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ベース⚾ガール!!! ~Ultimatum~  作者: ドラらん
第三章 エースに続くのは……
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37th BASE

「頑張れ春歌ちゃん、負けるな!」


 六回表、二人の打者を打ち取ってツーアウトを灯した春歌だが、中本に対しては二球で追い込みながらもフルカウントまで行ってしまう。亀ヶ崎ベンチでは真裕の声援に続き、他の選手たちも春歌を鼓舞する。


(……ほんと、よくも懲りずに私のこと応援できるよね。私が結果出したら自分の立場が危うくなるかもしれないのに……。まあ真裕先輩のことだから、そこら辺のことは頭に過ぎることすらなさそうだけど)


 春歌は半ば呆れた感情を抱く。ライバルから応援されるのは少々癪に障るが、共に勝利を目指す同朋である以上、こうした声の掛け合いが必要であることも分かっている。

 一人で孤独に戦うには限界があっても、チームメイトと協力すればその限界を突き破れる。春歌はそれを亀ヶ崎に入って思い知らされた。故に自らの考えを変えられたのだ。


(私には真裕先輩のスライダーのような圧倒的な決め球は無い。だから三振もそんなに取れないし、こうやって粘られることもある。だけど私は一人じゃない。後ろで守っている人たちのことを信じて、打たせて取れるよう冷静に投げ続けるんだ)


 投球モーションに入った春歌が、これまでと変わらぬ腕の振りで八球目を投じる。放たれたのは真ん中付近で微妙に動くツーシームだった。

 その前までの投球と比較してコースは甘い。チャンスだと捉えた中本は、コンパクトなスイングで春歌の足元を目掛けて弾き返す。


 短い金属音を響かせ、痛烈なゴロが春歌のグラブの真下を通過。そのままセンターへ抜けようかという勢いで転がる。


「セカン!」

「オーライ!」


 春歌の叫びに応え、予め二塁ベース寄りに守っていたオレスが半身の体勢になりながらも打球に追い付く。逆シングルで捕球した彼女は背中から半回転すると、最後は右足を蹴り上げて強い送球を投げた。中本も懸命に走ったが、及ばずにアウトとなる。


「アウト。チェンジ」


 オレスは一塁塁審のジャッジを聞き届け、何事も無かったかのように平然と引き揚げていく。そんな彼女を春歌はグラブを叩いて称えた。


「ナイスプレー。オレスならアウトにしてくれると思ってた」

「当然でしょ。あれくらい普通だから」


 二人はハイタッチを交わすわけでもなく、春歌が僅かに相好を崩しただけで並走する。こうして喜びをあまり表現しない部分も含め、彼らにはどこか通ずる部分がある。


「春歌、よく我慢したね! オレスの守備も凄かったよ!」

「これで流れも来るだろうし、この回で点を取って勝とう!」


 春歌の好投とオレスのファインプレーに乗せられ、チームのムードは一気に上昇。すると六回裏、亀ヶ崎にワンナウトランナー二塁のチャンスが訪れる。


《バッター、山科さん》


 打席には代打の嵐が送られる。この試合ではスタメンを外れていたが、勝負強さを買われて満を持しての登場となる。彼女は日によって腰の状態が芳しくないこともあり、夏大でもこうした代打として出番が回ってくる可能性は十分にある。この打席はその予行演習となるだろう。


(スタメンだったら三打席の中で一本でもヒットを打てれば良いけど、代打は一打席で結果が求められる。そう考えると難しいな)


 嵐は先制の一打を放てるのか。楽師館の投手は三番手の山本(やまもと)。この回からマウンドに上がった右のサイドスローである。


 初球、山本はスライダーを投じる。果敢にスイングしていった嵐だが、予想以上の変化に空振りを喫する。


(……おいおい、めちゃくちゃ曲がるじゃん。内から真ん中に入ってきたと思ったけど、最後は外角まで達してた。これは打つのが大変だぞ)


 嵐は思わず苦笑いを浮かべて首を横に振る。山本のリリースポイントは嵐の背中よりも後ろにあり、そこから放たれる投球を目で捉えるには時間を要する。ストレートであれ変化球であれ、どうしても初動が通常よりも遅くなってしまう。


 二球目はインコースのストレート。嵐は自らの脇腹に投球が当たりそうだと錯覚し、咄嗟に腰を引いて見送る。ただし横の角度が付いているため、キャッチャーミットに収まった時点ではストライクゾーンに位置していた。


「ボール」


 幸いにも球審の手は挙がらず。嵐の元を通過する瞬間はホームベース上に無かったと判断されたのだ。


(ストライクと言われなくてラッキーだったな。でも今の球を避けてるようじゃ相手の思う壷だ。寧ろ当たりにいくくらいの気持ちでいないと)


 嵐は立ち位置を半歩ほどベース側に寄せ、少しでも山本にプレッシャーを掛けようとする。それが功を奏したか、山本が三球目に投じてきたのは外角へのストレートだった。嵐は振り遅れ気味になりながらも快音を慣らし、逆方向に打ち返す。


 打球はファーストの頭上を越えて伸びていく。フェアゾーンに落ちれば確実に一点だったが、徐々にスライスが掛かっていき、最終的にはライト線の外側に弾む。


「ファール」

「むう……。切れたか」


 嵐は一塁ベースの手前で走る速度を緩め、無念そうに天を見上げる。できることならこの一球で決め切りたかった。


(代打なんだから、打てると思った球は一発で仕留めないと。そう易々と二度目のチャンスボールは来ないぞ)


 気を取り直して打席に戻る嵐だが、本人も感じている通り次に甘い球が来るのは何球も後になるかもしれない。それまで持ち堪えようと思うと気が遠くなる。


 四球目は真ん中から外のボールゾーンへまで曲がっていくスライダー。嵐は釣られてスイングしかけるも、必死にバットを止める。二球目で変化の軌道を確認しているため、何とか我慢することができた。


 ツーボールツーストライクとなっての五球目、アウトローに威力のあるストレートが来る。嵐は差し込まれつつもバットに当て、一塁側ベンチの上へファールを打つ。


(三球目以降は全くインコースに投げてこなくなったな。私の立ち位置が変わったことで投げにくさを感じてるのか、それとも然るべき時のために取ってあるのか。いずれにせよ外角一辺倒なら対応できる。何球も粘っていればどこかでチャンスは訪れるはずだ)


 六球目もほぼ同じコースへのストレートが続く。またもや差し込まれる嵐だったが、今度はライトのファールゾーンまでライナー性の打球を飛ばした。一球前と比べてタイミングを合わせられている。


(追い込まれている以上はスライダーを警戒しなくちゃならないから、自然と真っ直ぐには反応が遅れる。でもこの二球で慣れてきたし、更に続けようってのなら打てるぞ)


 初めは山本のペースかと思われた対戦も、段々と嵐が優勢になってきている。山本もここでスライダーを投げれば流れを変えられるかもしれないが、四球目のように見極められてスリーボールとなると非常に苦しい。それを覚悟で勝負に出られるか。


 楽師館バッテリーがサイン交換を終える。一方の嵐も今一度集中力を高めてバットを構え、七球目に臨む。



See you next base……

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