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第66話

 アンジュがハルジオンさんの事が気になる存在だと思った矢先のハルジオンさんのまさかのカミングアウト。

 い、いやでもたまたま好きになった人が男の人だっただけかもしれないし。まだアンジュにも望みがあるよね。だって攻略対象者だし!


 ・・・でもさ。よくよく考えたらさ、プレアデスと妙に距離感が近いのはもしや、ハルジオンさんはプレアデスをロックオンしてるのではないか・・・って結論が導き出されてしまったんだけど。

 私はソロ〜っと二人を眺めた。正直、極上レベルの二人のカップリングは大アリだけども、やはり片割れが自分の想い人ってのは妄想しづらいなぁ。

 

「ジゼル、そろそろお(いとま)しましょうか?」

「あ、そ、そうね。ハルジオンさんはどうします?」

「私はもう少し仕事の内容を聞いてから帰ろうかと思っています」

「そうですか。では、また礼拝でお会いしましょうね」

「はい、また」

 

 アンジュ。アンジュはこの状況どう思っているのかしら。日曜礼拝についての軽い口約束みたいなものを交している二人を見て、こんなにお似合いな二人なのになぁと改めてそう思った。


「あの」


 今度はハルジオンさんから私に声をかけてきた。


「はい、なんでしょうか?」

「もしかして殿下とジゼル様はお付き合いなさってるんですか?」

「えっ!!いや、おつきあいは、その、してないです」

「そうですか!!仲が良かったのでてっきりお二人は恋人同士だと思っておりました」 

「いや、その」

「私もまた、新たな職場で心機一転頑張りたいと思います!」

「あ、はぁ・・・」


 あれ?儚げな印象どこいった?イグスブルグ家の次男の事はもうフッきれたんスか?俄然やる気満々のハルジオンさんの活き活きとした様子を見て私は、プレアデスとの関係を説明するタイミングを逃してしまった。ただ、元気になって良かったね・・・とだけ思った。当のアンジュはというと、ハルジオンさんが元気になった事を心から喜んでいる様だった。


「じゃぁ、アンジュ帰りましょ。プレアデス、今日はありがとうご馳走様」

「おう、また明日な!」

「お引止めしてすみませんでした、お気をつけてお帰りください」

「プレアデス様、ハルジオンさん、それでは失礼致します」


 二人に別れの挨拶をして私とアンジュはアンジュの家の馬車に乗り込んだ。


「ハルジオンさん、元気になったみたいね」

「はい!良かったです。ジゼルとプレアデス様のおかげですね!」

「私なんにもしてないけど?」

「いいえ!ジゼルが居なかったらプレアデス様はいらっしゃらなかったですし、一生懸命ハルジオンさんのお話を聞いてくれたじゃないですか」

「それは・・・」


 根掘り葉掘り話を聞きまくったのはアンジュの為であって、本当に私はハルジオンさんに対しては何もしていないのに。アンジュは本当に心から天使なのね。アンジュから見ればすべての人が“良い人”“素晴らしい人”なんだろう。だからこそ私は下手なお相手をアンジュのその澄んだ瞳に映したくない汚したくないと思ってアンジュの交際相手をふるいにかけてきた。アンジュの出自を知って見下げて近付いてくる下品な輩も何人も居たが、決してアンジュの側には近付かせはしなかった。アドアンキャラならば安心だと思って、学園に入ったら頑張ってサポートしなくちゃと思っていたのに、当のアンジュは殿方に見向きもしないとかさ。ちょっと過保護すぎたかしら。でもハルジオンさんなら・・・。


「私、ハルジオンさんが困っている様子だったから気になっていただけでした」

「へぁ?」

「やっぱり異性として意識してた訳ではなかったです」


 えー!?この()、何言っちゃってんのかしら?遅咲きの初恋じゃなかったの?今までアドアンキャラを眺めてきてなんとも思わなかったってのも凄いけど、この娘の恋心は本当にどこにあるの!?国家機密のとある場所に厳重に保管されている、アルセーヌ・ルパンでも開けられないような金庫にでもしまわれてるんじゃない?


「私はやはり、ジゼルの傍に居たいです。それが私の幸せです」


 そう言って頬をピンクに染めて可憐に笑うアンジュの顔に嘘はなかった。うぅ。この顔を私だけが知ってるのは勿体ないなぁ。

 もう少し、私達が大人になれば何か変わるだろうか。恋は焦ってするものではないもんね。



「って事が昨日あってさ。もう家に着くなりロダンの“考える人”よりも考えたけどもうどうすりゃいいのか・・・」

「いや、焦ってするもんじゃないけどアンジュはそれが仕事というかなんというか・・・。アンジュの学園生活は恋愛ありきでしょ?」

「・・・だよね?うぁー!何でアンジュは恋しないのかしらね」


 翌日の放課後、私は部活が休みだというアマルシスと裏庭の薔薇の広場にて昨日の出来事について話し合っていた。


「今までの話から推測するに、アンジュのフラグはジゼルに立ってるんじゃない?」

「まさか!」

「何か心当たりは無いの?」

「心当たり・・・」


 アマルシスの問いに、そんなのある訳がないと言い掛けた時に唐突に思い出してしまったのである。


「私、アルド様の初恋イベント奪っちゃった。当事者以外には通常ルート通りの印象だけど」

「それって苛められていたアンジュをアルド様が助けるってやつ?・・・それだ!その時にフラグが立った可能性大よ!その時からアンジュが“ジゼルルート”を進んでいるとしたら他の殿方になびかないのも納得できる・・・」

「ちょ、ちょっと待ってよ!え?アンジュが本来通り、アドアン異性キャラに恋をしないのは私のせいって事?」

「断言は出来ないけど、おそらくは・・・」

「どっ、どっ、どうしたらいい?ねぇ、どうしたらいい!?」

「ち、ちょっ!落ち着いて!!シゼル~!」


 私は動揺してアマルシスの肩を掴んでガクガク揺すった。アマルシスは、ずれたメガネをクイッと元に戻して姿勢を正した。


「ジゼル、あのね・・・」

「ジゼルちゃーん!」


 アマルシスが何かを言いかけたのと時を同じくして私は背後から誰かに抱きつかれた。


「ひ、ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!だ、誰?誰?」

「え?か、カミーユ!!・・・様!」

「うん?あれ?君は?」

「え?カミーユ様?はー、ビックリしたぁ」


 薔薇園とカミーユ様。この組み合わせは鉄板なのか。カミーユ様を見て興奮が隠せていないアマルシス。プチカオスな状況になりつつあったが、なんとか冷静に持ち直した。


「カミーユ様、こちらは私の親友のアマルシスです」

「こ、こ、こんにちは!あ、あ、あ、アマルシス・レクターでしゅ!」

「プッ!アハハハハ!可愛らしいお嬢さんだね」

「ひぇっ!!」


 カミーユ様を前に、噛みまくりなアマルシス。カミーユ様じゃないけど、本当に可愛らしい。


「で、この状況は何なんでしょう?」


 私は尚もバックハグされたままの状況説明を促した。私は私でプレアデスルートに突入したせいか以前の様なカミーユ様に対してのクラクラとした魅了されたみたいな感覚は起きなかった。イケメン耐性が出来たって事かしら。それはそれでちょっと寂しい。


「んー、ジゼルちゃん成分補充~」

「いや、栄養分じゃないんですから」

「栄養分より効果あるよ。よし!これで頑張れる!」

「これから部活ですか?」

「うん。夏の大会まで後少しだからね。よかったらアマルシスちゃんも応援に来てね!カワイイ子沢山居た方がやる気が出るから」

「ひゃい!私でよければ全身全霊をかけて応援します!」

「ははは!頼もしいね。期待してる。じゃぁ、またね!」

「あ、頑張ってください!」

「はい、また・・・(ポーッ)」


 嵐の様に現れて、そよ風の様に爽やかに去っていったカミーユ様。 頬を染めてカミーユ様が去っていく方向を眺めているアマルシス。

 私は先ほど何を言いかけたのかとアマルシスに話しかけたが、無反応なままボーッとしているのでアマルシスが正気に返るまでの数分間、色鮮やかに咲き乱れている薔薇を眺めて過ごしたのであった。なんか私、昨日から“花を愛でる少女”って称号が貰えそうなほど花ばかり見てるような気がするなぁ。

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました(^^)

最近寒暖差が激しいので体調にお気をつけくださいね。

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