177/216
有無も言わせずたちまち非国民
「戦時中は・・・・・
バスに乗っていても
靖国神社のその前を通るときには
決まって車掌さんが『最敬礼』と叫んで
そしたら乗客は起立をして靖国神社に向かって
老いも若きもそれこそ誰もがみんな
最敬礼をしたんですよ・・・。」
「あれは・・・・・
国民学校初等科二年のとき
バスの中で友達とのお喋りに夢中で
車掌さんの『最敬礼』の叫びに気づかずにいたら
『この非国民が・・・』と車掌さんに罵倒されて
いきなり往復ビンタをされました・・・。」
「あの時代は・・・・・
お上の言う通りにしないと
有無も言わせずたちまち非国民にされてしまう
そんな そんな恐ろしい時代だったんですよ・・・。」
そう言うとその方の肩がぶるっと震えた。