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母の大粒の涙のその冷たさを
「寝ていた時・・・・・
苦しくて藻掻いて開けた目で私が見たのは
寝ていた私の首に両手をまわして絞めている
そんな母の姿でした・・・。」
「死ぬんだって・・・・・
死ぬんだってあの時そう思いました
でも母は 私の首にまわしていたその手を外して
そして 私に縋りつくようにして強く強く抱きついて
『ごめんね ごめんね ごめんね ごめんね ごめんね・・・』
何度も何度も母は『ごめんね』を言いながら・・・
あの時の 母の大粒の涙のその冷たさを
今でも私の頬が覚えています・・・。」
「あれは・・・・・
敗戦の年のちょうど今頃のこと・・・
戦争が終結して喜んでいる人ばかりじゃなかったんですよ
この先どうなってしまうのかわからない不安に苛まれて
一家心中をする家なんかもあったんですよ・・・。」
そう言ってその方は顔を伏せた。