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肥えの匂いなんてしなかったのに
「うちは代々農家で・・・・・
だから戦時中は近隣の人たちが
『どうか米か野菜と交換してください』って
着物なんかを持ってよくうちに頼みに来たの
そんな中にむこうは覚えてなかったみたいだけど
小学生のあたしのことを『肥え臭い』と言って
さんざん虐めた同級生が来たの・・・。」
「だからあたし仕返しをしてやったの・・・・・
その人が持ってきた着物にわざと鼻を近づけて
『こんな肥えの匂いがする物とじゃなにも交換できない』
あたしはそう言って頭を下げ続けるその同級生を
見下すような眼をして追い返してやったの
その時は気分がよかったんだけど
でもねぇ・・・。」
「その同級生が・・・・・
あの後直ぐに空襲で死んだって話しを聞いて
あの時食べ物と交換してやればよかったって今でも後悔してる・・・。」
そう言ってその人は顔を伏せた。