第62話
今日はアンジュとプレアデスと私という組み合わせで町はずれの教会に行く予定だ。私は身支度を整えながら昨日の事を思い出していた。
アンジュには双子の姉が居た。しかも彼女はプレアデスルートでのライバルキャラだというのだ。
彼女の存在を知る事がアンジュの為なのか、このまま何も知らない人生を送る方がアンジュの為なのか、どちらがアンジュにとって最良なのかは私にはわからない。
ただ、どちらに転んでも私だけは最後までアンジュの味方でいようと思った。
「ジゼル様、アンジュ様がお見えになりました」
ボニーの報告を受けて、私はエントランスへと急いだ。
「アンジュ、お待たせ」
「ジゼル、今日は私に付き合ってくれて、ありがとうございます」
アンジュはグレーのロングのワンピースという装いで、紺色のリボンが胸元にアクセントをつけている。私も今日は教会に行くので紺色のワンピースに同じ色のリボンを頭につけた。
アンジュは華美な服装よりも、こういう清楚な服装の方がより魅力的に見える。アンジュの美しさの前では、余計な装飾など要らないのだ。
私とアンジュはアンジュの家の馬車に乗り込んで教会へと向かった。
「ジゼル、最近家の庭に青い小鳥がよく来る様になったんですよ。もう可愛くて可愛くて」
いいえ、可愛いのはアナタですよ。アンジュは小鳥の話を嬉しそうに話している。アンジュは小鳥を愛でて、私はアンジュを愛でる。ほんわかとした時間である。
「あ、ごめんなさい。なんだか今日は私お喋りですね!」
アンジュが恥ずかしそうにはにかんだ。ぎゃぁぁぁぁ!何この可愛い生き物は。頭と手足の数は私と同じなのに私とのこの違いったら!あぁ、そっか。アンジュは天使だもの。人間の私と比べる事自体がおこがましいわよね。フッ・・・。私は悟りを開いた気がして遠くの山をみつめた。
ニコニコしているアンジュを見ていたら、ふと、アマルシスに描いてもらったアンジェロを思い出した。アンジュと双子なのだから当たり前なのだが、アンジェロもまた、天使の様な外見だった。ほんわかした天使と、キリッとした天使・・・。うわぁ!それって最強じゃない?なんとか対立せずに済めばいいのだけど。二人が中睦まじく並んでいる光景を見たい!
私はアンジェロとプレアデスを取り合う事になるかもしれない事よりも、アンジュとアンジェロが衝突するかもしれない事のほうが気がかりなのであった。
だって、ホラ。付き合っていないとはいえ、私とプレアデスは両想いなのだから。告白された私がプレアデスが心移りする事はないんだ、と信じなくてどうするのよ。私達はきっと、大丈夫。
「ねぇ、アンジュ。紹介したい人ってどんな方?」
私の問い掛けに、今ここで聞かれるとは思っていなかったのかアンジュが少し身体をビクッと震わせた。
「あ、あのですね。1ヵ月くらい前に日の日の礼拝に来ている男の人なんですけど・・・」
フォーーーーーーーーーー!!!男の人キターーーーーーーー!!!ちょっと、ちょっと!アンジュの口からアルド様以外の殿方の話題が出るなんて、めでたい事じゃないの!で?で?詳しく!!
「なんだか元気が無いので明るいジゼルに会ったら元気になるかもしれないと思いまして」
・・・・・・は?え?そんな理由?いやさ、そこはさ。アンジュが元気づけてあげればいいでしょうよ。なんて、アンジュにそんな立ち回りが出来たら今頃私に恋バナの1つや2つ位してるわよね。っていうか、乙女ゲームの主人公なのになんでそんなにも恋愛に淡白なのよ。前の私みたいに恋愛に踏み込めないトラウマでもあるのかしら。
「あ、あの、ジゼル?迷惑・・・だったでしょうか?」
アンジュがショボンとしてしまった。
「え?あ、いや。全然!!元気が無いって事はなんか悩みがあって教会に来ているのかもしれないわよね!」
「えぇ。ジゼルは昔から私が困っていると、私の欲しい言葉を言ってくれて元気付けてくれたので、きっとハルジオンさんの力にもなってくれるって思ったんです」
「ハルジオンさん・・・」
やっぱり。これから会う方はハルジオンさんで間違いはなかったわね。アンジュは私の事を買い被りすぎだと思う。ずっと幼い頃から一緒に過ごしてきたアンジュと、全くの初対面のハルジオンさんとは違う。ましてや、男の人の相談に乗った事なんて私、自慢じゃないけど一度も無いんだから!あぁ、でも今日はプレアデスも居るから困った時はプレアデスに聞けばいいわね。男の人同士気が合うかもしれないし。
「ジゼル、ハルジオンさんとお知り合いですか?」
私がハルジオンさんの名前を呟いて黙ってしまったので、不思議そうに私に問うた。
「ううん。ハルジオンってお花の名前だったなぁって考えてたのよ」
「あ、ジゼルもそのお花知ってましたか!小さくて控えめな可愛らしいお花ですよね」
アンジュは私の答えに納得した様だった。ふぅ、危ない危ない。知っている事を知らないふりをするのもなかなか骨が折れる。しかし、アンジュの恋路の為ならば多少うしろめたくても我慢せねばなるまい。
「あ、着きました。多分今日もいらっしゃると思うのですが・・・」
アンジュがハルジオンさんを探してキョロキョロしているのに対して私はプレアデスを探してキョロキョロと辺りを見回した。そういや、こうしてプレアデスと待ち合わせをしてどこかに出掛けるのは初めてかもしれないわね。
ふと教会の脇の大きな木にもたれて立っている男性に目が留まった。それは黒いオーバーコートを着たプレアデスであった。ふいに目が合ってしまい、私の心臓がドクンと跳ねた。うぅ・・・格好いい。ヤバい。ドキドキする。
「ジゼル!おっす!あれ?アンジュは?」
「え?今まで一緒に居たけど・・・あれ?どこに行ったのかしら」
私が辺りを見回すと、アンジュは教会から少し離れた川のほとりに立っていた。あ、アンジュと一緒に居るのは・・・。
薄いプラチナブロンドのふんわりとした髪の線の細そうな殿方に話しかけているアンジュを見て、この人がハルジオンさんなのだと直感で思った。アマルシスの話ではハルジオンさんはまだ創作中だったと言うが、こうして存在しているのだと知ったらさぞかし驚くだろう。このハルジオンさんはアマルシスが思案していた通りのキャラクターなのだろうか。
「なんだ?アンジュの彼氏か?」
「多分、違うと思うけど。そうなったら素敵よね」
私とプレアデスはもはや出歯亀みたいになっていた。何を話しているだろうか。アンジュが積極的に殿方に話しかけに行ったのが物凄く珍しく、新鮮だった。あ、こっちに来る。アンジュが私達を指差してハルジオンさんと共にこちらに向かって歩いてきた。
「ジゼル、プレアデス様!お待たせしました。こちらハルジオンさんです」
「どうも、ハルジオンです」
「ハルジオンさん、こちらがお話していた従姉妹のジゼルとプラネタリアの王子、プレアデス様です」
「なんと、隣国の王子様でしたか!知らずに普通の挨拶をしてしまいました」
「あぁ、畏まらなくていい。今日は私事で来ているから余り目立ちたくないんだ」
「そうですか・・・恐縮です」
目立ちたくない、と言う割には黒のオーバーコートとか凄く目立つし、格好良さは全然隠せていないな、と思った。けど、それを口にしたらなんだか私ばっかりがプレアデスの事を好きみたいなのが悔しいから言わないけど。
私のハルジオンさんの第一印象は『儚げ』な印象だった。確かアマルシスの話では教会に懺悔に来ているのよね。よっしゃ。ここは一肌脱いでアンジュとハルジオンさんの恋を応援しようではないか!
私は密かに内なる野望という炎をメラメラと燃やしていたのだった。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました┏○ ペコリ




