第3話:小川マコト VS 不死鳥先生
第3話です!お待たせしました。最近いろいろバタバタしてて……(笑)
どうしてこんなことになったのか?
まあ――小川マコトのいつもの調子に乗った悪ノリのせいだ、と言えばいいだろう。
そして、それは完全に正しい。
「くそ……やりすぎた……? オレ、煽りすぎたか……?」
屋外の訓練場。即席の小さな闘技スペースで、二人の剣士が向かい合っていた。白い塗料で大きな四角が描かれ、その中央には小さな円。開始前、互いはその円の左右に立つ決まりになっている。
「さて、小川マコト。そこまで俺を煽って“何ができるか見たい”と言ったんだ。なら――お前が“何ができるか”も見せてもらおう」
不死鳥先生が、くつくつと笑う。
「いや、正確にはこうだな。前に俺がこの授業を担当した時より、少しでも成長したか確認してやる。
……が、教員連中からの苦情を聞く限り、お前は何もしていないだろうな。まあ運がよければ、今回は“十秒”で気絶できるかもしれん。前回は五秒だったからな」
見学していたクラスが、クスクス……どころではない。盛大に笑った。
そして小川は――ムッとしつつも、いつものニヤニヤを崩さない。
……ただし、目の奥だけはめちゃくちゃキレている。
「へぇ? じゃあオレが勝って、さっさと自由時間にしてやるよ。オレのすごさ、見せてやる。
小川マコト、“来たる雷”が、お前をぶっ倒す!」
「顔から転ばないようにな! ハハハ!」
「ギャラリーは黙ってろ!!」
小川は大きく息を吐き、前へ出た。不死鳥先生も同じく歩み寄る。
(よし……やるしかない。集中だ。勝てば自由時間。
それに何より――ユメコちゃんにカッコいいとこ見せる!
不死鳥先生を吹っ飛ばしてやる……たぶん)
二人は中央の小円の左右に立ち、剣を掲げる。刃と刃を軽く合わせた。
この世界では、決闘の前に互いの剣を触れさせる。それは敬意と認識の証。剣の術に従う者同士の戦いが、いかに神聖かを理解しているからだ。
「がっかりさせるなよ、小川。俺が勝ったら、授業が終わるまで木剣稽古で十倍に鍛えてやる」
「悪いっすね。オレは先生がくれた自由時間をありがたく満喫するんで」
剣を合わせたあと、二人は元の位置に下がる。礼をして、構えに入った。
生徒たちは固唾を呑んで見守る。
ウラナがヒュウガに囁いた。
「ねえヒキくん。この勝負、どうなると思う?」
「本気で聞いてる? マコトがボコられるに決まってる。
それより、先生が“終わらせる”まで何秒もつかだよ。……六秒かな。前回より一秒伸びる」
松本も口を挟む。
「オレは三秒。前は先生、木剣だったろ? 今回は本物の刀じゃん。マコト、勝てるわけねー」
「まあ……でも不死鳥先生も、さすがにマコト相手に全力は出さないと思うけど」
二人は構えを見比べる。
片腕でも、不死鳥先生の構えは完璧だった。
前足は相手に向け、後ろ足はやや横へ。膝はバネのようにわずかに沈み、腰は芯が通っている。肩は落ち着き、胸は開きつつも隙がない。重心は揺るがず、どれだけ押しても動きそうにない。
右手の握りは強く、左腕の代わりに柄頭側へ手を置いていた。多くの生徒は違和感を覚えるが、その圧倒的な強さの前では誰も口にしない。
一方の小川は――ひどかった。
足はぐちゃぐちゃ。両足とも相手に向き、片方は後ろに引きすぎ。膝は棒みたいに固い。肩は抜けているが、抜けすぎてダラけて見える。左手はほとんど握っていないのに、右手だけは握りしめすぎ。持ち方も位置もバラバラで、初めて剣を握ったみたいだ。
要するに――ふざけているように見える。
不死鳥先生は、まったく感心していなかった。
「ふん、それがお前の構えか。三年にもなって、基本五構えのひとつも身につかんとはな。
中段の構え(ちゅうだんのかまえ)は“最も簡単”だ。それすら遊び扱いか。……なるほど、小川マコト。少し理解できた。
――もっとも、良い理解ではないがな」
「チッ……近いっしょ! 文句はオレに勝ってから言えよ! でもまあ、勝てねーけどな、ハハ!」
松本が首を傾げた。
「なあヒキ、メグミ。構えって習ったけど、実戦だとあんま使わなくね? 最初だけとか、稽古の時だけだし。
そもそも、使わないのに学ぶ意味あるの?」
ヒュウガはため息をついた。ウラナは説明を任せる。
「それはまあ……授業でちゃんと触れないし、誰も突っ込まないからな。
でも、“最初だけ”に見えて、実はちゃんと使ってる」
「どういうこと?」
「構えは、格ゲーのチャージみたいなもんだよ。お前好きだろ。
構えに入ると一瞬無防備になるけど、その代わり体内の“気”を溜めるんだ」
「気……剣術属性に使うエネルギーだよな?」
「そう。それだけじゃない。構えで気を整えると、全身に安定して巡る。
結果、動きが速くなる。視界や知覚も鋭くなる。体も硬くなって、重い一撃も耐えられるし、打撃も重くなる。
効果は決闘が終わると消えるけどな」
「へえー!」
「それで、どの構えにも“基本効果”の他に、個人固有の“隠し能力”が三つあるって言われてる。剣術属性と似た性質だ。
ただし開花条件が多すぎて難しい。六つ全部を引き出せるのは、ほんの一握りだ」
「うわ、そうだ! 思い出した! めっちゃカッコいいじゃん! 忘れてた!」
ウラナが呆れたように目を回す。
「忘れると思ってた」
「だって一気に情報入れられると脳が処理しきれないんだよ! 理論の授業、頭が爆発する!」
「そのバカさで私の頭も爆発する」
ヒュウガが二人を制し、決闘の立会人の声に耳を向けた。
「不死鳥先生と小川マコトの決闘を開始します」
立会人の女子生徒が手を上げる。
「――3!」
不死鳥先生は落ち着いている。
「――2!」
小川はぐちゃぐちゃの構えのまま、妙に自信満々だ。
「――1!」
そして――手が振り下ろされる。
「決闘――開始!」
「見ろ! マコトが動いた!」
小川は構えを崩し、不死鳥先生へ突進した。右手で剣を握りしめ、いかにも“振り下ろします”という大ぶりな動き。
「行くぞォ! このまま一気にホームランだ、ベイビー!」
不死鳥先生は構えたまま、近づくのを待つ。
そして、距離が数歩まで詰まった瞬間――動いた。
左足を一歩、前へ。
小川はニヤリとする。
(左足? バカにすんな。読めるんだよ。
右に回り込んでオレの左に出て、背で叩くつもりだろ?
甘い! 先生が左に来た瞬間、オレが超速で振って――)
小川は“勝ち”を確信していた。
……確信していたのは小川だけだった。
「ふん。俺を愚弄しているのか、小川マコト」
小川が目を見開く。
(え……? 前にいない? いつ……? どうやって!?
ずっと見てたのに、動きが見えない……!)
そう。小川は先生の動きをまったく追えなかった。
知覚できない。予測も外れる。
そして、次の不死鳥先生の言葉が、追い打ちになる。
「簡単に読める“動き”に引っかかったことが、俺は腹立たしい」
小川は、スローモーションみたいに視線を動かす。
左ではない。右だ。
そこには、不死鳥先生がいた。小川に背を向けるように、静かに“途中で回った”姿勢で。
落ち着きすぎている。退屈そうですらある。
(冗談だろ……!? この向きじゃ先生、斬れないはず……。
でもオレも、背で叩く以外当てられない。両手に持ち替えて振るほどの時間もない。
……じゃあ、どうすんだ――)
そこまで考える前に、鋭い“何か”が肋骨に突き刺さった。
「ぐぁっ――!!」
痛みで声が漏れる。
クラス全員が、何が起きたかを見た。
「小川。勝負は刃の鋭さだけではない。剣士の“頭”の鋭さもだ。
斬るだけが戦いではない。……その分厚い頭に叩き込め」
不死鳥先生は、刀の柄頭で小川の肋に突きを入れていた。
ただの柄頭なら、ここまで痛くないはずだ。
だが――突きの速度、衝撃の重さ、そして“気”を凝縮して柄頭へ流し込んだこと。
それらが重なり、常識外れの激痛となった。
小川は勢いよく吹っ飛び、白線の外へ転がる。
不死鳥先生は倒れてうずくまる小川を見て、ため息をつき、刀を鞘に収めた。
立会人は笑いを堪えきれず、鼻を鳴らしながら勝者を宣言する。
「ぷっ……え、えー……勝者、不死鳥先生!」
クラスが爆笑し、罵声が飛び交う。
「バカ! 勝てると思ったのかよ!?」
「マジで恥ずかしい!!」
「“皆のため”とか言ってたよな? 笑わせんな!」
「弱すぎ!」
「髪も相変わらず変!!」
小川は痛みに丸まりながらも、強がってニヤリと笑った。
「へっ……うぐ……べ、別に本気じゃねーし……っ、いてぇ……」
当然、誰も信じない。笑い声はさらに大きくなる。
小川は痛みに耐えながら、田中ユメコたちの方を見る。
彼女たちは皆、笑っていた。……田中だけを除いて。
田中は冷めた目で小川を見下ろし、視線が合った瞬間、露骨に顔をしかめてそっぽを向いた。
(……最悪の注目の集め方だな)
ウラナがヒュウガに聞く。
「で、何秒?」
「……二・五秒……」
「……」
松本は腹を抱えて尻もちをつき、今までで一番大笑いした。
――うん。小川はもう、帰りたかった。
でもその前に、保健室に行かなきゃいけない。
今の一撃で、肋骨が全部消し飛んだ気がする。
第3話はここまでです。更新が遅れてしまい、本当にすみません……。普段はもう少し安定して更新できるのですが、最近いろいろとバタバタしていました。
ちょっとした近況(豆知識)ですが、今いる場所はすごく寒くて雪が降っています。今夜はさらに降るみたいで、もうすぐ約2フィート(約60cm)近く積もりそうです!その影響で、明日の授業は休講になりました。なので、もっと早めに次の話も書けそうです!
それでは、次回もお楽しみに!
「マコトみたいにはならないでね。あいつ、ほんとに面倒くさいから。……でも、もし気に入ったなら、このまま読み続けて。」
――田中ユメコ




