表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/105

80.骨ギガント

 テッサ防衛戦の4日目、帝国軍はなんと、巨大な骨の化け物を作り出してきやがった。

 アフィによれば、それは死霊魔術で作られた疑似生物らしい。


「死霊魔術って、あんなでかいのまで作れるのかよ?」

「私も初耳ですが、敵には死霊のヴードゥレイがいます。死霊魔術によって死者を兵士にするとは聞いていましたが、まさかこれほどとは」


 物知りの師匠ですら呆れていると、アフィが知っていることを教えてくれた。


「死霊魔術ってのは、人間や魔物の死骸に死者の魂を込めて、使役するの。ただし使役する対象が大きければ大きいほど、多くの魂が必要なはずよ」


 それを聞いた師匠が、恐ろしいことを口にする。


「まさか……昨日までのがむしゃらな攻撃は、このためにあえて兵士を死なせていたと?」

「ええっ、味方の命を生贄いけにえにしたってこと? まさか、そんな……」

「いいえ、帝国とは、そして”帝国の7剣”インペリアルセブンとはそんな奴らですよ。目的のためには、どんな犠牲もいといません」

「そんな馬鹿な……」


 その場にいる者全てが、帝国軍の異常な行動に嫌悪の感情を抱く。

 しかし、ぼーっとしてばかりもいられない。


「いずれにしろ、これ以上のんびり、話してもいられなくなりました。あの化け物が完成したようです」


 師匠の言うとおり、巨大な骨が半ば透けた灰色の肉体をまとって、立ち上がった。

 頭の位置は俺のはるか上にあり、小山のような巨体を四肢が支えている。

 どこか見覚えがあると思っていたが、その姿を見て確信した。


「あれって、”山王竜”ギガントサウルスじゃないか?」

「言われてみれば、そうですね。我が国に侵攻した時にでも討伐して、死霊魔術の研究に使っていた、というところでしょうか」


 おそらく師匠の推測が当たっているのだろう。

 あんなものが戦争に使われたとは聞かないので、まだ研究中の可能性が高い。


――ゴオウワーーーーッ!


 骨ギガントが首を掲げると、大地を揺るがすような怒号が響いた。

 それは声とも呼べない音だったが、聞いた者の心をすくませるには十分だ。

 味方の兵士が一部、恐慌に陥る。


「まずい、普通の兵士じゃ太刀打ちできない。砦を破壊される前に、俺が七王と一緒に出る」

「陛下自ら、お出になるのですか?」

「ああ、あれは俺の領分だ」

「……たしかに他に方法がありませんね。しかしくれぐれもお気をつけを」

「分かってる」


 俺はその場でガルダを召喚し、シヴァと一緒にその背に乗った。

 ガルダはすぐさま飛び上がって、骨ギガントの前に降下する。

 その場で残りの王も召喚すると、敵がこちらへ向けて歩きだす。


 やがてある程度近づくと、敵が炎のようなものを吐き出した。

 シヴァが闇盾ダークシールドでそれを防いだが、その炎を浴びた周囲の草が、ボロボロとしおれていく。

 おそらく単純な炎ではなく、生物の力を奪う類の属性を帯びているのだろう。

 死炎しえんとでも呼ぶべきか。


 それに対してアグニが火炎ブレスを吐き、ナーガも水刃を浴びせたが、まるで効いた様子が見えない。

 未知の疑似生物なんだから、それも当然か。

 さて、どうやって攻めたものか。


 俺は少し考えてから、念話で七王に指示を出す。


(とりあえずソーマは地下に潜って奴の足を取れ。その他はとりあえず首に集中攻撃を掛けろ)

(((了解)))


 アフィとシヴァを残して味方が散開すると、俺も魔剣フェアリークローを構えて臨戦態勢を整えた。

 まずは小手調べに石の槍を、骨ギガントの首めがけてお見舞いする。

 しかしそれは、半透明の体に触れるとボロボロと崩れてしまった。

 お返しとばかりに死炎が飛んできたが、再びシヴァのシールドではね返す。

 彼の守りは実に頼もしいが、これでは敵に接近もできない。


 一方で味方の攻撃も始まっていた。

 インドラの雷撃が、ガルダの風刃が、ナーガの水刃が、そしてアグニの火炎ブレスが骨ギガントに殺到する。

 しかし遠巻きに放つ魔法では効果が薄く、やはり表面で力を失っているようだ。


 敵はこちらの攻撃など物ともせず、再び進みはじめた。

 そしてフッと身をひるがえした瞬間、ぶっとい尾がこちらへ飛んできた。

 ただちにシヴァが防御を試みるも、さすがにこの負荷には耐えられず、俺もろとも吹き飛ばされた。

 俺たちは大きく後ろに飛ばされ、無様に地面を転げ回る。


 しかしその攻撃の隙を突いて、ソーマが地下から仕掛けた。

 骨ギガントの足元を支えていた地面が大きく陥没し、敵の体勢が大きく崩れる。

 その隙を逃さじと、七王が殺到した。


 インドラが牙と爪に雷をまといながら、敵の首に食らいつく。

 彼の牙がブチブチと半透明の肉を食いちぎり、引き裂いた。

 さらにガルダは高速ですれ違いながら爪で引き裂き、ナーガとアグニのブレスがその傷をえぐる。


 やがて水と炎のブレスが衝突し、ちょっとした爆発が生じた。

 それは濃い霧を発生させ、敵の姿をしばし覆い隠した。

 やがて霧が薄れて見えてきたのは、首のちぎれた骨ギガントだった。


 それが見えた瞬間、後方の味方から歓声が上がる。

 俺も一瞬、安堵したのだが、その体がまだ不気味にうごめいていることに気づいた。

 やがて本体からちぎれた首に何かがつながると、ズルズルと首が引き寄せられていく。

 そして元の位置に収まったと思ったら、何もなかったかのようにつながってしまった。


「なんだありゃあ。インチキだ……何か手はないか? アフィ」

「うーん、死霊から産みだされた魔物だから、死なないのよねえ。ちょっと考えるから、しばらく時間稼いでて」


 アフィの分析に一縷の望みを懸けて、再び戦いが始まる。

 俺はシヴァに守ってもらいながら、魔法で攻撃していた。

 それぞれの王も、てんでに攻撃を繰り返している。

 単発の攻撃では効果が薄いので、味方が傷つけた所を集中攻撃だ。


 しかし骨ギガントは、そんな攻撃をものともせず、淡々と暴れ回っていた。

 口からは死炎を吐き散らし、巨大な尻尾と4本の足を振り回して、俺たちを潰そうとする。

 俺たちの中で一番でかいアグニですら、その攻撃を受けきれず、逃げ回るしかない。



 そんなことをやっていたら、いつの間にか周りも動きだしていた。

 骨竜を少しでも牽制しようと、味方の一部が砦から出てきたのだ。

 それを見た帝国軍も、兵を繰り出してきた。


 やがて俺たちを遠巻きにしながら、あちこちで小競り合いが始まった。

 俺は味方に引き上げるよう促したのだが、彼らも決死の覚悟でなかなか退こうとしない。

 そうこうしている内に、新たな悲劇が始まった。


 暴れ回る骨ギガントの死炎が、兵士を巻き込みはじめたのだ。

 死炎が炸裂するたびに兵士がミイラに変わり、数十人の命が失われていく。

 しかしそれは王国軍のみならず、帝国軍をも巻き込んでいた。



 そんな、意味も無く散っていく命を見て、どうしようもない無力感に囚われる。

 しかしそんな中、ようやくアフィから重要な情報がもたらされた。


「ワルド、周りで死んでいく兵士から、あの骨に何かが流れ込んでるわ。首の付け根辺りに、吸い込まれてるみたい」

「何かって、なんだ? 人の精気とか、魂みたいなもんか?」

「たぶんそのようなものね。とりあえずあなたにも見せてあげるわ」


 そう言ってアフィが俺と同調すると、視界が変化した。

 たしかにもやのようなものが、死体から骨ギガントに流れ込んでいる。

 首の付け根より少し内側に、心臓みたいなものがあって、そいつがもやを吸い込んでいるようだ。

 あれが骨ギガントの力の源だとすれば、それを潰すことで奴の動きが止められるんじゃないか。

 しかしちょっとやそっとの攻撃で、あれを潰せるとは到底思えない


「なあ、アフィ。あの骨ギガントが死霊の魂を力に換えているとしたら、お前の治癒魔法って、効くんじゃないか?」

「うーん、やったことないけど、効くかもしれないわね。試しにやってみましょうか?」

「頼む。俺の魔力が必要なら使ってくれ」


 俺が左手の盾を水平にして差し出すと、その上にアフィが乗り、精神を集中する。

 俺の魔力がアフィに流れ込み、さらに彼女が両手を胸の前にかざすと、そこに光の矢が形成された。


「それじゃいくわよ。名づけて神聖矢弾セイクリッドアロー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもボチボチ投稿しています。

魔境探索は妖精と共に

魔大陸の英雄となった主人公が、新たな冒険で自身のルーツに迫ります。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ