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手榴弾を奪い取られたお陰で
「ゴーゴーって・・・・・
火焔放射器の恐ろしい音が
避難してたガマの中の一番奥にまで聞こえてきて
あちこちで自決した人たちが呻く阿鼻叫喚が起こって
〝もうこれまでか・・・〟ってそう観念してもなお
アタシは子どもを強く抱きしめたままで
自決をすることが出来ずにいたら・・・。」
「優しい兵隊さんが・・・・・
これなら子どもと一緒に楽に死ねるから・・・
そう言って私の手に手榴弾を握らせてくれたんで
やっと決心がついて子どもを強く抱いて眼を固く瞑って
指をかけた手榴弾の安全ピンを引き抜こうとしたら
『よこせ』って奪い取った人がいて・・・。」
「あの時・・・・・
手榴弾を奪い取られたお陰で
アタシと子どもがこうして今も生きてられるんだから
なにが幸いするかなんてほんとわかんないよね・・・。」
そう言ってそのオバアは笑った。