第八話:炸裂の足技!玉砕の宝玉!
第八話
男は女を助ける為に身を呈して護ろうとした……が、女は男に護ってもらうほどやわではなかったし、むしろ男は女の邪魔になってしまった……かなり悲しい結果である。
結論から言うと僕は桜ちゃんの蹴りを腹部にもらい、さらに背後から倒れてくる棚の下敷きになった。もちろん、棚を蹴りそこなった桜ちゃんも僕の下にいる。
「いたたた……」
「………」
ほら、よく三途の川の向こうで死んだおばあちゃんが手を振っていたとか嘘っぽい話があるよね。あれ嘘だと思うんだ…僕の場合は実に嬉しそうな鬼さんが腕組んで待っていたんだもん。その鬼の後ろには『数秒地獄体験コース』と書かれた看板が置かれていた。
「あの、先輩……大丈夫っすか」
「………はっ」
もうちょっとで鬼に捕まるところだった。
目を凝らして見てみるとすぐ下に桜ちゃんがいた。ぱっと見てだけど怪我をしていないようだ。
「桜ちゃん大丈夫?」
「それはこっちのセリフっすよ。棚が倒れかかってるっすよ」
「僕はそれなりに大丈夫」
ただし、背中に倒れかかってきている棚を押し返すほど力はない。もとからそんなに運動得意な方じゃないんですよ、ええ。得意かって聞かれたら中の上か、中の中って答えておきます。
このままずっと支えておくなんて無理だし、いっそのこと横に倒れてみようかな。
「桜ちゃん?」
「は、はいっ?」
「なんだか目が潤んで顔が赤いようだけどどこか痛いところでもあるの?」
「い、いやっ、別にどこも問題ないっす。あ、でも……その」
「やっぱりどこか悪いの?」
「強いて言うならハートに問題あるっす」
ハート…心臓…精神……そりゃそうか。動けないしいつ棚ごと僕が倒れてくるのか心配なんだろうな。
「そっか、それなら急いで何とかしないといけないね」
桜ちゃんは強いイメージがあるけどやっぱりこの状況は精神的にきついんだろうな。何せかなり狭いスペースに押し込められるような形で倒れてるんだから。
一応、先輩という立場もある為にあんまり馬鹿なところは見せられない。
「あのさ、桜ちゃん」
「何っすか?」
「思いっきり僕をそのままの体勢で突き飛ばしてくれないかな?」
「わかりました」
僕の鎖骨辺りに桜ちゃんの手が伸ばされる。彼女が前傾姿勢になることで何気に谷間が見えたりする。しかし今はそんな事で喜んでいる場合ではないのだ。桜ちゃんの左足は……股を支えた状態になった。
「いっきますよぉっ」
想像できないような力が解放されようとしていた。
「ちょ、ちょっと待ってっ」
「どうしたんっすか?」
「えーとね、詳しくは言えないけど桜ちゃんが足をくっつけているところは……その、色々と問題がある所なんだ。今この状況で桜ちゃんに蹴りあげられたら機能不全に陥るかもしれない」
「…はぁ?」
よくわかっていないようである。口ぱくで三文字伝えようとしたんだけど伝わっていないようだ。
機能不全に陥ったら明日から桜弘毅姫とかそんな名前にしないと駄目かもしれない……そうなったら真奈美さんと毎日お風呂に入ることになるだろう。
「よくわからないけどやるっす。先輩を助ける為なら何でもするっす」
きっかり三秒後、僕はブッ飛ばされて旧体育館倉庫の扉を通過して体育館に古ぼけた荷物と共に倒れ込んだ。
「………はぅあ…」
蹴られる瞬間、脳内にサッカー選手が球の代わりに玉を蹴った映像が流されて火花が散ったかと思った。これぞまさしく玉砕。
「くぅおおお…」
「あ、あのー…もしかして先輩…のその…」
体育館の冷たい床で悶絶する僕を見て桜ちゃんは口元に手を当てているようだ。どうやら、今更気付いたようで顔を真っ赤に染めている。可愛いなぁ……なんて思っている余裕は全くない。
「ふぅははは~…桜弘毅、俺達の勝ちだな」
僕を見下ろしているのはクラスメートたちだった。そこらに転がっていた白旗を拾って持ち上げる。
「さぁ、約束通り例の物はもらいうけるぞ」
すぐ横に座り込んで遠慮なく胸ポケットの中に手を滑り込ませようとする……が、男子生徒は宙を舞って壁にぶつかり動かなくなった。
「お、お前らがこれを仕組んだのかっ」
ああ、金色のポニーテールが逆立っているように見える。他の男子生徒たちは逃げる準備をしており、既に逃げ始めている。
「待ちやがれ―っ」
桜ちゃんはそれを追いかけていって誰もいなくなった。ちょっと寂しくなったのでボケてみることにする。
「……いやんっ、お股が寂しくなっちゃったぁ。大事な大事な宝玉が二つも無くなっちゃってどうしよう…」
宝箱の中をあさってみる。
「…うん、まだ入ってるな。よし、僕は僕のままだ。よかったよかった」
痛さもある程度引いたので立ち上がる。腹部にあざ、背中に傷とかどこの格闘家だろう……。トイレで顔を見てみたら何気に顔の傷もひどかったりする。多分、倒れた時打ったに違いない。
やれやれ今日は本当に大変な一日だったなと僕は家に帰ったわけだ。しかし、何気にそれからも大変だったりする。
「ただいまー」
「お帰りなさい、お兄ちゃ……」
真奈美さんは口に手を当て、慌てて駆け寄ってきた。
「ど、どうしたのその傷っ」
「この傷はですね…その…」
あまりにもバカげた話なので説明したくなかった。よって、とぼけるしかない。
「転んだんだ…うっ」
真奈美さんはためらいなく僕の腹部を触ってくる。
「嘘つかないで…お兄ちゃん、ちょっとお腹見せて」
有無を言わさず上半身裸にさせられる。当然、僕のお中には人の足形が綺麗に出来ていたりする。
「………もう一度聞くけどその傷はどうしたの?」
凄く怖い目だった。声音も怒りの色を含んでいる。黙っていたら八つ裂きにされるんじゃないかと考えてしまうぐらい怖かった。
「あー…えっと」
「やっぱり私はお兄ちゃんの妹って思ってないんだね」
「い、いやそうじゃないんです。あまりにも馬鹿なことで怪我したもんで……その、実は……」
途中をある程度飛ばしながら説明をする。包帯まかれたり、薬品塗られたりといったもので、最初は不安そうにしていた真奈美さんも説明終盤になるとほっとしているようだった。
「……と言う事なんです」
「そっか、それならよかった」
「すみません変に心配させちゃったみたいで」
「ううん、ごめんね。卑屈になっちゃうようなこと言っちゃって……たださ、もう二度と家族との絆を失いたくないかな―って…」
「二度と?」
「あ、ごめん。何でもない。要するに私はお兄ちゃんが困ったら絶対に助けるから」
助ける?助けるねぇ…その言葉、口で言うのは簡単だけど実際に約束守ろうとするのならなかなかどうしてうまくいかないものなんだよ、お譲ちゃん……なんてセリフを一度でいいから言ってみたい。
ともかく、黙っておいてもし真奈美さんが学校に乗り込んできたらそれはそれで嫌である。きっと、関係各位の方々を襲って詳しい事情を吐かせ、最終的に桜ちゃんに襲いかかっていた事だろう。




