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波の音と共に――

 ザ…ザザザザ……

耳元で波のような音がする。

此処は何処だ?

直前までいたのは、山だったはずなのだが…一体何が起きているというのだろう。

『私』は朦朧とした意識の中、まずはぼんやりとそんなことを思った。


「しかし生存者が居たのは奇跡としか言いようが無い」


 真っ暗だ、何も見えない。

けれど誰かの声が聞こえてきた。

…一体だれだろう?


「恐らくは先日の大雨で地盤が緩んでいたのでしょう。登山中の土砂崩れとは…」


「けれど先生、彼以外助からなかったのは……」


「いや、彼にはまだ言わないでおこう。あの恐怖の後だ。体だけでなく心にも傷を負っていてもおかしくは無い」


「ええ、わかってます。私が言いたかったのはそれではなくて…」


「……彼が目覚めるかどうかは、まさに神のみぞ知る、だよ。医者に出来ることは少しでも生を繋ぐことだけだ…。頭を強打していることも考えれば、どんな後遺症が残るかもわからないが」


「生き残れたことが奇跡、ですからね」


「だからこそ我々が稼ぐことが出来るのだけどね。無事治るよう、全力を尽くさなければ…」


 何のことだろう。体が動かない。

動かそうとすると激痛が走るのだ。傷とやらを負っている所為なのだろうか。

だが、何とか視界を確保することは出来た。

どうやら目を閉じていたために視界を得ることが出来なかっただけらしい。

…黒の次は白か。

声を真似て出そうとしてみたが、こちらは失敗だった。

ごほり、と奇妙な音が出てしまった。何かが喉に引っかかる。

だが、その音に先ほどから会話をしている誰かたちが私の存在に気づいたようだ。

少し苦しかったが、何の効果もあげないというよりははるかにましだ。

全く、体が動かないとはなんと不便なのだろう。


「…先生!気付いたようです!」


目の前は真っ白な色を映していた。

何処を見ても白一色だ。目を閉じればまた黒い世界を見ることが出来るかもしれないが、面倒だ。

それにしても声は聞こえてくるのだが姿は全く見えない。

…いや、白い壁にうっすらと黒いものがかかっている。あれは影だ。

二人分の影が、この部屋に私一人ではなかったことを知らしめる。

思わず安堵の溜息が出た。

声の時とは違い此方は素直に出てくれる。

だが、またも喉に違和感を感じる。まるで何かが引っかかっているようだ。

まあいい、何にしても得体の知れない者とは言え、誰も居ないよりは居てくれた方がいい。

そう、あの時もそう思ったのだ。

崩れてくる土砂に混じり、幸いにも一緒に流れてきてくれた木が盾になってくれたときも。


「大丈夫かね?ああ、いや喋らなくてもいい。悪かったね」


 安心させるようにゆっくりと話してくれる。

先ほどの奇妙な音で私が喋ることが出来ないということを察してくれたのだろう。

喉の違和感はなくなり、正常に呼吸が出来る。

そういえば一緒に歩いていたメンバーはどうなったのだろう。


「君は登山中、土砂崩れに巻き込まれてそのまま生き埋めになっていたんだ。大丈夫、他のメンバーも一緒にこの病院にいるから」


 声の主が覗き込んできた。

白い肌に白色が混ざった黒い頭。目まで黒い。メンバーの顔ではない、見知らぬ男だ。

…ふと、この男の言っている言葉に違和感を感じたが、何に対してまでかは解らなかった。

メンバーもこの場所にいるというのならば、まあ無事なのだろう。


「まだ少し頭が混乱しているだろうけれど、じきによくなる。もう少し寝ていなさい?」


 なるほど違和感は混乱しているからか。

だが…どうしてこの男がそんなことを知っているのだろう?


「そういえば先ほどから、面会の方が…」


「いいや、まだ彼は目が覚めたばかりなんだ。もう少し時間を置いてからにしてもらおう。…大丈夫、君はまたすぐにでも何時もの生活にもどれるさ」


 それだけ言うと、男達は去っていった。

白い部屋が再び白色のみに染め直された。目を動かすのにも限度がある。そして今いる場所は制限無く白色が続いていた。

一切の音もなくなる。

キーン、と耳元で耳障りな音がする。

結局何もわからず終いだ。

浮かんでくる疑問も混乱の所為なのだろうか。

何時も…私はどんな生活を送っていた?

あの男達は何なんだ?

此処は何処なんだ?

私は何故ここにいるんだ?

そもそも…私は誰だ?

不安感を払拭するためにふぅー、と息を吐いた。

また、喉に違和感があった。さすることも出来ないのはなんと不便なのだろう。

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