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父親のいない子なんていくらでもいたのに
「今じゃ・・・・・
公然とそんな呼び方をしたら
差別だとか人権侵害だとか言われて
言った方が糾弾されかねない時代だけれど
でも 戦後間もない頃はまだ・・・。」
「子供は残酷だから・・・・・
私は物心ついたころからずっと
小学校 中学校 女学校とそれこそずうっと
『私生児』と言われて肩身の狭い思いをしてきたの・・・
でもね 大人はもっと残酷なのよ・・・。」
「なにも好き好んで・・・・・
未婚の母になったわけじゃないのに
結婚を約束した父が戦地で亡くなってしまって
父が亡くなってしまってから私が産まれただけなのに
なのに周囲からはまるで汚い者でも見るような眼で見られて
聞こえよがしに『親のいない子を産むなんて』とそう言われ続けて
お母さんは私なんかよりも辛い思いをしていたの・・・。」
そう言ってその人は唇を噛んだ。