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19.リムルの危機

 なんとか風王ガルダを解放した俺たちは、さっさと地上へ戻った。

 そしてじっちゃんに結果を報告すると、またまた大喜びしてくれた。

 それからはまたじっちゃんの淹れてくれた茶を飲みながら、くつろいだ。


 ガルダが寄ってきたので喉を撫でてやると、嬉しそうに顔を擦りつけてくるのがまたかわいい。

 アニーも一緒になって遊んでいると、ふと気になることが出てきた。


「アフィ、ガルダはもう飛べるのかな?」


 名づけで少し大きくなったガルダの翼をいじりながら、アフィに尋ねる。


「うーん、たぶん飛べるんじゃない? ガルダ、飛んでごらんなさい?」

「クエー」


 するとガルダがパサッパサッと羽ばたき、体が浮き上がった。

 そのままフワフワと漂いながら、俺たちの周囲を飛び回る。

 とても初めてとは思えない、見事な飛びっぷりだ。


「へー、一応飛べるんだな。他には何か、できないのか?」

「ボス戦で見たように、風魔法が使えるわ。幼体だからまだ弱いけどね」

「クエー」

「ふーん、試しに何かやってみてくれよ」


 俺がそう言うと、ガルダが目の前に来て、ポンッと何かを吐き出した。

 すると風が俺の胸に当たり、ちょっとだけ体が押される。


「おっ、本当に使えた。だけどまだまだ弱いから、当分は育成が必要だな」

「そうね。あ、それと風王は風の精霊だから、ワルドも風魔法が使えるようになってるはずよ」

「え、マジで? 俺もとうとう、灯火ライトだけの術師から卒業かぁ……クウッ」

「ちょっと、泣くことないじゃない。大げさね」


 思わず涙をこぼしたら、またアフィにドン引きされた。

 だって本当に嬉しいんだもん。

 灯火ライトが使えた時も感動したが、あんまり使い道はないからね。

 これで俺もいよいよ、まともな精霊術師の仲間入りだ。


 するとアニーが粋な提案をしてきた。


「それじゃあ、ワルド。明日は魔法の練習をしましょうよ。私も手伝うわ」

「それはいいな。ぜひ頼むよ。よーし、がんばるぞ~」


 これで明日は魔法の練習をすることに決まった。

 しばらく探索づくしだったから、休憩を兼ねてちょうどいいだろう。




 その後、またお祝いに酒場で飯を食おうと町へ向かったのだが、途中で異変を発見する。


「おい、これって、リムルちゃんのじゃないか?」

「猫桃が散らばってるから、間違いないわね。どうしたのかしら?」


 猫耳ちゃんことリムルがいつも猫桃を売っている場所で、カゴと猫桃が散乱していた。

 何か急用があって放り出したのでなければ、誰かにさらわれたとしか思えない。

 するとインドラがカゴの所へ行って、スンスンと臭いを嗅ぎはじめた。

 そして俺の方を振り向いて、ニャーと鳴く。


「なんだ? リムルちゃんの居所が分かるのか?」

「ニャア」


 そのままインドラはきびすを返すと、臭いをたどって駆けだした。

 俺はじっちゃんとアニーに声を掛け、インドラの後を追う。


 インドラはほとんど迷うことなく、スルスルと町の中を進んだ。

 やがてどう見ても人気のない路地へ、踏み込んでいく。

 そのまま彼を追い続けると、か細い悲鳴が聞こえてきた。


「いやぁ、やめて、ひどいことしないで……おかあさ~ん」

「ヘッヘッヘ、どんなにわめいたって、誰もこねーよ。今日はたっぷりと思い知らせてやる。俺たちに逆らわなければよかったってな」

「まったくだ。獣人のくせに、俺たちに逆らいやがって」

「おい、早く俺にもやらせろよ」


 ようやくたどり着いた廃墟の中で、この間のチンピラどもが不逞ふていを働いていた。

 リムルの服は無残に引き裂かれ、男の1人が股間を丸出しにして、のしかかろうとしていたのだ。

 他の2人はリムルの手を押さえている。


「お前ら、やめろっ! インドラ、そいつのチンコにおしおき!」

「な、またお前ら――ギャーッ!」


 指示を受けたインドラが股間丸出し男にすばやく駆け寄り、いきり立ったモノをひっかいた。

 さほど傷は深くないが、男の股間から血が噴き出すと、股間を押さえて男がのたうち回る。

 それを見た残りの男たちは、慌てて立ち上がった。

 そして腰の剣に手を伸ばそうとしたが、それを抜くことは叶わない。


「フンッ、フンッ!」


 すばやく駆け寄ったじっちゃんのパンチで、あっけなく男たちが昏倒する。

 さらに股間を押さえて転げまわる男も、蹴りをくらわせて黙らせた。

 さすがはじっちゃん。

 彼が同行できたなら、どれだけ迷宮探索が楽になっていたことか。


 何が起こったのか分からず、一時的に泣きやんだリムルに、アニーが駆け寄る。


「大丈夫? リムルちゃん。助けに来たわ」

「ふえ……ほ、本当ですか?…………ビエ~~ン」


 急に安心して気が緩んだのか、今度は盛大に泣きはじめた。

 そんなリムルをアニーが慰めるように抱き締める。


 そっちの方はアニーに任せ、俺とじっちゃんは男どもを縛り上げた。

 インドラに引っかかれた男の股間は、そいつらが持っていた治癒ポーションで治療しておいた。

 同じ男として、ちょっと同情したからな。



 リムルが落ち着くと、チンピラを叩き起こして話をした。


「リムルちゃんはこいつら、どうしたい?」

「えっ…………どうって、2度と関わりたくないです」

「ふーん……この場で殺しておくのが、一番安心だと思うけど?」

「そ、そんなっ! たしかに許せないことをしたけど、殺すまでは考えてません」


 リムルがびっくりしたように言うと、チンピラどもも命乞いを始めた。


「お、おい、冗談だろ? 殺すことはないじゃねえか」

「そ、そうだよ。ちょっと魔が差しただけなんだ。頼むよ」

「いいい、命だけはお助けをっ!」


 それぞれに真剣な顔で懇願してくるが、どうにも信用できない。

 俺は意見を求めて、じっちゃんに目をやった。


「そうだな……彼女に慰謝料を払うなら、許してもよいのではないか? ただしこの町からは出ていってもらうぞ」

「分かった、払うっ! い、いくらだ?」

「もちろんだ」

「ウヒー、ありがてえ」


 喜ぶチンピラどもの所持金を確認すると、合わせても銀貨50枚ほどしかなかった。

 しょっぼ。

 こいつらがよっぽど稼ぎが悪いのか、それとも金遣いが荒いのか。


 結局、奴らが町を出るための路銀も考慮して、銀貨30枚をリムルへの慰謝料とした。

 金を払う時に悔しそうな顔をしていたので、釘を刺しておく。


「もしも次にこの町で顔を見たら、その時は命が無いと思えよ」

「わ、分かりましたっ!」

「す、すいませんっした~」

「ウヒーッ」


 俺の後ろからじっちゃんがにらんだのもあって、奴らは一目散に逃げていった。

 おとなしくこの町を去ってくれればいいんだけどな。

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