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死体が川の水を堰き止めたの
その人は・・・・・
その川を横断する堰に向かって
眼をとじて静かに手を合わせていた・・・。
「戦時中のことだけど・・・・・
空襲でこの町全部が焦土と化して
火事のその炎から逃れようとした人たちが
この川の中に大勢逃げ込んだんだけど
炎は川の水のその上を追って来て
そしてそこにいた人たちを
焼き殺したの・・・。」
「この川は・・・・・
けっこう川幅もあるでしょう
底は浅いけど水もかなり流れてるし
そんなこの川の水が堰き止められたの
流されて来た死体があの堰で折り重なって
あの空襲の後にこの川の水を堰き止めたのよ・・・。」
そう言うとその人はまた堰に向かって
静かに手を合わせた。