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あんな法律さえなかったら
「火災旋風って聞いたことあるかい・・・・・
地震なんかの自然災害によって都市部で広範囲の火災が発生して
炎を伴うつむじ風が発生する現象のことなんだけど
それはまるで炎の竜巻でさぁ・・・。」
「そんな火災旋風は・・・・・
空襲などの人災でも発生するんだよ・・・
屋根さえ突き破るアメリカ軍の焼夷弾によって
木と紙で出来ていた当時の住宅なんかあっという間もなく燃えて
そして燃え広がって辺り一面火の海になって
火災旋風になるんだけど・・・。」
「そうなったらもう・・・・・
消火なんか出来やしないんだけど
でもねぇ あの当時は『防空法』ってのあってさ
そこには空襲時の消火義務と懲役や罰金刑も規定されていて
そして内務大臣が退去を全面的に禁止すると明言したもんだから
逃げることも出来ないで熱風に焼かれて大勢死んだんだよ
あんな法律さえなかったら助かっただろうにねぇ・・・。」
そう言ってその人は深い溜息を吐いた。