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きっと今でもどこかで信じているのだろう
まだ誰もいない・・・・・
海水浴場の砂の上にベッタリと座って
風もなく穏やかな春の太平洋を一人で眺めていたら
顔見知りのスナックバーのママさんが
僕の傍に立っていて・・・。
「なにやってんの・・・・・」
ママさんにそう笑顔で聞かれて
「べつに・・・」って不愛想な返事をしたら
「そう」とだけ言ってママさんはそのまま隣りに座って
そしてしばらくのあいだ二人して黙って
海を見ていたら・・・。
「戻って来るって・・・・・
必ず 必ず戻って来るってそう言ったのに
そしてアメリカへ一緒に行こうってそう言ったのに・・・」
水平線よりもずうっと向こうを見つめながら
そんなひとり言を口にしたママさんは
〝アタシ馬鹿だよね〟っていうような
そんな顔をして笑った・・・。