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自分で自分の指を切断したのに
「一人息子が二十歳になる半月ほど前のこと・・・・・
夜遅くに仕事から戻って来た息子のその右手には
血の滲んだ包帯が痛々しいほどぐるぐる巻かれていて
『どうしたの』って私がそう聞くと そしたら息子は
『旋盤でケガをした』って言ったんだけれど・・・。」
「私には直ぐにわかった・・・・・
機械の操作を誤ったんじゃないってことが
息子が自分で自分の指を切断したんだってことが・・・
右手の人差し指が末節から無くて銃の引き金を引けない者は
徴兵検査で実質不合格の丁種となり兵役が免除となる
さすれば私のことを一人残して死ななくても・・・
親思いの息子はそんなことを考えて・・・。」
「なのに そんなことまでしたのに・・・・・
息子が働いていた軍需工場が空爆にあって
息子の身体は跡形も無くなくなってしまって
だから息子の骨壺のその中には息子が自分で切断した
干乾びた人差し指と中指しか入っていないの・・・。」
そう言ってその方は涙ぐんだ。