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第63話

 教会の鐘が鳴ったので、私達は教会の中に入りチャーチチェアに腰を掛けた。


 日曜礼拝は聖書の朗読から始まり、賛美歌を歌ったり説教を受けたりを約一時間ほど行う。教会の聖なる雰囲気に心が洗われる様だ。


 チラッと隣のプレアデスに目をやると、プレアデスはなんとも眠たそうな顔をしていた。あーぁ。やっぱり元ヤン(私の中では確定事項)にはこういう神聖な場所は合わなかったか。前の席に座ったアンジュとハルジオンさんを見ると物凄く真剣な顔をして説教を聞いていた。

 ハルジオンさんは時折、軽く溜息を吐く様な仕草をして目を閉じては祈っていた。何をそんなに懺悔する事があるのか。私には思い至る事が出来なかった。


 私がジーッとハルジオンさんを観察していると、ふいにプレアデスが私の手を握ってきた。


「(小声)ちょっと!」


 驚いてプレアデスを見やると、プレアデスはツーンと不貞腐(ふてくさ)れた様にそっぽを向いた。手はしっかりと繋いだままで、しかもプレアデスの膝に乗せられている。・・・あれ。もしかして、これってヤキモチ?私がハルジオンさんばかり見てるから?思いがけない所でプレアデスの気持ちが知れて心が弾んだ。

 そういや私はプレアデスにアンジュからハルジオンさんを元気づける様にと相談されている事を話していなかったな。礼拝が終わったらすぐに理由を話そう。


 しかし・・・。つないだ手が熱い。プレアデスの手が温かいからかもしれないけど、それだけじゃない。私の意識がそこに集中してしまっているから余計に、だ。

 うぉぉぉ。教会に来てまで何してんのー?でも、振り払えない。それどころか、もっと繋いでいたいとすら思った。・・・元カレの手は拒否ってしまったのに。私は元カレを傷付けてしまった、あまりにもこども過ぎたあの頃の私こそ懺悔が必要だと思った。

 

 あの時は勇気を出せなくてごめんなさい。もう、貴方には届かないけど。ちゃんと本気で好きでした。


 せめて、ここで祈る事によって元カレとの恋愛に心から区切りをつけられれば今度こそ手放しで堂々とプレアデスの心に向き合える、対等になれる。勝手だけどそんな気がした。

 そしたら、いつかはこんな素敵な教会でウェディングドレスを着て、白いタキシードを着たプレアデスと・・・っていう日が来るかもしれない。


 わ、わぁぁぁ!想像しただけでドキドキしてきちゃった。プレアデスは白いタキシード姿も似合うんだろうな。


「おい、ジゼル。礼拝終わったぞ?」

「えっ?あっ!やだ、本当だ」


 辺りを見回すと既に帰っている人も居て、席がまばらになっていた。


「フッ!お前また何か妄想してたんじゃねぇか?例えば俺様との結婚式とか」

「ファーーー!?やだ、そ、そんな訳無いじゃない!」


 ぎゃぁ!この人エスパーかなんかなの?ズバリ、言い当てられたのが恥ずかしくて咄嗟に否定してしまった。っていうか、プレアデスは私の妄想癖を容認してくれているのね・・・。


「なんだ、違うのか。俺は想像してたけどな。お前といつかは・・・って。やべぇな。恥ずい」


 プレアデスは顔を真っ赤にして繋いでいない方の手を口に当てた。


キュン・・・


 え・・・、や、やだ。同じ事考えてたって事?わー!物凄く嬉しいんだけど!っていうか照れてるプレアデスがくっそ可愛いいんですけど!!私はなんだか照れくさくなってしまい、繋いだ手にギュッと力を込めた。


「やべぇ。今すぐ抱きしめてぇ」

「も、もう!プレアデスったら・・・」

「あ、あの〜、とても良い雰囲気のところお邪魔してすみませんが・・・」

「えっ、あっ!アンジュ!うわ、ご、ごめんなさい」


 すっかり周りが見えなくなっていたバカップルな私達の前にアンジュとハルジオンさんが居心地悪そうに立っていた。


「ふふ、お二人はとても仲が宜しいのですね」


 そう言ってハルジオンさんは優しく微笑んだ。


「へへ、そうだろ?アンタにも居るんだろ?」

「あ、いえ・・・私は・・・」


 ハルジオンさんは言葉を濁して黙ってしまった。


「も、もう!デリカシーが無いんだから!すみません、ハルジオンさん。この人いつもこうなんで、お気になさらないでください」

「グフッ!」


 私はプレアデスの脇腹にエルボーを食らわしてハルジオンさんに謝った。


「いえ、こちらこそ上手く返せなくてすみません」


 うわぁ。この人はなんて人間が出来た人なんだろう。先程のプレアデスの問いに対してのハルジオンさんの反応。もしかしたら教会に通っているのは好きな女性に関係があるのかしら。


「プレアデス、昼食は一人増えても平気よね?」

「あ?あぁ、構わねぇけど」

「ハルジオンさん、気分を害したお詫びと言ってはなんですが、これからプレアデスの家で昼食をご馳走させてください」


 いや、私ん家じゃないけどさ。


「いえ、そんな滅相もないです!私はそんな場にお招き頂く資格はありませんから」

「いや、是非ご馳走させてくれ。先程は調子に乗って済まなかったな」


 私の思いを知ってか知らずか、プレアデスは私の言葉に援護射撃をした後、ハルジオンさんに向かって頭を下げた。


「わ!顔をお上げください!上の立場の方が下の者にそんなに気安く頭を下げるものではありません!!・・・あ」


 えっ?ハルジオンさんがプレアデスを(たしな)めた・・・?


「す、すいません!つい、出過ぎた真似を・・・」

「いや、いい。ははは。面白いな、気に入った。お前、どこかの屋敷の教育係か?」 

「・・・何故、そう思われたのですか?」

「いや、俺のとこにもお前の様なやつが居るからな。身分など気にせずに叱ってくれるやつが。“人の上に立つ〜”ってのもそいつの口癖だからな」


 私とアンジュは黙って二人のやり取りを静観した。あれあれ?もしかしてプレアデスってばいい仕事してる?

 ハルジオンさんはプレアデスの指摘に顔を緩ませ、苦笑した。


「ハハ。お見事です。流石、人の上に立つお方は目の付け所が違いますね。確かに私は教育係をしておりました。しかし、先月にお役御免になりましたので、今は無職ですよ」

「そうか。では暇なのだな?俺の屋敷で昼飯を食べる時間くらいはあるよな?」


 プレアデスがここぞとばかりに遠慮無しにグイグイと誘う。確かにプレアデスは強引な所があるけど、人を見る目はあるみたい。うぅ、元ヤン=アホだとか思っててごめんなさい。そういや、前回のテストも私より順位が上だったっけ。前世は公務員って言ってたけど、なんの仕事だったのだろうか。そうプレアデスの前世に考えを巡らせた所で、ふいに私のお腹が空腹を主張しだしてしまった。


グゥゥキュルルルルルル・・・


 一同が一斉に私の方を見た。うわ、空気が読めないのは私のお腹だったぁーーーー!!!


「・・・な?コイツの腹も限界みたいだし」

「フフ。わかりました。是非ご相伴に預からせて頂きます」

「・・・すいません」

「フフ、ジゼルのお腹は素直ですね」

「あ、アンジュまで・・・っ!」


 うぅ、恥ずかしい。けど、一同が笑顔になったのを見たら、今だけは笑われてもいいや、と思った。今だけね。

 

 こうしてハルジオンさんも一緒にプレアデスの屋敷で昼食を採ることが決定したのだった。

 

 それにしてもハルジオンさんが教育係かぁ。でも、一ヶ月前に離職済みだという。ハルジオンさんが礼拝に通い出した時期と一致するわね。だとすれば、ハルジオンさんが元気の無い理由は前職絡みの線が濃厚ね。


グゥゥキュルルルルルル・・・


 馬車内に響き渡るお腹の音。再び一同に微妙な笑いが起こった。とりあえずは人の相談に乗るよりも、このお腹を黙らせる事が最優先事項だと思った。

ここまでお読みくださいましてありがとうございました┏○ ペコリ


以前もお話しましたが、インフル流行っているそうです。空気感染はしないとの事ですので、湿度を高めに保つ事と、手洗いとこまめな水分補給を心がけて予防してくださいね。お野菜とか、ヨーグルトなどが良いらしいですよ。暖かくしてご自愛くださいませ( ´ ▽ ` )ノ

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