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学徒出陣したままお兄ちゃんは
「昭和18年の10月21日・・・・・
秋の冷たい雨が降るその中で
『出陣学徒壮行会』があったあの日わたしは
お母さんと一緒に明治神宮外苑競技場の観客席で
〝お母さんあそこ あそこに兄ちゃんがいるよ・・・〟
学校旗を掲げて行進する大隊のその中に
見慣れた学生服にゲートルを巻いた
そんなお兄ちゃんの姿を見つけて
わたしもお母さんもどこか
はしゃいでいました・・・。」
「あの時はまだ・・・・・
学生なんだから危ない所へ行かされることはない
だからお兄ちゃんが死ぬなんて死ぬなんてそんなことは
そんなことは微塵も考えてもいませんでした
わたしもお母さんも でも・・・。」
「お兄ちゃんは・・・・・
お兄ちゃんは学徒出陣して戻って来ませんでした・・・。」
そう言ってその方はハンカチを目頭にあてた。