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手足が一本無くても生きてはゆけるけど
「私は戦時中軍医として・・・・・
満州で陸軍に従軍していました」と言ってから
その先生は話しをはじめた・・・。
「被弾したとしても・・・・・
頭じゃなければ即死はしない
腹だってよっぽどじゃなければ助かる
とはいっても戦地では大した治療はできなかったから
今なら死ななくてもいい負傷兵が大勢死んだけどね
でも それでも腕や足を被弾したくらいならば
野外病院の処置でも大抵元通りに治るのに
なのに自ら懇願する者たちがいるんだよ
『どうか切断してくれ』って・・・。」
「なぜかわかるかい・・・・・」
先生にそう訊かれて僕が首を捻ると
「手や足が欠損すると兵役を免除されるからだよ
手や足が一本無くても生きてはゆけるけど
戦場にいたらほぼ確実に死ぬからだよ」
そう言うと先生はフッて笑った・・・。