15.雷王召喚2
アフィの提案により、アニーが新魔法”石尖杭”を創作した。
さすがは百年に1人の天才と言いたいところだが、これはこれで使い方が難しかった。
「アニーはさ、この魔法、どれぐらいの速さで出せる?」
「うーん、2呼吸……いいえ、3呼吸分くらいね」
「そっか。出す位置は途中で変えられるの?」
「さすがにそれは無理よ」
「うーん、どうやって使ったもんかな? せめて出てくる位置が、あらかじめ分かればいいんだけど」
せっかく作ったんだから、うまく利用したい。
しかし動き回る敵に当てるのは、なかなかに難しそうだ。
するとまたアフィがアドバイスをくれた。
「それなら私が教えてあげるわよ。魔法が発現する兆候を、ワルドが見えるようにすればいいのよね。もう一度ストーンピケットをお願いできる? アニー」
「分かったわ」
アニーが呪文を詠唱し始めると、地面の一部に赤っぽいモヤが生じた。
やがて詠唱の完了と共に、そこから石の杭が立ち上がる。
「本当だ。なんか赤っぽいモヤが見えた。これなら俺も作戦が立てやすいな。最初に俺が場所を指示して、そこに敵を追い込んでみよう」
「私はワルドの指示に従って、魔法を使えばいいのね」
その後、少し連携を練習してから、次の敵を探した。
やがて2匹の狂暴狼が出てきたので、また俺とシヴァが1匹ずつ相手する。
猛然と飛びかかってくる敵を、しばらくは盾と剣でいなしていた。
やがて敵の動きに慣れ、余裕が出てきたところでアニーに指示を飛ばす。
「アニー、俺の1歩前に頼む」
「了解……」
アニーの精神集中後、詠唱が始まると、敵の足元に赤いモヤが発生する。
なるべく敵を引きつけるようにしていると、やがて石の杭が立ち上がった。
「ギャヒンッ!」
さすがにど真ん中とはいかなかったが、石杭が敵の脇腹をかする。
予想外の攻撃に固まったダイアーウルフに、剣でとどめを刺した。
やがて敵は霞のように消え去り、魔石だけが残される。
シヴァが抑えていた敵も同様に仕留めると、アニーが近寄ってきた。
「どう? なんとか使えそう?」
「バッチリ。凄く助かるよ」
「よかった。もっと練習して、速く出せるようにするわね」
「ああ、頼むよ」
その後もしらみつぶしに通路を調べ、ダイアーウルフを倒していった。
そして昼食を挟んで探索を進めていたら、新たな魔物に遭遇した。
「剣牙虎ね」
「こいつはまた、物騒なのが出てきたな」
そいつは平野部でよく見られる、凶悪な魔物だった。
体格は仔牛ほどもあり、特に肩から前足に掛けてが妙にガッシリしている。
体毛は薄茶色で短く、名前の由来である巨大な牙を上顎に生やしていた。
サーベルのように反ったその牙は、大ぶりなナイフほどもある。
「ゴウワァァァァーッ!」
敵が凄まじい咆哮を上げると、一気に距離を詰めてきた。
俺とシヴァで必死にそれを足止めしようとする。
しかし今度の敵は、ダイアーウルフよりもずっと強力だった。
敵の突撃を受け止めたシヴァが、あっさり倒されたのだ。
さらに首元に伸びてきた敵の前足をシヴァが右手で受けると、そのまま腕をへし折られた。
「シヴァーーーっ!」
叫びながら斬りかかると、それを嫌ったサーベルタイガーが身を翻した。
そのまま5歩ほど距離を置いて、こちらの様子を窺っている。
すると起き上がったシヴァも、無事な左手で盾を構えて俺の隣に立った。
シヴァはすでに敵でないと思ったのだろうか。
サーベルタイガーは、俺に的を絞って攻撃をかけてきた。
俺が必死で剣を振ると、それをかわしながら前足で攻撃をかける。
それを盾で受けながら、俺も剣を振るう。
すると俺の剣が敵の肩に浅く入り、敵は身を翻した。
その後もしばらくシヴァの援護を受けながら、サーベルタイガーと攻防を繰り返した。
おかげでようやく敵の行動パターンが読めてきたので、アニーに指示を出す。
「アニー、右斜め前に2歩」
「了解」
アニーの詠唱と同時に、敵が飛びかかってきた。
それを牽制するように剣を振ると、奴は俺の右前に後退し、また飛びかかる姿勢を見せる。
しかしそこに、アニーの魔法が炸裂した。
『石尖杭』
敵の真下から伸びた杭が、腹を貫いた。
それで動きの止まった敵の首筋に、俺が剣を突きたてる。
これが致命傷となったサーベルタイガーの体が消えると、魔石だけが残される。
「ハアッ、ハアッ……ようやく……倒せたな」
「ワルド、大丈夫? ケガはない?」
アニーが心配そうに駆け寄ってくる。
「ああ、今の魔法は絶妙だったよ。助かった」
「それならよかったわ」
嬉しそうに微笑むアニーを、アフィも褒める。
「うん、今のはけっこうよかったわよ。あっ、ワルド。シヴァを送還してくれない?」
「あっ、そうだ。右腕がボッキリ折れてたけど、大丈夫なのか?」
「これくらいなら、盾の中で休ませれば大丈夫よ。頭蓋骨を砕かれない限り、何度でも復活するわ」
「そうか。ありがとうな、シヴァ。しばらく休んでくれ」
「カカカッ!」
送還を念じると、彼は盾の中へ消えていった。
頭蓋骨以外なら復活するなんて、便利なもんだな。
「さて、シヴァもいないし、今日はもう戻ろうか?」
「そうね。ちょっと早いけど、私も疲れちゃった」
「俺もクタクタだよ。あんな強い敵が出てくるなんて、厳しい迷宮だよなぁ」
「何言ってんの。これもあなたたちを鍛えるためよ。しっかりと修行しなさい」
「うへえっ、厳しいなぁ」
まだまだ先は長そうだ。
ぜんぜんPVが増えないので、投稿時間を試行錯誤してます。
以後は午後の時間帯で振っていくことになるのでご了承ください。
感想などもらえると幸いです。