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仕組まれた罠 

 疲れ果てていた。気力も体力も限界だった。

 黒い森にいる間は、森の磁気に守られていたから感じなかった疲労が、外に出て一気に押し寄せていた。足元がおぼつかない幼児のような足取りで、トボトボと二人は歩いていた。


 そんな真朱たちの方へ、誰かが馬で走り寄ってきた。

 乗っていたのは烏羽だった。かなり険しい表情でいる。怒っているのがうかがえた。この男も感情的になるのだと他人事のように思った。


「真朱さまっ、ご無事であらせられますか」

 その言葉に、真朱はこくりとうなづく。

 オリーブも生気のない顔で烏羽を見上げていた。もうどうでもいいほど無気力だ。


 そうだ、烏羽にすべて打ち明けなければならなかった。自分の中に潜んでいるサビのこと、そして闇の守り役の封印を解いてしまったこと。

 非難されるかもしれないが、きちんと状況を話せば、この男ならわかってくれるはずだ。

 そう思い、覚悟を決めて、烏羽に一歩近づいたときだった。


「まそおっ」

 シアンの声がした。

 突然、森の中の小道から、シアンが紫黒と他の衛士たちを連れて現れた。

 真朱は凍り付いていた。


 なぜ、こんなところに王がいるのだ。一人の小娘がいなくなったくらいで、なぜ王が王宮から出て、探しにくるのだ。それが次期王妃であろうが、王は王宮にいるべきだろう。

 そんな戸惑いがあり、真朱の動きが止まっていた。シアンは馬から降り、真朱に駆け寄ってきた。


 真朱がそれに気づいた時は、もうシアンは目の前にいた。

「なりませぬ、シアン様。わたくしに近寄らないでください」

 真朱は後ずさりして、逃げようとした。しかし、石に足をとられ、バランスを崩した。後ろへそのまま倒れそうになる真朱を、王が抱き留めた。

 王の長い髪が真朱の顔にふんわりとかかる。シアンが好んで使っている香の匂いがした。


 その次の瞬間、何かが弾けた。周辺の空気が揺れる。

 真朱の中の何かが、ぱちんと弾け、それは目の前のシアンを直撃していた。すべてがまるでスローモーションの音のない世界に見えた。


 シアンはなにが起ったのかわからない表情のまま、その場に倒れた。真朱はへなへなとその場に座り込む。見えない衝撃波のようなサビが襲ったのだった。

「シアン様っ」

 真朱が金切り声をあげた。

 烏羽がすぐさま王にシールドを張っていた。見ると王のすぐ後ろにいた衛士たちがバタバタと倒れていった。馬までが横転していた。

 

「サビだっ。皆の者、シールドを張れ。さもなくば退くのだ。できるだけ遠くへ退けっ」

 烏羽が叫んでいた。烏羽はサビを放つ真朱にもシールドを張った。これ以上、被害を大きくしないために。


「シアンッ」

 駆け寄った紫黒が、青ざめた顔で王を抱き起こした。紫黒は独自にシールドを張っていた。

 

「烏羽さんっ、息をしてねぇ。シアンが死んじまうっ」

 紫黒の悲痛な叫びに、皆が息を飲んでいた。


 王が息をしていない。

 

 息をしていない。

 


 皆の意識があたりにこだましていた。

 烏羽も王に駆け寄った。その胸に触れる。そして、ズンと響くような刺激を与えた。

 

 一、二秒して王が息を吹き返した。

 スウという寝息のような深い呼吸をした。その胸が酸素を求めて膨らむ。

「大丈夫、すぐに黒い森へ連れて行くように。王はサビに刺さり、ショック状態になったんだ」

 紫黒が安心した様子で、ぎゅっとシアンを抱きしめた。


 烏羽は真朱に向き直る。

「真朱さまもシールドの強化をお願いいたします。そして、そのまま黒い森へ入っていただきたいのですが」

 そう、真朱の中に眠るサビが発病した。それもシアンの間近で、直撃していた。

 このまま真朱が黒い森へ入れば、サビの進行は遅くなる。その周囲への感染も抑えられた。


 紫黒がシアンを馬の背に乗せ、一緒にまたがって一足先に黒い森へ入って行った。

 真朱とオリーブは烏羽に連れられて歩く。間近にいたオリーブもサビにやられていた。しかし、サビの矢の大半はシアンが受け止めていた。


 死なないでほしい。


 真朱はそう願った。

 耳の奥で再び闇の守り役の笑い声が響いていた。


《うまくいった。これほど思い通りに物事が進むとは思ってもみなかったわい。これでこの国はわしのものじゃ。蒼き国はわしが牛耳る》


 闇の守り役だった。

 真朱はこの時わかった。闇の守り役は、シアンたちを影で真朱のところへ導き、シアンが真朱に触れた時にサビが発病するように細工をしていたのだ。


 真朱たちが二十一世紀の王妃を殺しに行くことを望まなくても別に構わなかった。この守り役の目的は蒼い国を乗っ取ること。それには今世王を殺すことだった。

 きっと前世王からの恨みが膨れ上がっていたのだろう。

 今、真朱の中のサビの部分が闇の守り役を強く感じていた。あの闇の者がほくそ笑んでいるのがわかった。

 サビとはそういう恨み、妬み、執着などの重い念の集合体だ。それが発病した真朱、徐々にその病に心までが侵され、人の心を持たなくなってしまうのかと恐怖を感じた。


ちょっとシアンがかわいそうかな。

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