!」


田中は冷めた目を向けて、そのまま去っていった。


松本が鼻で笑う。


「なあ、マジでわかんねー。なんでそんな扱われ方して喜べるんだよ。いつか予告なしで潰されるぞ」


「いやいや、そんなことないって。てか、オレは“待ち”の勝負してるから」


「その勝負、俺ら全員しわしわになっても続いてそう」


「ふーん。まあいいけどさ。廊下掃除でユメコちゃんの好感度は上がらねーし~」


そう言うやいなや、小川は余っていたほうきを数本つかみ、二本を鼻の穴に突っ込み、さらに二本を頭の横に立てて“角”みたいにしながら教室へ突入した。


「みんなまだ働いてんの!? たまには休めよ! 見ろ! オレはほうきモンスターだ!!」


生徒たちが呻いたり笑ったりする。


「頼むから終わらせてくれ!」

「お前ほんとバカだな!」

「サボんな! 戻れ!」


田中のこめかみがピクッと動いた。


「いい加減にしろマコト!! さっさと終わらせないと、そのほうきを鼻に突っ込むぞ!!」


「ユメコちゃん!! 冷たすぎ!!」


外から見ていた三人は、教室の中でふざけ倒す小川を眺める。


「アイツ、変わらないよな」

「ジュンペイ、お前も似たようなもんだろ」

「えっ!? 俺はちゃんと引き際わきまえてるし……たぶん」

「ふふ。ヒキくんはどう思う?」

「うーん……このままだと、本当に詰むと思う。ずっと一緒にいるわけじゃないし、そろそろちゃんとしないと」

「だよね。まあ“いつか”だけど」

「たぶん永遠に来ない」


三人は苦笑しながら教室へ戻り、小川を仕事へ引き戻そうとした。


――小川はいつ大人になるのか。

それを、みんな本気で疑っていた。


-


全員が席に戻り、静岡先生が下校前の連絡事項を読み上げようとしていた。……のだが。


小川と松本が大声でしゃべり、笑い、言い合いを続けていて、周りの集中をぶち壊していた。


「小川さん! 松本さん! いい加減にしなさい!」


二人はぴたりと黙る。


「すみません静岡先生! 白熱した議論してました! 朝ごはんは“目玉焼きトースト”と“シリアル”どっちが最強かって!」


「くだらなすぎる……。どっちも違います。朝ごはんは白米と味噌汁が一番です。静かに」


「ブーー!」

「先生、センスない」


「あなたたち、頭痛の種ね……」


その時、教室のドアが開いた。


「やあ、静岡先生」

「こんにちは、静岡先生!」

「失礼します」


入ってきたのは、不死鳥先生、サトウ先生、そして見慣れない教員の男性だった。


「え、不死鳥先生!? なに、また小川を罰するの!?」

「ちがう、見ろよ! サトウ先生もいる!」

「てか、あの人誰?」


静岡先生が手でクラスを制し、三人を迎えた。不死鳥先生は静岡先生の右へ、サトウ先生は左へ立つ。


サトウ先生は静岡先生より少し若く、二十代後半くらいに見える。首筋にかかる程度の短い緑がかった髪。明るい赤茶の瞳は、楽しげで生徒思いの光を宿していた。生徒に人気の高い先生だが、今日はなぜか妙に上機嫌だ。


そしてサトウ先生の隣に立つ男。黒いくせ毛に眼鏡、黒い目。手には大量のプリント。緊張したような笑みを浮かべている。


「みんな、聞いて! 今日は特別なお知らせがあります!」


静岡先生の言葉に、教室がざわついた。


「特別なお知らせ? あの紙の山なに?」

「テスト配るやつじゃない?」

「パーティーとか!?」


「静かにしろ」


不死鳥先生の腹に響く声で、教室は一瞬で静まり返った。


「もう、不死鳥先生。そんなに威圧しないでください。みんな、何が起こるのか気になってるだけですよ!」


「チッ。俺は早く終わらせたいだけだ。説明は手短にな。静岡先生、……マユリ先生、頼む」


「は、はい! わ、わかりました!」


“マユリ先生”と呼ばれた新任の男性はプリントを整え、眼鏡を直しながら前へ出た。静岡先生の隣に立つと、背の差もあって少し小柄に見える。小川はそれがちょっとおかしくて、口元を押さえた。


「では、みなさん。今度の日曜日から、一週間ほど“校外研修”のようなものを行います」


教室がどよめいた。まだ新学期が始まったばかりで、夏休みまでだいぶある。いきなり一週間の研修だなんて。


静岡先生が続ける。


「“年度の最初に研修?”と思ったでしょう。でも必要なんです。残りの一年、そして高校に進んだ後に備えるためにね。繰り返しますが、これは“旅行”ではありません。研修中はしっかり鍛えます。……マユリ先生、詳細をお願いします」


「は、はい! では……」


マユリ先生は咳払いをして自己紹介した。


「みなさん、こんにちは! マユリです。まだ一年目の教員なので、知らない人も多いと思いますが……私は留学プログラムの担当もしています。三年A組のみなさん、よろしくお願いします!」


小川は若干退屈そうだった。中学の留学プログラムなんて、成績も実力もトップクラスの“天才組”だけの世界だ。小川には縁がなさすぎる。


「なあ、あの人めっちゃオタクっぽくね?」


松本が小声で言う。


「その煽り、小学生かよ。俺なら“あの髪、俺の――”」


「小川さん。何かみんなに共有したいことでも?」


静岡先生の視線が刺さる。


「あっ……いえ、先生。はは……」


「続けて、マユリ先生」


「は、はい! ええと……今回は“船”で行く、一週間の研修です。クルーズ船に乗って――リンゴ島へ向かいます!」


生徒が沸いた。


「クルーズ!? やった!」

「リンゴ島ってどこだっけ?」


マユリ先生は笑って問いかける。


「リンゴ島がなぜ重要か、分かる人いますか? では……真ん中のあなた」


指名されたのは田中だった。


「田中ユメコです。リンゴ島が重要な理由は、剣のアート・オブ・ソードの歴史と深く関わっているからです。史上初めて剣術属性ソードアート・アトリビュートが報告された場所がリンゴ島だとされています。以来、島を訪れた剣士は“良い運”を得ると言い伝えられています」


「正解! さすが田中さん。よく勉強してますね。立派な剣士への道を歩んでいます」


田中が褒められて微笑む。その瞬間、小川の胸が勝手にキュッとなった。


マユリ先生は予定を説明する。


「出発は日曜の朝、午前五時ごろ。船で二日かけて移動し、火曜の朝に到着。島では四日間滞在します。土曜の朝に出航して、日曜の午後に戻ります。剣と、一週間分の着替えを忘れずに。食事と船内の娯楽は用意されていますが、必要なら各自持参しても構いません。研修ではありますが、休息や交流の時間も取ります。頑張りすぎないことも大切です。緊張と休息のバランスで、気の巡りも整いますからね」


教室が歓声で揺れた。


「最高!!」

「クルーズだ! 日焼けできる!」

「飯いっぱい食う!」


小川は「休息」の一言でマユリ先生への評価を一段階上げた。


「マジで来たな! 水! 太陽! ゲーム! そして何より――うるさい親と兄弟から解放!! 最高じゃん!」


「わかる。でも研修だからサボんなよ」


「え? 俺がサボるわけないだろ?」


「……本気で言ってる?」


「黙れ」


マユリ先生はプリントを配り始めた。


「この参加同意書を持ち帰って、保護者の署名をもらってください。署名があることで、こちらが研修に連れて行く許可になります。引率は私、静岡先生、不死鳥先生、サトウ先生です」


小川は紙を見て、にやりと笑う。


(クルーズ研修……やっと俺の計画、動かせるじゃん)


「あと、小川マコト」


不死鳥先生の声で、小川は顔を上げた。


「お前には研修用の木剣を支給する。……“約束”を忘れるなよ」


クラスがクスクス笑い、静岡先生も口元だけで笑った。


「うがぁ! 分かってますって!」


マユリ先生は前に戻り、頭を下げる。


「以上で特別なお知らせは終わりです。提出は木曜日、遅くとも午後三時までにお願いします。全員が参加できるのを楽しみにしています!」


静岡先生も笑顔で頷いた。


「それでは解散! 気をつけて帰るように!」


先生たちが一礼して退出し、生徒たちもぞろぞろと教室を出ていく。小川はプリントをファイルにしまった。


(絶対楽しいやつだ、これ)


-


四人は下校しながら、クルーズの話で盛り上がっていた。


「メグミ、水着持ってくんの?」


「マコト……変態」


「素直な質問だろ!?」


「だから秘密。あんた絶対ろくなこと考えてない」


松本がニヤニヤしながら言う。


「どうせユメコちゃん絡みだろ!」


「はぁ……まあ……って、ちがう! 黙れジュンペイ!」


ウラナはため息まじりに笑い、ヒュウガへ振る。


「ヒキくん、クルーズどう思う?」


「楽しそうだよ。訓練はキツいだろうけど、ちゃんと休める時間もあるってことだし」


小川が割り込む。


「前の三年生、こんなの無かったんだろ? ざまぁ!」


「え、マコト。むしろ君が心配なんだけど。木剣で研修、ついていけるの?」


「大丈夫大丈夫! 俺、全部コントロールしてるし。全然キツくないって!」


「はいはい、“雷鳴の昇天”さん」


「“インカミング・サンダー”な」


「はいはい」


「……でも水着?」


「マコト!!」


ウラナが追いかけ、走りながら蹴りを入れる。小川は笑って逃げた。


松本がヒュウガを見て言う。


「マジであいつ、痛い目見るまで止まらないよな?」


……だがヒュウガはどこか上の空だった。


「え、ヒキ? おい、大丈夫か?」


「あっ……う、うん! 大丈夫! ちょっと……考え事してただけ」


「水着のメグミのことか? この犬!」


「ち、ちがっ……! なんでそうなる! 俺は……俺は追いかける!!」


ヒュウガは慌てて走り出し、松本も笑いながらついていく。


(あいつ、ホント適当だな。)


-


追いかけられ続けていた小川は、校門の近くで立っている田中を見つけて足を止めた。胸がふわっと跳ねる。


「ユメコちゃん! 今日も元気? 午後の光で輝いてるけど、月明かりだともっと輝くんじゃない?」


田中はいつも通り冷たい目を向ける。ウラナが息を切らして追いついてきた。


「はぁっ……マジで速すぎ!」


ウラナが小川の足を軽く蹴るが、小川は田中しか見ていない。


「マコト」


「は、はいユメコちゃん!?」


田中は校門から体を離し、小川の前へ歩み寄った。


「この研修、絶対に台無しにしないで。いい?

大事な研修なの。あなたが私や誰かの邪魔をしたら、全部マイナスになる。私は剣士として成長したい。だから――一回でいいから“普通”にして。

あなたたち四人も。ほんと一回でいいから、ちゃんとしなさい」


そこへ残りの三人も到着した。田中の真剣な眼差しに、さすがに逆らえない。


「は、はいユメコちゃん! 大丈夫! 俺たち、研修の話してただけだよな? ジュンペイ? メグミ? マコト?」


「そ、そうそう! 心配しないでユメコちゃん! ちゃんとする!」


「了解っす! “モロんこと”は俺が百まで抑える!」


「うんうん! ユメコちゃんのためなら何でも~♪」


田中は少しだけ見つめたあと、小さく頷き、ため息混じりに去っていった。


松本が呆れて言う。


「マジでさ……お前、諦めろよ。今の、邪魔したら地球から消される勢いだったぞ」


「それがいい」


「……無理。俺帰る。用事あるから。じゃーな」


松本は去り、ヒュウガとウラナも続く。


「俺たちも帰る。メグミ、東京のカフェ連れてくって約束したし。じゃあな、マコト」

「そのユメコ問題、ちゃんと何とかしろよ」

「はいはい、デート楽しめよ」


二人は同時に真っ赤になって叫び、走り去った。


「デートじゃない!!」

「デートじゃないってばバカマコト!!」


小川は肩をすくめる。


「どう見てもデートだろ。まあいいや。俺も帰るか。眠いし、紙もサインもらわないと忘れる」


そう思って歩き出そうとした時――


「兄貴?」


小川が振り返ると、背の低い少年が立っていた。短い赤髪、黒い目、眼鏡。小川マコトの弟、小川ユウ。十三歳で、鯨中学校の一年生だ。


「お、ユウ! 一緒に帰るか?」


「……生のスイカ丸ごと飲み込むほうがマシ」


「冷たっ! 兄貴泣いちゃう!」


小川は弟の肩に腕を回し、そのまま歩き出す。


「うわっ、やめろ! お前と歩くの嫌なんだけど! 恥ずかしいんだよ、兄弟だって思われるの!」


「傷つくわ~。じゃあ、おにぎり奢ったら許してくれる?」


「……ツナマヨなら“我慢”する」


「よし決まり! で、今日どうだった? 何習った?」


「えっと……中段の構え。簡単だよね。あれ苦手な人かわいそう」


「……そうだな」


「で、兄貴は? 何か学んだ?」


「学んだ学んだ。片腕の剣士はマジで怖い。あと、ほうきを鼻に突っ込みすぎるな。特に誰かに突っ込まれそうになったら、出血確定、百パーだ」


「……最初から一人で帰ればよかった」

みなさん、こんにちは!第4話を読んでくださってありがとうございます。


このパートは本当は長くするつもりはなかったのですが、とても大事な内容だったので、どうしてもこうなってしまいました(笑)。今日はこのあと授業も終わるので、また執筆を進めます!


次回もぜひ楽しみにしていてください!


「クルーズ研修、一緒に行きましょう! きっと最高に楽しいですよ!!」

――サトウ先生


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ