第65話
プレアデスの屋敷の見事な中庭を堪能したので、私達はプレアデスとハルジオンさんの居るガーデンテーブルに向かった。
私達が近付くと、そこはやはり二人ともこなれた殿方なのでプレアデスは私の、ハルジオンさんはアンジュの座る椅子を引いてエスコートをしてくれた。もう、身体に染み付いているんだろうな。うはぁ。ここはイケメン喫茶ですかな?・・・行った事ないけど。こんな感じでいたれりつくせり感が味わえるのよね?
「ねぇ、二人で何を話していたの?」
私はプレアデスの屋敷のメイドさんに注いでもらった紅茶にミルクを入れながら二人に尋ねた。
「あぁ、次の職に就くアテがないならウチで働かないか誘ってたんだ」
「そうなんです、今日初めてお会いしたばかりだというのにそこまで気を回して頂いて・・・。前職が忙しい職場だったので少しゆっくりしようかなと思っていたんですけどね」
「へぇぇぇ。ハルジオンさんの事凄い気に入ったのね」
「まぁな。話してみて信頼出来そうな奴だって感じたからな」
「恐縮です」
今日のプレアデスは凄く良い仕事をしてる。ハルジオンさんも前向きに検討しているみたいで何よりだわ。
「ねぇ、アンジュ。ハルジオンさんがここで働くなら安心よね」
「はい。安心しました」
これにはアンジュもホッとした様で、胸のつかえが取れたみたいな表情をしていた。良かった。アンジュの心の中に悩み事があるのは初対面で気が合う相手に出会えるって物凄く良い巡り合いよね。プレアデスもハルジオンさんも良い関係を・・・って。
んんん!?あれ?なんだか二人の距離が近くない?私の目に宿っているBLフィルターのせい??
ハルジオンさんがプレアデスの隣で、肩が触れそうな距離で寄り添っている様に見えるんですけどー?う、うぉぉぉぉ!?ヤバイヤバイヤバイ!一度そういう目で見てしまったら最早BLにしか見えないんですけどーーー!!
「あ、ハルジオンさんの前職について伺っても宜しいかしら?」
アンジュが聞けなかった事、私が率先して聞いていかなくちゃ。プレアデスに頼ってばかりじゃサポキャラの名が廃るわ!私だってアンジュの為に頑張るわよー!
「えぇ。私は1ヶ月前までイグスブルグ家の屋敷に教育係として勤めていました」
イグスブルグ家・・・。えぇと確かアンジュのお義父様・・・つまり私の伯父様の納める領地で、代々城の騎士を務める一家だったわよね。確かその一家は、父親が現役で騎士団長を勤めており、その息子達も父譲りの剣術の腕前で騎士団所属。そういや以前我が家にもイグスブルグ家からお見合いの話が来た事があったわ。お兄様が片っ端から“ジゼルにはまだ早い”と却下してたけど。
息子達は上から22歳、20歳、17歳の3人兄弟で、最近次男の結婚が決まったとかって話をお母様から聞いたような。その時に3人とも偉丈夫で優れた方々だ言っていたが、ハルジオンさんの教育の賜物であるならば納得出来る話である。
「まぁ、そうでしたか!騎士様3人の教育係をしていたなんて、とても尊敬します」
うんうん。アンジュの言う通りね。皆立派なエリート騎士様になっているなんて素晴らしい実績だわ。
「いや、私はそんな大層なやつではありません。・・・結局私は屋敷から逃げ出してしまったのですから」
「えぇっ!そ、それは訳を聞いても・・・?」
「・・・そうですね。こうしてあなた達に出会えたのも神の思し召しでしょう。あなた達にならお話してもいいでしょう」
ハルジオンさんは一瞬曇った表情をしたが、すぐに元の穏やかな表情に戻った。ぐいぐい聞いて申し訳ないけど、きっとそれが教会に通う理由だと思ったんだもの。
ハルジオンさんは少し俯きがちにポツリポツリ語りだした。
「私の家は祖父の代からイグスブルグ家に仕えており、私の家もイグスブルグ家の敷地内にあります。私が10歳の時に長男のルシオ様が産まれてから、次男のルクス様、三男のルアン様まで3兄弟とも赤ちゃんの頃からお世話をしておりました」
へぇ~。えっっ!って事はハルジオンさん32歳って事!?全然見えない!若い!勝手にお兄様と同い年くらいかと思っていたわ。まさか私達の倍の年齢だったとは・・・。さすが、メビウスループ(※アドアン開発会社の名前)ね。続編ではイアンさんといい、ハルジオンさんといい、訳アリ年上キャラをブッこんで来るとは恐れ入ったわ。
「なかでも次男のルクス様は小さい頃からずっと私のことを慕ってくれていました」
あぁ、最近結婚が決まったていう次男ね!私達は誰も口を挟む事無く、黙ってハルジオンさんの話を聞いていた。
「ところが、その、兄として慕っていてくれたとばかり思っていたのですが・・・その・・・」
ハルジオンさんが急に言いよどんだ。兄としてではなかったら・・・?もしや・・・?
「も、もしかしてルクスさんのハルジオンさんに対する気持ちは、異性に対する愛情と同じだったんじゃないですか!?」
「おっ、おい、お前・・・」
鼻息を荒くして勢い余って立ち上がった私をプレアデスが椅子に座るようにと手の平を下に数回押し付ける様なジェスチャーで促した。あ、いけない。私ったら興奮してしまったわ。
「いえ・・・。お恥ずかしながらその通りです。人気の無い場所でルクス様は私の事を好きだと仰いました」
皆様、ここから暫しジゼルの脳内状況をお見守りください。
『きぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!来たっ!リアルBL!!ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
BL好きのジゼルが脳内で狂喜乱舞している。
『いやいや。ハルジオンさんは真面目に話してるんだから、絶対にこの感情は顔に出しちゃダメよ!』
かろうじての理性的ジゼルがBL好きのジゼルを窘める。せめぎあう理性と本能。
私は必死で脳内で理性的ジゼルと一緒にBL好きのジゼルを封印しようと目を閉じた。
『アカン、あまりの感動に涙が出そうや・・・。リアルBLて!』
本能が抑えきれずにBL好きジゼルからエセ関西弁まで出てしまったその時に、プレアデスの声で我に返った。
「ジゼル・・・?どうした。気分でも悪いのか?」
「す、すみません。こんな話、気持ち悪いですよね・・・」
「ちっ!違うんです!全っ然気持ち悪くなんてないです!!むしろ・・・はっ!!」
「ジゼル・・・?」
私ってば必死に何を言おうとしているの!?ここは我慢よ!狂喜乱舞は帰ってから!今夜はボニーとユミルとBL座談会よ!感涙を堪えて震えている私の様子に勘違いしたらしく皆が心配そうにしている。
「いえ、取り乱してごめんなさい。どうぞ、話を続けてください」
「でも・・・」
「大丈夫ですので!!」
「ひっ!は、はい。それでは続きを・・・」
後からプレアデスに聞いた話ではこの時の私の目は据わっていて触るもの皆傷付けそうだったと・・・。
「最初は気の迷いだと諭していたのですが、彼が私の気を引く為にある令嬢とのお見合いを受けたのです。勿論お見合い自体はとても喜ばしい事ですのでお見合い当日、私はルクス様を黙ってお見送りしました」
うんうん、で?で?
「ですが、私の中にモヤモヤとした黒い感情がありまして・・・。私の立場でこんな事を思うのもおこがましいのですが、私は彼をお見合いに行かせたくないと思ってしまいました」
ひゅっ・・・。BL両想い成立の瞬間に一瞬息が止まるかと思ったわ。
「私は彼を追って、お見合い場所の近くまで行きました。彼の後姿を見つけて思わず抱きついてしまいました」
だっ・・・いたーん!で、でもルクス様は結婚する事になったんだよね。じゃぁ、結果的に・・・。
「私は考えが浅はかだったのです。お見合いを破談にするには既に遅すぎたのです。雰囲気を察して私はなんとか、“幼き頃より見守ってきた彼がお見合いすると聞いて寂しくなって思わずここに来てしまったのだ”と双方に説明・謝罪をしました」
「えっ・・・せっかく両想いになったのに・・・」
「えぇ。私にはそれだけで充分でした。旦那様と奥様、相手方には納得して頂き無礼を許して頂けましたが私は翌日にお暇を申し出ました。ルクス様には何も告げずに私は屋敷を後にして今に至る訳です」
一同がシーンと静まり返っている。プレアデスは同性愛というものを初めて聞いたのか反応に困った様な顔をしている。アンジュは・・・。はっ!!そうよ!BL展開に喜んでる場合じゃないじゃない!せっかくアンジュがハルジオンさんにほのかな恋心を感じ始めているというのに!
私はどうするべきか。どう動くべきか。アンジュを幸せにする為に私が出来る事・・・。私一人じゃ血迷った事しか出来ないのは分かってるから、とにかく帰ったらボニーとユミルと作戦会議をしようと思う。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました(^^)
2/4誤字を修正しました!すみませんでした!
2/25叔父→伯父に修正しました。
アルドの父・シードゥス国王(長男)、アンジュの義父・サーチブルク公爵(次男)、ジゼルの父・ファレイユ公爵(末っ子三男)です。すみませんでした!




