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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第三章 エースに続くのは……
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39th BASE

 亀ヶ崎が前の攻撃で先制点を奪い、リードした展開で七回表を迎える。マウンドにはオレスが上がったが、先頭の万里香に五球目のストレートを捉えられる。


「ナイバッチ!」


 楽師館ベンチが活気付く中、万里香は一塁をオーバーランして止まる。センター前へのクリーンヒットでノーアウトからランナーが出る。


(投げてるボールは悪くないけど、最後の最後に一番甘くなっちゃ駄目だよね。まあ専門のピッチャーではないし、そこまで完璧にはできないか)


 万里香はエルボーガードとフットガードを外し、ランナーコーチに渡す。オレスの素質こそ認めつつも、現状では真裕たちに肩を並べるほどではないと評した。当のオレスは打球がセンターに抜けたのを見て、マウンド上で歯痒そうに舌を打つ。


(今のはツーボールにした時点で勝負ありだった。もう一つボールが少なかったら決め球の幅も利かせられたし、中軸には特に有利なカウントを作らないと。こんなんじゃ話にならない)


 そう自らを律するオレス。するとそこへ、嵐がタイムを駆け寄ってくる。


「どんまい。やっぱりちょっとでも甘くなると万里香は見逃してくれないね。けどボールに力はあるから、オレスは自信を持って投げてきて。ダブルプレーなんて欲張らず、一人一人を着実に抑えていこう」

「分かってる。ランナー一人くらいノープロブレムよ。いちいち騒がないで」

「それもそうだね。余計な心配して悪かった。せっかくリードしてるんだし、このまま勝ち切ろう」

「当たり前でしょ」


 如何に練習試合と言っても、オレスも嵐も勝ちたい気持ちは強い。ただそれは楽師館の選手たちも同じであり、そう容易くはアウトになってくれないだろう。二人は追撃を食い止められるのか。


《四番ショート、大下さん》


 打順は四番の大下に回る。今日一日を通じてこれが六回目の打席となるので、オレスも嵐も彼女がどんな打者かはよく理解できている。しかし二人はランナーの万里香にも注意を払っておかなければならない。


(万里香もオレスが本来投手じゃないことは知ってるはずだし、隙を見つければ容赦無く走ってくる。オレスにはバッターに集中してもらいたいけど、そうはいかない。上手に操縦しないと)


 まず嵐はオレスに牽制を入れさせる。万里香はそれほど大きなリードを取っておらず、立った状態で一塁に戻る。


(今の万里香の様子を見る限り、初球は様子を伺ってきそうだな。その内にストライクを取ろう)


 嵐は改めてオレスとサイン交換を行う。初球は外角のスライダーから入った。


「ストライク」


 この一球では万里香に動きは無し。オレスのセットポジションでのモーションを確かめたようだ。


(思ったよりもクイック速いな。牽制は上手いとは言えないけど、無難にはできるみたいだね。ならとりあえずは実際に仕掛けるより、走りそうな雰囲気を出してペースを乱そう)


 万里香は左足に重心を置いていつでも素早く帰塁できるようにしつつ、先ほどよりもリードを一歩以上大きくする。見かけだけならオレスには相当なプレッシャーが掛かる。


(さっきよりも明らかにリードが大きくなってる。私のモーションを見てもっと出られるって思ったの? 舐めないで)


 オレスは一度プレートを外し、睨むような視線を万里香に送る。万里香はそそくさと半分程度ベースとの距離を詰める。


(おお……、目付きが怖いよ。でも私のことが気になるみたいだし、こっちとしては良い感じだね。どんどん気にしてちょうだい)


 万里香が大きさを縮めることなく再びリードを取る。それに対してオレスは嫌悪感を抱きつつも、牽制はせずに大下への二球目を投じる。


 アウトコースを狙ったはずのストレートが高めに抜け、嵐が咄嗟に腰を上げて捕る。オレスは万里香に気を取られるあまり、手元を狂わせてしまった。

 ところがバッテリーもただでは終わらない。嵐は立ったのを逆手に取り、一塁へ送球する。


「おわ⁉」


 オレスの投球を見て前に出かかっていた万里香は慌てて頭から滑り込み、ベースに向けて左手を伸ばす。ファーストもアウトにしようとタッチしたものの、判定はセーフとなる。


(そっちから牽制が来るとは……。タイミングも割と危なかった。いつもファーストを守ってるから気付きにくいけど、嵐も良い肩してるね)

(ランナーとしてオレスを崩そうと企んでるんだろうけど、そうはいかないよ。私だって菜々花に負けないくらい守れる自信はあるんだから)


 嵐は万里香を見ながらマスクを脱ぎ、両の二の腕で額の汗を拭う。その後ボールの所有者が移るのに合わせてオレスに声を掛ける。


「オレス、周りに目を配るのは良いけど、打者に投げる時はそっちに集中しよう。ランナーもリードを広げたってことは、却って走ってこない可能性が高いよ」


 オレスは無言で頷き、ロジンバッグを手に取る。すぐにはセットポジションに入らず、頭を冷やす時間を作る。


(嵐の言う通りね。こんなことで冷静さを欠くなんてみっともない。私の使命はチームを勝たせること。ランナーが遊びたいのなら、ある程度は勝手に遊ばせておけば良い)


 気を取り直してオレスは大下への投球に向かう。万里香がまたも大きくリードを取って揺さぶってくるが、彼女は惑わされない。首を動かして様子を伺うだけに留め、三球目を投じる。


 カーブがアウトローに向けて放物線を描く。大下のフルスイングを躱し、嵐のミットに収まった。すかさず嵐が一塁を見やるも、万里香は何もせず帰塁している。


(あーあ。嵐がいらないこと言うから、オレスも動じなくなっちゃったじゃん。これじゃこっちのリスクが高まるだけだし、一旦は大人しくしておこう)


 万里香は嵐たちから一瞬だけ背を向け、苦々しく白い歯を零す。彼女が何もしてこない間に、バッテリーは大下を打ち取ってしまいたい。


(大下はオレスの持っている球種をそれほど把握してないはず。ボールになる変化球も比較的手を出してくれるだろうし、この一球で一気に決めよう)


 嵐はオレスと次の配球を決めると、ミットで地面を軽く叩く。その真意を受け取ったオレスは先ほどまでよりもややゆっくりと足を上げ、力を溜めてから四球目を投げる。


 投球は真ん中よりも僅かに低く内に寄ったコースを進む。これなら大下は苦も無く捉えられると感じ、下から掬い上げるようなイメージでスイングする。



See you next base……

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