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お母さんには感謝しかありません
中国残留孤児のその人は・・・・・
大粒の涙をボロボロ零しながら流暢な日本語で
お母さんのことを僕に話してくれた・・・。
「満州で敗戦を迎えました・・・・・
わたしはあの時まだ幼かったんですけれど
それでも大人たちの言っていることは理解できました
『ソ連の兵が攻めてくるその前に皆で死ぬのだと
殺される前に辱めを受けるその前に・・・』
そう言っていました・・・。」
「でも・・・・・
『あなたは生きなさい』
お母さんがわたしの耳元でそう言って
皆に内緒でわたしに毒を飲ませなかったんです
そのお陰で一人だけ生き残されて辛い思いもしました
〝なんで なんでなんであの時一緒に死なせてくれなかったの・・・〟
そんなことを思ってお母さんを酷く恨んだこともありました
でも今は あの時助けてくれたお母さんには
感謝しかありません・・・。」