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母は狂ったように叫んで泣いていました
「白木の箱に・・・・・
ついこないだ戦争に駆りだされて行った兄が
白木の箱に入って戻って来た日のことです・・・
その箱をただ黙って胸に抱いていた母は
ただのひと言も声を発することもなく
ただ涙をこらえて泣いていました・・・。」
「そういう・・・・・
自分が産んで育てた子が戦争で殺されても
それでもどこにも誰にも文句の一つも言えやしない
そして声を上げて泣くことすら許されない
そういうご時勢だったんです
戦争中は・・・。」
「でも だからといって・・・・・
納まりがつくほど人の心は簡単じゃないから
あの日から母は 時折り布団を頭から被って
狂ったように叫ぶようになりました・・・。」
娘さんの話しだとその行為は
死ぬまで続いたそうです。